ガードマン
黒服の中年男は、睨みつけるような目で僕を見下ろしていた。
こ……コワい……
「あ……あの……僕に何か?」
思わず後退りするが、すぐに背中がブロック塀にあたり退路は塞がれた。
男は寒太の家を指さす。
「あなたは先ほどから、この邸宅の様子を伺っていましたね。何が目的ですか?」
「え? いや……その……」
この人? 刑事か? ひょっとして、寒太は単に捜索願が出ているだけでなく、誘拐も疑われているのだろうか?
「なぜ僕が、あなたにそんな事を答えなきゃならないのですか?」
警察官の質問は答えたくない場合、回答拒否してもいいはず。
と、父さんが言っていたが……
「私は、この邸宅の警備を任されている者ですので」
ガードマン?
僕は寒太の方を向く。
「そうなのか?」
「ああ。うちのガードマンの樫原だよ」
警察ではなかったのか。
「今、誰と話をされていましたか?」
え?
ああ、いけない。
霊の見えない人には、僕が誰もいないところに向かって話しているように見えるのだった。
「なんでもありません。ただの独り言です」
「独り言?」
不意に男は、僕の肩を掴んで引き寄せた。
「な……何するんですか!?」
男は、僕の側頭部をのぞき込む。
え? なに? この人? 変な趣味の人? ヤダ! ヤダよ! 僕にはそういう趣味ないから!
「ふむ。イヤホンをしていますね」
え? なんだ、イヤホンをしているかの確認か。
そりゃあ、スマホ用のイヤホンは付けているけど、なんでそんな事を?
「家出中の寒太坊ちゃんと、携帯で連絡を取っていましたね」
え? ああそうか。スマホのイヤホンマイクを使っている人って、傍目から見ると独り言を言っているように見えるからね。
という事は、この人は家出中の寒太が、友達に家の様子を見に行かせたとでも思っているのか?
「違います。イヤホンは付けていますが、スマホは使っていません」
そう言って僕は、スマホをポケットから取り出して見せる。
「ほら。スマホは、どこにもつながっていないでしょ」
「今、止めたのかもしれませんね」
どう言ったら、納得してもらえるのだ?
「ここは中で、ゆっくりと話を聞かせてもらいましょうか」
いきなり樫原は僕の腕を掴んだ。
凄い力だ!
有無を言わさず、樫原は僕を引きずっていく。
「止めて下さい! 大声出しますよ」
「それは困りますね」
樫原は僕の手をあっさりと離した。
だが、ほっとするのもつかの間……
「うぐ!」
とつぜん樫原は、左手で僕の口を塞いだ。
ふりほどこうとしたら、右腕で身体ごと抱え上げる。
「ここで大声を出されては、体裁が悪くなりますのでご勘弁を。なに、悪いようにはいたしません」
「もごもご」
そのまま僕は、寒太の家に連れ込まれていく。




