瘴気地帯突入
瘴気地帯の前で、僕達は一旦立ち止まった。
「みんな、準備はいい?」
樒がそう言ったときには、ミクちゃんは右腕に黒い数珠を巻き付けていた。
僕も退魔銃を抜いて、弾を込める。
「僕はいつでもいいよ」「あたしも大丈夫」
正面の瘴気地帯では、数多くの浮遊霊が集まってきていた。
落ち武者姿の霊が多いところをみると、この辺りは古戦場だったのかもしれない。
落ち武者の他にも、旧日本陸軍の軍服姿の霊。
手に鎌を持っている下半身を失った少女。
長い黒髪で顔を覆い隠している白いワンピース姿の女。
青いマントの男。
やたら身長の高い、白い大きな帽子をかぶった女。
他にも不気味な姿の霊が、これでもかというくらい集まって来ていた。
これって、自然に集まった霊じゃないな。
さっき瘴気地帯に入った時も、こんなに多くの霊は集まってこなかった。
魔神が浮遊霊達に、僕達の邪魔をするように指示を出していると考えて間違いはないだろう。
でも、こんな手段を使ってくるという事は、向こうもかなり追い詰められているという事か。
マンションの白い壁を見ると、さっきまで移動していた光点が止まっている。
どうしたのだろう?
空き部屋に入って時間稼ぎでもする気か?
「ねえ、優樹君、樒ちゃん」
ミクちゃんが光点を指さしている。
「あそこって、エレベーターがあるんじゃないかな?」
エレベーター! そうか、エレベーター待ちで立ち止まったのか。
そうなると、奴はすぐに一階まで降りてくる。
マンションの外へ逃げられるとやっかいだな。
「時間がないわね。突破するわよ」
そう言って樒は、右手を前へ突き出した。
「臨・兵・闘・者・皆・陳・烈・在・前!」
樒の九字切りで、集まっていた浮遊霊の群れに穴が開く。
その穴に向かって、僕たちは駆け込んだ。
「どこへゆく~」「いかせぬぞ~」「ぽぽぽ」「テケテケテケ」
マンション入り口へ向かう僕達に、樒の九字切りでは払いきれなかった浮遊霊達が群がってくる。
退魔銃を撃ちまくって撃退しているが、払う側から新手の浮遊霊が群がってきた。
切りがない。
「二人とも、ちょっと待って」
そう言ったミクちゃんは、左右の手に人型を持っていた。
式神を召喚するのか。
「出よ! 式神」
黒い大きな鬼アクロと、金色の竜オボロが出現。
「ぐおおお!」
群がる浮遊霊を、アクロとオボロが蹴散らしていくが……
「ミクちゃん。式神二体を同時に出して大丈夫なの?」
「だ……大丈夫」
そう言っているが、ミクちゃんの額には脂汗が光っている。
あまり無理をさせられないな。
「樒! 急ごう!」
なんとかマンションの玄関までたどり着いた時、野球帽をかぶった男の子が、玄関から駆けだしてきた。
男の子は、そのまま僕達の横を通り過ぎる。
寒太か?
「待ちなさい!」
そう叫んで樒は男の子を追いかけた。
やはり寒太か?
僕も樒の後から寒太を追いかけようとしたとき、ミクちゃんが叫んだ。
「待って! 樒ちゃん! 優樹君! その子寒太君じゃない」
え?




