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霊能者のお仕事  作者: 津嶋朋靖
嫌悪の魔神

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211/289

タトウ

「奥様。ちょっとこちらへ……」


 ん? 樫原の声の方へ目を向けると、隣室の扉を開き手招きしている。


 なんだろう?


「なんなの? 樫原?」


 婦人が立ち上がり隣室へ向かう。


 僕も立ち上がると……


「君は来なくていい! そこで待っていろ! しっ! しっ!」


 人を犬みたいに……!


 寒太も着いていくが、樫原には見えないのでどうにもできないのだろうな。

 

 扉が閉じて、僕だけが部屋に取り残される。


 寒太の霊が扉をすり抜けて出てきたのは、数分後。


「樫原の奴が、おまえの事をインチキ霊能者とか言っていたぞ」

「なに!?」

「おまえ、インチキなのか?」

「あのなあ、もし僕がインチキだったら、君の姿も見えないし、声も聞こえないのだが……」

「そういう事じゃなくてさ、なんか霊能力を利用して大金を巻き上げる奴がいるって話だぞ。おまえが急に俺ん家に来たいとか言い出したのは、ママから金を巻き上げるつもりだったのか?」


 う! そういう目で見られていたのか。


 つくづく、樒が一緒にいなくて良かった。


「寒太……そういう霊能者がいるのは事実だ。だが、僕はそんな事はしない」


 隣室の扉が、突然開いたのはその時。


 婦人がツカツカと僕の方へ歩み寄る。


 なんか、ややこしくなりそう。


「ぼうや。寒太は今どこにいるの?」

「ですから、寒太君は行方不明で……」

「肉体ではなくて、霊体の方よ」


 僕は寒太のいる方を指さした。


「ここにいますよ」


 不意に樫原が詰め寄ってきた。


「本当だろうな? 我々に霊が見えないのをいいことに、出鱈目を言っているのではないのだろうな?」

「困ったなあ。どうしたら、信じてもらえますか? 樫原さん」

「なに!? どうして俺の名を?」

「ここにいる寒太君に聞いたのですが、信じてもらえましたか?」

「いや、それぐらいは調べれば分かるはずだ」

「しょうがないな」


 僕は寒太の方を向く。


「寒太しか知らない樫原さんの秘密とかないか?」

「んん……? あるけど」

「どんな?」

「背中の刺青(タトウ)


 刺青(タトウ)!? やはり樫原ってスジの人なのか?


 やだな、関わりたくないな。


「ええっと、樫原さんの背中に刺青(タトウ)があると寒太君が言っていますが」


 樫原は、顔にギョっとした表情を浮かべた。


 あ! ひょっとして秘密にしていたのかな?


「すみません。刺青(タトウ)の事は知られたくなかったのですか?」

「いや……別にかまわんが……」

「坊や。樫原に刺青(タトウ)がある事ぐらい知っているわよ」

「そうだったのですか?」

「ていうか、刺青(タトウ)が、家の警備員になる採用条件なのだから」

「え!? 刺青(タトウ)が採用条件? 普通逆では?」

「警備員に刺青(タトウ)があると、いろいろと便利なのよ」


 どう便利なのか、あえて追求はしないでおこう。


 ん? 寒太がニヤニヤしているが……


「あのさあ、この事ママは知らないのだけど、樫原の刺青(タトウ)、実は身体に絵を描いただけなんだよ。だから風呂に入ったら、落ちちゃうんだ」


 なるほど。


「樫原さん、ちょっと耳を貸して」

「なにか?」

「あなたの刺青(タトウ)、実はボディペインティングだと寒太君が言っていますが、そうなのですか?」


 樫原の表情が一気に強ばったところを見ると、事実のようだな。


「わかった。君がインチキではないことは認める。だから、そのことは……」

「はいはい、黙っていますよ」


 樫原は婦人の方を振り向く。


「奥様。この子がインチキというのは、私の邪推だったようです」

「そう」


 そこで婦人は僕の方を向く。


「坊や。話を戻すけど、寒太は今この部屋にいるのね?」

「ええ」


 婦人は隣室の扉を指さす。


「私と樫原が、隣で話をしていた時、話を盗み聞きしに行かなかったかしら?」

「行きましたよ。僕の事を、インチキと言っていましたね」

「う! それは私ではないわ。樫原よ。それより、他に何か聞かなかった?」


 僕は寒太の方を向いて言った。


「他に何か聞いたか?」


 寒太は首を横にふる。


「聞いていないそうです。寒太はすぐに部屋から出てきたし……」

「そう。良かった」


 どうやら、寒太が部屋から出た後で何かよからぬ話をしていたみたいだな。

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