『後を頼む』と言われても何をすれば?
寒太の身体が逃げ出したのは交番。
なので僕達は、途中でミクちゃんと合流した後、交番へと向かった。
さて、地縛霊はいるかな?
交番近くで霊視してみると、いくつかの霊がいた。
この中で状態のよさそうなのは……
近くにいたお爺さんの霊に話しかけてみた。
「ひいい! ワシは何も知らん! 知らん!」
お爺さんはなぜか怯えた顔をして、僕から離れようとする。
もっとも、地縛霊なのでこの場所から離れることはできないのだが無理強いは良くない。
「すみません。無理ならいいです」
しかし、別の霊に声をかけても……
「知らない! 僕は何も知らない!」
「あたしゃ関係ないよ!」
どういう事だろう? 交番周辺の霊が、なぜか僕の質問をいやがる。
「ねえ、優樹君。あの人なんか良いんじゃないかな?」
ミクちゃんが指さしたのは、白バイ隊員の制服を纏った霊。
状態は良さそうだしいいかな。しかし、さっきまであんな霊いたかな?
「あの、すみません。ちょっとよろしいですか?」
僕に声をかけられて、白バイ隊員は振り向く。
「俺を呼んだのか?」
「そうですけど」
「じゃあ、俺の姿が見えるのだな?」
こういう事を聞くと言うことは、霊だという自覚はあるのだな。
「ちょっと、お聞きしたい事があるのですが……」
そこまで言ってから、僕は気がつく。
この白バイ隊員の頭から、魂の緒が延びていることに……
「ミクちゃん、この人は生き霊だよ」
「え? あらやだ。ずいぶん生きのいい霊だと思ったら、生き霊だったのね」
生きがいいという事はないと思うが……
「確かに俺は、さっき三途の川から追い返されてきたばかりだが……」
臨死体験中の人だったか。さっきまでいなかったはずだ。
「俺が生き霊だと、何かまずいのか? 」
「ああ、すみません。地縛霊の方から、昨日ここで起きた事を聞こうと思って声をかけたのですが、生き霊の方では無理ですね」
「地縛霊から? あ! これはひょっとして霊能捜査ってやつか?」
え? 父さんが極秘でやっていた事を、なんでこの白バイ隊員は知っているのだ?
「いや、噂で聞いたことあるんだよ。一部の刑事が、霊能者を使って、地縛霊から事情聴取する捜査をしているって」
なるほど。父さんのやっていたことは、警察内部でも噂になっていたのか。
「ところで、臨死体験中のあなたがなぜこんなところに? 生きているなら、早く身体に戻った方がよろしいかと……」
「俺もそう思うのだが、ここの婦警が俺のことを心配していると思って、生き返る前に無事を知らせておこうと思ったのだが……」
話を聞いてみると、どうやらこの白バイ隊員……名前は白石というそうだが、昨日この交番に立ち寄った時に、暴漢が交番を襲撃する事件があったらしい。
その時に婦警を庇おうとして、白石巡査は暴漢に刺されたそうだ。
「もう、俺もダメかと思ったのだが、三途の川まで来たときに、川向こうから三年前に死んだ爺さんが来て『おまえがここへ来るなど四十年早い! とっとと帰れ!』と言われて追い返されてきた次第だ」
つまり、この人は後、四十年は生きるのか。
「それで、身体に戻る前に婦警に俺の無事を伝えようとしたのだが、彼女には霊感がなくてな。俺の声が聞こえないようだ」
「ねえねえ、お巡りさん」
樒が白石巡査に向かって、右手の小指を立てる。
「その婦警さんって、お巡りさんのこれ?」
白石巡査は顔を赤らめた。
「そうなりたいのだが……なかなか言えなくてな」
ん? 白石巡査の姿が歪んできた。
「どうやら、身体に戻らなきゃならなくなったみたいだ。じゃあ、後を頼む」
そう言って白石の姿は消える。
いや『後を頼む』と言われても何をすれば?




