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霊能者のお仕事  作者: 津嶋朋靖
嫌悪の魔神

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242/289

死神の香炉

 すまない、寒介さん。どうやら、息子さんを助ける事は無理かも……


 予想外に早く戻ってきた後輩の姿を見て、ロックさんも顔をひきつらせていた。


「お……おまえ……ちょっと、早すぎないか?」


 それに対して、シーちゃんはキョトンとした顔で答える。


「え? いつも、遅いって怒られているのに……」


 何も今回に限って、早く終わらせなくても……


「いや……それはそうなのだが……もう許可証が出たのか? まだ三分しか経っていないのだが……俺だってこんなに早くは……」

「え? 許可証? まだですけど……」


 え? 違うの?


「じゃあ、なぜ戻ってきた?」

「緊急寿命終了の申請書を書き始めたのですが、よく見たら死神の登録番号を書く欄が二つありまして……どうやら二柱の死神が、直筆で登録番号を書かないと申請できないようなのですけど……」


 なあんだ。一気に脱力した。


「いけね! 緊急寿命終了の申請なんて久しぶりだったから、俺もすっかり忘れていたぜ」


 シーちゃんの持っている書類には、手書きで『四一二二』と書いてある欄があった。


 これがシーちゃんの登録番号のようだ。


「先輩、登録番号を書いて下さい」

「ああ、分かった。ちょっと待っていろ」


 ロックさんは、シーちゃんから受け取った書類に『六〇九』と書き込む。


「ありがとうございます。では、なるべく早く戻って来ますので」


 いや、なるべくゆっくり戻ってきてほしいのですけど……


 シーちゃんが再び消えた後、ロックさんは懐から銀色の香炉を取り出してベンチの上に置いた。


 その香炉に線香を立てて火を灯すと、周囲に白い煙が広がっていく。


 仄かな香りが、僕の鼻孔をくすぐった。


 不意にロックさんは、寒太の方を振り向く。


「悪霊化を遅らせる効果があるお香だ。この煙を浴びている間は、悪霊化を遅らせる事ができる」


 さっきロックさんが言っていた悪霊化を遅らせる神器って、これのことだったのか。


「この煙を浴びていたら、俺は悪霊にならないで済むのか?」

「完全には無理だが、少なくとも後輩が帰ってくる前に悪霊化するという事態は防げる」

「でもさ……」


 寒太は瘴気地帯の方を指さす。


 その指さす先にあるのは、十階建のマンション。


 部屋数は三十~六十はあるだろう。

 

「この中から俺の身体を、一時間で探し出せるのか?」


 ううん、ちょっと難しいかな。


「大丈夫だ。少し問題はあるが、方法はある」


 ん?


 寒太が光り始めた。


「これもお香の効果だ。お香の煙を浴びた霊体は、光を発するようになる」

「ロックさん。この光って、普通の人にも見えるの?」


 樒の質問に、ロックさんは首を横にふる。


「この光は霊能者にしか見えない。それに君達はこれを光として認識しているが、厳密には光……所謂(いわゆる)電磁波ではない」

「光じゃないの?」

「ああ。まだ科学的には、未発見だったと思うが……」


 ロックさんは、霊界スマホを操作した。


「お! まだあまり広くは知られていないが、ルスラン・クラスノフという物理学者が、プシトロンパルスという名前で発表しているな」


 プシトロンパルス? それって、放射線か何かでは?


「放射線の一種だが、被爆の心配はないから安心してくれ」


 話をしている間に、寒太の光はさらに強くなり、魂の緒まで輝き始めた。


 ロックさんはマンションの方を指さす。


「しばらくしたら、寒太の身体も輝き始める」


 ロックさんが言い終わらないうちに、マンションの壁の一カ所に光点が現れた。


 あの光の方向に、寒太の身体があるのか!?

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