退魔銃使いますか?
「ん? どうしたの? 社君」
床にこけた僕に手をさしのべながら、部長さんは不思議そうに言った。
「もしかして、この子、社君の知り合いなの?」
「ええ……ちょっと……」
まさか、こんな偶然が……
いや、けっして偶然なんかじゃない。
寒太の様な彷徨える霊は、霊能者に寄り付く傾向がある。
だから霊能者協会に登録されている霊能者には手配書を送ってあったのだが、そこからの目撃情報がないという事は、未登録の霊能者のところに行っている事は十分ありえたわけだ。
現に寒太はここにいるし……
寒太は不意に、警戒するような視線を僕に向けてきた。
「あ! おまえ、ひょっとして俺を連れ戻しにきたの?」
「ここへ来たのは、偶然だよ」
僕は部長さんを指さす。
「この人が、昨日から変な霊に取り憑かれて困っていると聞いたので見に来たのだよ」
「なあんだ」
「でも、ここで見つけた以上は、僕と一緒に帰ってもらうよ」
「え? イヤだぞ。俺はこのキレイな姉ちゃんが気に入ったから、ここからは動かないぞ」
僕は部長さんの方を振り向いた。
「部長さん。ありがとうございます」
「え? 私、何かお礼を言われるような事したの?」
「こいつは、僕達のところで保護していた生き霊だったのですが、昨日突然逃げ出してしまったので捜していたのですよ。おかげで手間が省けました」
「あら、そうだったの。お役に立てて良かったわ。お礼なら入部届に……」
「サインはしません」
「まあ、いいわ。で、この子はさっきから何を喋っているの?」
「キレイなお姉さんが気に入ったから、離れたくないと言っています」
「なかなか正直な子ね」
「でも、居着かれたら迷惑でしょう。連れて行きます」
「それはお願いするわね。あら?」
部長さんが怪訝な顔をするので、その視線の先を見ると、寒太がそうっと部屋から出ていこうとしていた。
「待て!」
僕は退魔銃を抜き、寒太に向ける。
「逃げると撃つよ」
「わあ! 逃げない! 逃げないからそれだけは勘弁してくれ!」
「大丈夫。樒の部屋には、連れていかないから」
「本当か?」
「樒のお父さんに、折檻されたそうだね」
「ああ。あのオヤジ、俺の冗談を真に受けやがって」
「冗談? じゃあ樒の風呂を覗いたというのは……」
「嘘に決まっているだろ。あんなおっかない姉ちゃんの風呂なんか覗いたら、殺されちまう」
いや、もうお前半分死んでいるのだが……ん? まさか!
「寒太。まさかと思うが、部長さんの……このお姉さんの風呂を覗いたりしていないよな?」
「そんなの、決まっているじゃないか」
そうだよな。いくら何でも、世話になった人にそんな失礼な事……
「もちろん覗いたさ」
……
「こんなキレイなお姉さんの風呂を、覗かないなんて失礼だろ」
僕は無言で、ショルダーホルスターから退魔銃を抜いて部長さんに渡した。
「部長さん。この銃は氷室先生からもらった物で、霊体にダメージを与えることができます」
「知っているわよ。でも、霊力がないと使えないのでは?」
「部長さんぐらいの霊力でも使えます」
「そう。でも、こんな物騒なものをどうして私に?」
「昨夜、こいつは部長さんのお風呂を覗いたそうですが、今ここで使いますか?」
もちろんこの直後、部長さんは退魔銃の残弾が無くなるまで寒太に向けて撃ちまくった。




