樒には聞かせたくない事
「坊ちゃんの居場所が、分かっただと? 嘘ではあるまいな?」
樫原は、背を屈めて顔を近づけ、舐め回すように疑り深い視線を僕に向けた。
「本当です。なぜ、僕がそんな嘘を言う必要があるのですか?」
「嘘を言う必要? あるだろ。報酬目……ウグ!」
危ない! 危ない!
樫原はたぶん、『報酬目当てに出鱈目を言っている』とでも言うつもりだったのだろう。
しかし、ここでそれが樒の耳に入ったら、それこそ報酬目当てにロクでもない事を言い出しかねない。
そんなわけで樫原の口を塞いだのだが……
「何をする!?」
口を塞いだ僕の手は、あっさりとふりほどかれた。
「樫原さん。ちゃんと説明しますから、家の中に入ってもらって良いですか」
「なぜだ?」
僕は樫原の耳に口を寄せた。
「彼女に、聞かれたくないのですよ」
「だから、なぜだ?」
「僕が信用できませんか?」
「できんな」
「入れ墨の事は、黙っていて上げたでしょ」
「う……」
樫原は途端に顔をしかめる。
「いいだろう。付いてこい」
僕は樒の方を振り向く。
「樒は、ここで待っていて」
「え?」
呆気にとられる樒に、僕は目配せする。
「ああ、分かったわ」
これで良し。樒さえ、ここにいれば作戦に支障はない。
僕はそのまま、樫原に付いて屋敷へ入っていった。
玄関に上がったところで、樫原は僕に尋ねる。
「なぜ、彼女に話を聞かれたくないのだ?」
「奥さんがこの件で、報酬を出すと言っていたでしょ。それを聞かれたくないのですよ」
「ふん! せこい奴だ。報酬を独り占めしたいのか」
「そうじゃありません。そもそも、僕は報酬を辞退したでしょ」
「ふん! そんなの当てになるものか」
疑り深い人だな。
「もちろん僕は無欲な人間ではありませんし、お金はあるに越した事はありません。ですが、僕達はこの件の報酬は、すべて霊能者協会から受け取ることになっています。別口からも報酬を受け取ったりして、後でそれが問題になったりするのがイヤなので、報酬を辞退したのです」
「ふん! それならなぜ、彼女に報酬の話を聞かせたくないのだ?」
「樫原さん。別室で奥さんに言っていましたよね。霊能力を利用して、大金を巻き上げる奴がいるって」
「確かに言ったが、なぜ別室での話を知って……そうか。寒太坊ちゃんの霊が、立ち聞きしていたのだったな」
「ええ。で、彼女が、その大金を巻き上げる霊能者なのですよ」
「え? そうなのか?」
「そうです。今は僕が監視役をやっているので、そういう事はしていません。だけど、あいつは今でも金の話を聞くと目の色変えて食いついてくるので、あいつの前で金の話をしたくないのですよ」
「そ……そうなのか?」
「ええ。ですから彼女の前では、絶対に金の話をしないで下さい。刺青の件は黙っていてあげますから」
樫原は一瞬顔をしかめてから頷いた。




