自分がやられて嫌だと思うことを人にやるな
「君は?」
と、僕が声をかけたとたん、女の子は踵を返して走り去っていった。
あの子はいったい?
「今の子がそうよ」
そう言ったのは柿見巡査。
「どういう事ですか?」
「だから、交番の裏で、怪しい人達がいるって言っていた子」
なんだって!?
どういうつもりだろう?
様子から見て、あの女の子は僕達がやっている事を知っているようだ。
知った上で僕達を通報したという事は、意図的な妨害なのか?
しかし、なんのために?
「寒太。今の女の子、知り合いなのか?」
ん? 寒太の奴、僕の質問には答えないで呆然としていた。
聞こえなかったのか?
「有村……」
寒太は、ぽつりと呟く。
有村?
確か、寒太がイジメていた娘……有村澄香って名前だったな?
「寒太。今の女の子が、有村さんなのか?」
寒太はコクっと頷く。
「生き返らせないでって……有村……俺のことをそんなに嫌っていたのか?」
はあ? 今更何を言ってるんだ、こいつ……
「寒太……なぜ、有村さんから嫌われていないなんて思うんだ? 今まで、嫌われて当然の事を散々していたのに」
「え? 俺、嫌われるような事なんてしていないぞ」
「今まで、あの女の子をイジメていだだろう!」
「だって……ママは、パパからイジメられると喜ぶぞ」
うわあ! そういう夫婦だったのか!
てか、そういうのを子供に見せるな!
「寒太君」
ミクちゃんに声をかけられ、寒太は振り向いた。
ミクちゃんは少し怒っているようだ。
「君は、あの女の子の事が好きだったの?」
「え? まあ、そうなるかな」
「ふうん」
ミクちゃんが寒太に向ける視線は、いつになく冷たい。
「あのねえ、イジメられて喜ぶ女の子なんていないよ」
「え? でも……ママは……」
「君のお母さんなんか関係ない! 普通は、君が有村さんにやったような事されたら、女の子は君のことを大嫌いになる!」
「え? そうなの?」
「じゃあ聞くけど、樒ちゃんが君を殴ったり、優樹君が君を銃で撃ったりしたわよね。君はそんな事をされて、嬉しかったの?」
「嬉しいわけないだろ!」
「有村さんだって同じよ! 君にイジメられて嬉しいわけないでしょ!」
「え?」
言葉に詰まった寒太に、僕は声をかけた。
「寒太。学校の先生から言われなかったか? 『自分がやられて嫌だと思うことを人にやるな』って」
「いや、良く言われるけど……」
「じゃあ、なぜそうしなかった?」
「いや……先生の言うことなんか、聞く必要ないとパパが……」
ある意味、こいつは親に恵まれなかったんだな。
寒太の父親は金を持っていても、人を思いやる気持ちが欠如しているんだ。
寒太は、その影響を受けてしまったのだな。




