暗渠
「ここは?」
そこは、緑に囲まれた細長い小径になっていた。
路地で発生していた瘴気も、ここまでは流れてこない。
見回すと、小径の脇に小さな祠が目に入る。
奉られているのは、水神様のようだ。
水神様という事は……
「どうやら、ここは暗渠のようだね」
「優樹君。暗渠って何?」
「ミクちゃん。暗渠というのは、小川などに覆いをかぶせたりして上から見えなくした水路の事だよ」
「そっか。じゃあ、この小径の下には水が流れているのね。だから、瘴気が無くなったんだ」
ミクちゃんの言うとおり、水の流れがある場所では気が清められるらしい。
だから、路地の瘴気もここまで届かないようだ。
「優樹。帰りは路地を通らないで、暗渠から帰った方がよくない? 私達はともかく、寒太がもたないわよ」
樒の言う通り、寒太の悪霊化はかなり進行していた。
もう一度瘴気地帯を抜けたら、今度こそ悪霊化してしまうかもしれない。
「そうだね。近くに地縛霊は……?」
いた!
石造りのベンチに、和装のお婆さんが腰掛けている。
さっきの瘴気地帯にいた霊と違って、このお婆さんの周囲は清浄な気に満ちていた。
「すみません。少し、お話よろしいでしょうか?」
お婆さんは徐に僕の方へ顔を向けると、にっこりと微笑みを浮かべた。
「おやおや、可愛らしい子ですね。私の姿が見えるのですか?」
「はい。霊能者ですから」
「そうでしたか。私はもうすぐ死神さんがお迎えに来てくれるので、生きているときに大好きだった、この蛇川緑道で待っているところです」
「そうでしたか」
「ですから、死神さんが迎えに来るまでの間でしたら、お話できますがそれでもよろしいですか?」
「はい。大丈夫です。お手間は取らせませんので」
「そうですか。それで、私になんの用かしら?」
「はい。実は……」
僕は寒太を指さす。
「昨日、この男の子が路地から出てきたはずなのですが、見かけなかったでしょうか?」
「昨日? あら、困ったわね」
「何か問題でも……」
「私が亡くなったのは、今朝の事なのよ。昨日はずっとベッドで寝ていたから……」
「そうでしたか」
「でもね。この男の子には、確かに見覚えがあるのよね」
え?
「そう。まだ生きている時に、この近くで見かけているのよ」
「え? どこで見たのですか?」
「ううん……どこだったかしら?」
お婆さんが考えこんだ時、背後から声をかけられた。
「君達。僕は昨日もここにずっといたけど、路地からその悪ガキは出てこなかったニョロ」
誰?




