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霊能者のお仕事  作者: 津嶋朋靖
嫌悪の魔神

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239/289

嘘つきは悪霊の始まり

北条(ほうじょう)菖蒲(あやめ)だって!?」


 一緒に聞いていた樒も驚いていた。


「それは、ずいぶん昔の人ね」

「いや、それほど昔の人では……」


 まだ、北条菖蒲を除霊してから一ヶ月も経っていないと思うけど……


「いや昔の人でしょ。ええっと、鎌倉幕府の成立は一一九二年(いいくに)だっけ? 一一八五年(いいはこ)だっけ? とにかく源頼朝の奥さんなら、そのぐらい昔の人で……」


 そっちかい!


「それは北条政子!」

「あれ? 違った?」

「ぜんぜん違うよ!」


 瓶の中では、僕と樒の会話を聞いていた悪霊も呆れ顔になっている。


「おいおい、北条政子なんて、俺が生きていた時代よりもずっと昔の人間だろう」

「ちなみに、あんたが生きていた時代って、いつ頃?」

「おまえらに分かるように言うなら、鎌倉時代だな」

「鎌倉時代!」


 不意に樒が目を輝かせた。


「じゃあさ、鎌倉幕府の成立した年って、一一九二年(いいくに)一一八五年(いいはこ)どっちが正しいの?」

「知るかよ! 俺が生きていたのは、鎌倉時代と言っても鎌倉幕府末期だ。俺が死んだ戦も、中先代の乱だしな。そもそも、その時代の日本人は西暦なんて知らねえよ」

「なんだ、がっかり。次の日本史のテストで、良い点取れると思ったのに……で、北条菖蒲って誰だっけ?」


 あのなあ……


「北条菖蒲って、樒が悪霊回収瓶で最初に回収した悪霊だよ。忘れたの?」

「ああ! 思い出した。あの時のエロ悪霊ね」


 エロ悪霊って……まあ、色情霊だから間違いではないか……


「北条菖蒲の家には、過去に何らかの魔神を召還した痕跡が残っているって、ネズ子が言っていたんだ」

「じゃあ、その時に召還された魔神というのが、ラーガ、アラティ、タンハーというわけ?」

「そうらしいね」

「なるほど。しかし、哀れなものね。自分の召還した魔神に、使役されるなんて」

「まあ、今頃は霊界で反省しているんじゃないかな」

「あ! いっけなーい!」

「どうしたの? 樒」

「私、悪霊回収瓶を、逝けない霊の日に出しておくのを忘れていたわ」

「え? じゃあ、北条菖蒲の霊は?」

「まだ瓶の中……」


 瓶にそっと手を触れると、悪霊の叫び声が聞こえてきた。


「こらあ! てめえ、騙しやがったな!」


 いや、騙したつもりはないのだが……


「この中に北条菖蒲がいたぞ! てめえ、何もかも知っているくせに、知らないふりしていたな」


 まあ、知らないふりをしていたのは確かだが……


「北条菖蒲の話では、一度ここに入った悪霊は人間には外へ出すことはできないそうじゃないか」

「樒。そうなの?」

「うん。一度瓶に吸い込んだ霊は、人間の権限では出せないって」


 悪霊の叫び声はさらに続いた。


「出せないくせに、出してやるなんて騙しやがって」


 瓶から出してやるなんて一言も言っていないけどね。


「この嘘つきが! 嘘つきは悪霊の始まりだぞ!」


 スマホの着信音が鳴ったのはその時。


 相手はミクちゃん!


「ミクちゃん。どうしたの?」

『優樹君。樒ちゃん。すぐに戻ってきて。死神さんが戻ってきたの』


 とうとう来たか。

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