子供に集るんじゃない!
「寒太君の継母さんに、悪霊が憑いているというのですか?」
シーちゃんの問いに、僕は頷いた。
シーちゃんは、しばらく考え込んでから口を開く。
「その可能性はありますね。確かに直接悪霊を人に取り憑かせて負の感情を増大させるよりも、一人の人間を操って周囲の人間の負の感情を増大させる方が効率いいし、私達死神からも気付かれにくいです」
「ああ、でも、今僕が言った事はあくまでも推測ですので……」
「分かっています。とにかく、この事は先輩に相談いたしますので……」
そう言って、シーちゃんは何処かへと帰って行った。
「おい。今言っていた事って、どういう事だよ? ママに、悪霊が憑いているって?」
寒太の方を見ると、不安そうな顔をしている。
「あくまでも推測だよ。僕の思い違いかもしれない」
「でも……」
ん? 寒太の奴どうしたのだろう?
「俺……今のママ、嫌いじゃなかったんだよ」
嫌いじゃなかった?
「今は、嫌いなのか?」
「分からないよ。でも、前は好きだった」
「いつから、好きじゃなくなったのだ?」
「パパと結婚してから……」
結婚してから? ということは……
「じゃあ、寒太の継母は、元々は家政婦か何かだったのか?」
「うう……良く分からないけど、ベビーシッターって言っていた」
寒太の父親は、元ベビーシッターと結婚したのか。
「結婚する前のママは優しかったのに、結婚してからは怖くなった。急に怒ったり、俺を叩いたり……でも、それって悪霊に取り憑かれたせいだったのかな?」
ううん……どうなのだろう?
「なあ。ママに悪霊が憑いているなら、祓ってくれよ。あんたら、霊能者なんだろ」
「それは……」
「寒太」
不意に樒が口を挟んできた。
「あんたのママに悪霊が憑いているのなら、私達は祓うわよ。それが霊能者の仕事だから」
「本当に?」
「ただし、悪霊を祓ったからと言って、ママが優しくなるかは保証できないからね」
「それでもいいよ。頼む。ママの悪霊を祓ってくれたら、お礼をするよ」
「は、子供のお礼なんて大して……」
「生き返ったらだけど……俺だって少しぐらいは貯金があるし……」
「少しって、どんぐらいよ?」
「六百万円」
金額を聞いたとたん、樒の態度は豹変した。
「おまかせ下さい。この神森樒が、お母様に取り付いた不埒な悪霊、祓ってみせましょう」
「本当に!?」
「そして、謝礼の方は……」
「こら! こら! こら! 樒!」
「優樹。これは不正請求じゃないわよ。向こうが、くれると言っているんだから……」
「子供に集るんじゃない!」
「子供に集っちゃいけないのね。じゃあ、大人なら……」
僕は無言で、懐からスマホを取り出して操作した。
「優樹。どこに電話しているのよ?」
「芙蓉さん」
「だあ! やめて! 冗談だから。私はただ、場を和ませようと……」
僕はスマホを懐に戻した。
「なんだ冗談だったのか。分かりにくい冗談はやめようよ。和まないし……」
「いえ。案外、そうでもないみたいですよ」
そう言ったのは、ミクちゃんのウサギ式神。
「どういう事?」
「寒太君を見て下さい。悪霊化が少し和らいだようです」
確かに、寒太から発生していた不快な波動が、少し弱くなったようだ。
しかし、これはけっして樒の冗談で和んだからじゃないな。
今まで寒太は、継母が優しくなくなった事に悩み、それが悪霊化を進行させていた。
だけど、継母が優しくなくなった原因が悪霊の仕業と分かった事で、気が楽になったのだろう。
「とは言っても一時的なものだし、寒太の身体は早く探した方がいいわ」
「そうだね」
僕達は、寒太の身体探しを再開した。




