水神様
声の聞こえた方向に目を向けると、そこにあったのは水神様の祠。
その祠の横にある石灯籠の上では、金色の蛇がトグロを巻いていた。
蛇と言っても、このあたりに多くいる山かかしとは明らかに違う。
いや、山かかしに限らず、金色の蛇なんてこの周辺にはいない。
そもそもこの蛇、本物の蛇ではなく霊的存在だ。
それも神レベルの……
蛇の姿をした神様ということは……
「水神様ですか?」
「いかにもニョロ」
どうやら、この蛇は祠に奉られている水神様らしいのだが……語尾にニョロをつけると、威厳が無くなるなあ。
ん?
僕の横では、樒が必死な形相で水神様に手を合わせていた。
「樒……何をしているの?」
「何言っているのよ! 蛇神様と言ったら、金運を授けてくれる神様よ。しかも金色の蛇なら、すごい金運を授けてくれるに違いないわ」
あっそう……
「そこの女。金運は、そんな簡単に授けてやらないニョロ」
「そんな事言わないで授けて下さいよ。手を合わせるだけで足りないなら、土下座でも五体投地でもやります」
「そんな事をしても無駄にょろ。金運がほしければ、そこの女の様に……」
水神様は、お婆さんの方に視線を向ける。
「毎日ワシに、美味しい酒をお供えするニョロ。そうしたら、考えても良いニョロ」
そういえば、蛇系の神様は酒が好きって言うな。
「あらあら」
それを聞いてお婆さんは微笑む。
「私の買った株が、不思議とよく値上がりすると思っていたら、水神様の御利益でしたか。ありがとうございます。お陰様で、豊かな老後を送れました」
「いやいや、美味しい酒をもらったのだから当然ニョロ」
それを聞いて樒は目を輝かせる。
「お酒ですね! お酒をお供えすればいいのですね! 分かりました! 毎日お酒をお供えします」
「おまえには、無理ニョロ」
「え? どうしてですか?」
「おまえ、歳はいくつニョロ?」
「十六です」
「今の人間の法律では、二十歳未満は酒を買えないはずニョロ」
この神様、人間の事情に詳しいな。
「え? いや、自分で飲むわけじゃないから、買うだけなら」
「だめよ。お嬢ちゃん」
そう言ったのは、お婆さん。
「お酒を買うときは、店員さんに年齢を確認されるから、自分が飲まなくても買うことはできないわ」
「え? そうなんすか? そうだ! 自動販売機なら」
「樒、やめとけ。女子高生が自販機で酒を買っているところを誰かに見つかったら、通報されるぞ」
「そ……そっか」
「それより、君達。さっきから、死神が迎えに来ているニョロ」
え?
水神様の言うとおり、いつの間にか僕らの背後に少女死神……シーちゃんが立っていた。
「あらシーちゃん?」
樒がシーちゃんに手を振る。
「どうも……こんにちは」
「このお婆さんのお迎えって、あんただったの?」
「はい。死神は、神手不足なもので……」
「いるなら、声をかけてくれても……」
「いえ、みなさんの用事が済むまで待とうと思って……」
「そんなことを気にする事ないニョロ。この者達の質問には、僕が答えておくニョロ。死神は、その女を連れていっていいニョロ」
「そうですか。それでは、お婆さん。魂の緒を切りますね。えい!」
シーちゃんが鎌をふるい、お婆さんの頭から延びていた魂の緒は切断された。
「ところで……」
シーちゃんは、寒太を指さす。
「寒太君の悪霊化、かなり進行していますね」
「え? 俺、そんなにひどいの?」
「ええ。悪霊化する寸前ですね」
シーちゃんは、僕達の方を向き直る。
「このお婆さんを案内したら、先輩を連れてきますので、ここで待っていてもらってもよろしいですか?」
「シーちゃん。待っていてもいいけど、私達は人間なのだから、あまり長時間は待てないわよ」
「分かりました。一時間待っても、私が戻らなかったら、ここから移動して下さい。ただ……」
シーちゃんは、路地の入り口を指さす。
「くれぐれも瘴気地帯には、入らないで下さいね」
そう言って、シーちゃんはお婆さんを連れて消えていった。




