樒は失敗したのか?
前回は樫原に担がれて入ったリビングルームに再び入った時、寒太の継母はソファでタブレットを見ながらくつろいでいた。
「奥様。寒太坊ちゃんの居場所が、分かったそうです」
婦人は、僕達の方へ顔を向ける。
「あら? 速かったわね。それで、報酬はいくら欲しいのかしら?」
「報酬は、いらないそうです」
「あら? そうなの?」
「そうだよな?」
樫原は、念を押すように僕を睨みつける。
「もちろん報酬はいりません。ですが樫原さん。そうやって怖い顔で僕を睨みつけながら言うのは、誤解を招くからやめた方がいいですよ」
「なに?」
「知らない人が見ると、報酬を断るようにあなたが僕に強要したかのように見えますけど」
「なに! 貴様、今更なにを言って!」
「樫原」
「はい。奥様」
「坊やの言う通り、私にはおまえが脅迫して報酬を辞退させたように見えたのだけど……違うのね?」
「ち……違います! 奥様……私は……」
「ほら、言ったじゃない。誤解を招くって」
「やかましい!」
「とにかく。僕としては、報酬の件は辞退させていただきます」
「なぜ? お金が欲しくないの?」
「いいえ。お金は欲しいですよ。でも、世の中には受け取ってはならないお金もありますので」
「私の報酬は、受け取ってはならないものなの?」
「それはグレーゾーンですので、受け取っても問題はないかもしれません。でも、そういうお金を受け取って、後で破滅した人はいっぱいいるので」
「用心深い子ね。で、寒太はどこにいるの?」
「説明しますから、そのタブレットに地図を表示してもらってもいいですか?」
「え? 良いわよ」
婦人はタブレットを操作して地図を表示した。
「では、ちょっと失礼します」
僕はタブレットを操作して、地図の一カ所を拡大した。
そこはさっき僕達が入った瘴気地帯。
そこにあるマンションを指さす。
「この建物に、寒太君はいます」
「ここに?」
「当初の予定では、寒太君を見つけたら僕達が連れ出すはずでした。ところが、やっかいな事がありまして」
「やっかいな事?」
「ここは瘴気地帯という場所で、霊能者は入りにくい場所なのです。そのため、寒太君がこの建物に入ったのは確認しましたが、どの部屋にいるかまでは……」
「部屋は分からないけど、そのマンションにいるのは確実なのね?」
「はい。だから、ここは警察を呼んで……」
「必要ないわ」
え?
「樫原」
「はい。奥様」
「若い衆を、集めてちょうだい」
「は!」
若い衆って? ここって、そういう業界だったの?
バタン!
突然、リビングルームの扉が開いて中年男性が転がり込むように入ってきた。
誰だろう?
「あなた! どうされたの?」
婦人が『あなた』って呼んだって事は、この男性が寒太の父親?
憑いていた悪霊は、どうなったのだろうか?
樒は、失敗したのかな?




