地縛霊おじさん
「すみません。昨日、この子を見かけませんでしたか?」
五十代くらいの地縛霊おじさんに僕達が声をかけたのは、交番を離れて数百メートル行った先での交差点。
ここまで来る途中でも、何人か地縛霊に声をかけたのだが、やはりアラティから脅迫を受けていたのか話したがらない。
この霊はどうだろ?
おじさんは、しばし寒太を見つめた。
「ああ。この子なら、昨日見たぞ」
よかった。脅迫は受けていないようだ。
「それで、どっちへ行きました?」
「そこの横断歩道を渡って行ったよ」
地縛霊おじさんが指さす方向に、僕達は視線を向けた。
押しボタン式信号機がある横断歩道を渡った先に、バス停がある。
まずいな。
もし、そこからバスに乗られたら追跡は困難になるぞ。
「横断歩道を渡った後は、どっちへ行きました?」
「左に曲がって、そこの細い道に入って行ったぞ」
バスには乗らないで、路地に入って行ったのか。
これで追跡できるな。
「ありがとうございます。助かりました」
「いいって事よ。それより、お供え物を頼むな」
「供え物?」
おじさんが指さす先の道ばたには、花束が供えられていた。
事故現場でよくある光景だな。
「おじさんは、ここでお亡くなりに?」
「ああ」
聞いてみると、二週間ほど前にここで暴走車に轢かれたらしい。
「じゃあ、あたしちょっと、お供え物買ってきます」
そう言ってミクちゃんは、目前にあったコンビニへ入って行った。
「ああ、そうだ!」
樒が思い出したかのように声を上げる。
「ねえねえ、おじさん。この子が通った後で、何か変な奴が来なかった?」
「変な奴? どんな奴じゃ?」
「人間みたいだけど、人間じゃない奴」
おじさんはしばし考えてから答える。
「そういえば、変な女の子が二人通ったな」
「女の子が二人? それは、姉妹だった?」
「うむ。姉妹の様だった。ただ、あの女の子達は生きている人間のようなのだが、禍々しい気配を漂わせていたな」
「そう! そいつら! そいつら、おじさんに何か言ってこなかった?」
「いや、何も……ただ、女の子達はしばらく俺を見てから、小さい方の女の子が俺を指さして『どうするぞよ?』とか言っていた」
今おじさんは『ぞよ』と言っていたな。
では、やはり女の子の一人はタンハー!
「妹からそう言われた姉ちゃんの方は、なんかエラい疲れたような顔をして『もう疲れたから放っておこう』と言っていた」
脅迫も疲れるようだな。
「その後『どうせ、奴らもここに来るまでに、あきらめるわよ』とか言って妹を連れて帰って行ったな」
残念、僕達はあきらめなかったのだな。
「お待たせ」
ミクちゃんが戻ってきたのはその時。
おじさんにお供え物をすると、僕達は先へ進んでいった。




