邪推だったのだろうか?
「奥様。寒太坊ちゃんのお友達をお連れしました」
お連れしたじゃなくて、拉致なのですけど……
ちなみに僕が連行された部屋は、十五畳ぐらいの広さがあるリビングルーム。
そこにあった豪華なソファでお茶を飲んでいた二十代後半ぐらいと思われる婦人は、こっちを見て目を丸くしていた。
この婦人が、寒太の継母のようだな。
それはいいとして、なんなのだろう?
この部屋に入ってから、背筋が凍るような悪寒がするようになった。
寒太から発する不快な波動よりさらに強い波動が、どこかから発生しているようだ。
しかし、室内にはそれらしき霊的存在はいない。
「樫原……それは「お連れ」したのではなく「拉致」したの間違いじゃないかしら?」
「まあ、そうなりますが、連れて来たことは事実ですし、危害は加えておりませんし」
加えられてたまるか。
「で、なんでこの子を連れて来たの?」
「はい奥様。この子がお屋敷の様子を偵察して、寒太坊ちゃんに報告している現場を目撃しましたので」
だから、違うと……
「そうなの?」
「あのう」
ここで僕はようやく口を開いた。
「説明しますから、降ろしてもらえませんか」
「それもそうね。樫原、坊やをソファに降ろしなさい」
「はっ」
樫原はやや乱暴気味に僕をソファに座らせた。
「説明する前に、言っておきたい事があるのですけど」
「何かしら?」
僕は樫原を指さした。
「この人が僕に対してやった事は、あなたの言うとおり拉致になります。それは刑法二百二十条逮捕・監禁罪に該当します」
婦人は顔をしかめた。
「子供なのに、法律に詳しいわね。ほほほ」
「奥様、大丈夫です。いつものように警察には言わないように、家族へ圧力をかければ……」
「お黙り!」
婦人に一喝されて樫原は押し黙る。
僕は横にいる寒太の霊に小声で聞いた。
「いつも、そういう事やっているのか?」
「ん? そうらしいな」
なるほどな。寒太がどんな悪さをしても、そうやってもみ消していたのか。
「ねえ坊や。悪いようにはしないから、この事は警察に黙っていてもらえるかしら」
そう言って、婦人は懐から万札を一枚取り出して僕に差し出した。
「そんな物はいりません」
つくづく、樒を連れてこなくてよかった。
「そんな事言わないで、一枚じゃ足りないなら、もう一枚」
「そんな事をしなくても、警察沙汰にはしません」
事情聴取とか面倒だし、父さんにも迷惑かかるし……
「それと、僕の言ったことが信用できないからと言って、家族に圧力をかけるとかは止めといた方がいいですよ」
「どういう事かしら?」
「僕の父は警察官です。つまり『警察には知らせるな』と僕の家族に圧力をかけた時点で、自白するようなものですから」
「うっ」
婦人は顔をしかめた。
「い……いやあねえ……圧力なんてかけないし、かけたこともないわよ。ねえ、樫原」
「はい。先ほど言った事は、私の冗談でございます」
「もう、本当に分かりにくい冗談ばかり言ってやあねえ」
いや、絶対に冗談じゃないだろう。
ん? 婦人はタブレットを取り出して操作した。
「坊や。嘘はいけないわね」
「嘘? 僕は嘘などついていませんよ」
「寒太のクラスメートに、警察関係者はいないはずよ」
そのことか。
「勘違いされているようですが、僕は寒太君のクラスメートではありませんし、そもそも小学生でもありません」
「え?」
僕は樫原を指さした。
「そもそも僕が寒太君の友達というのは、この人が勝手にそう思いこんだだけです。僕はそんな事一言も言っていません」
ここで僕は名詞を差し出した。
「霊能者協会? あなた、霊能者なの?」
「ええ。実は、ここに……」
僕は寒太のいる方を指さす。
「寒太君の霊がいるのですが……」
「え! 霊って、どういう事なの? まさか、寒太は死んだの?」
「いいえ」
僕は首を横にふる。
「ここにいるのは、寒太君の生き霊です。肉体はどこかで生きています」
「生きているのね。良かったわ」
なんだ、普通に喜んでいるではないか。
この婦人は、自分の子ではない寒太を家から追い出したがっているのでは? と考えていたのだが、それは邪推だったのだろうか?




