ワシは悪くない
寒太が逃げた? ミクちゃん何を今更……
「寒太が逃げた事なら、知っているけど……」
「樒ちゃん、違うよ! あたしが言っているのは、寒太君の肉体じゃなくて霊魂の方」
え? 霊魂なら樒の部屋の結界に……!
しまった! 母さんに、結界を解除してもらったのを忘れていた。
「さっきから、優樹君のお母さんが二人に電話かけていたのに、全然出ないからあたしにかけてきたんだよ」
スマホを取り出すと、母さんからの着信履歴がいっぱいついている。
「しまったあ! こんな事なら、寒太は連れてくるべきだったわ。とにかく、私の部屋に行ってみよう」
「うん」
僕達はバイクを置いてある、コンビニに向かった。
「しかし……」
歩きながら僕とミクちゃんは疑問を口にする。
「結界を解除したからと言って、なんで寒太が逃げだすのだろう? 行く宛なんてないのに」
「それもそうよね。寒太君の肉体はともかく、霊魂は逃げる理由ないよね。逃げるなら、昨日あたし達と外を回った時にいくらでも逃げられたのに」
樒の方を見ると、なぜか渋い顔をしている。
「私には、なぜ寒太が逃げ出したのか、分かるような気がするのよ」
「「え? なんで?」」
「あの家で、私の両親と……というか、父さんと一緒に閉じこめられていたら、逃げ出したくもなるわよ」
樒のお父さんと? 何があったのだ?
それは樒の家に行ってから分かる事に……
「ワシは悪くない」
樒の家の扉を開くなり、待ちかまえていた樒のお父さんは言い切った。
まだ、こっちは何も言っていないのに……
「あのさあ、父さん。私はまだ何も言っていないのだけど……」
「どうせ言うつもりだろ。『寒太が逃げ出すなんて、いったい何をやったのよ?』と」
樒は頭を抱える。
「いや、まあ言うつもりだったけど……」
「ほれ見ろ。だから、わしは先手を打って『悪くない』と言っておいたのだ」
それって、先手を打つようなことですか?
「私は別に、父さんを攻める気なんてないから。どうせ説教していたら逃げられたってところでしょ」
だよね。寒太みたいな悪ガキじゃ、どんな優しい人だって説教の一つや二つしたくなるって。
「説教? そんな事はしておらん」
「違うの?」
「説教なんて生ぬるい事、わしはしとらん。折檻したんじゃ」
それは、よけいにあかんやろう。
いや、そういう僕も、あいつに退魔銃撃ったが……
ん? 樒のお母さんが、樒とお父さんの間に割り込んできた。
「樒。お父さんを攻めちゃだめよ」
「お母さん?」
「あなたは気がつかなかったけど、あの男の子、昨夜あなたの入浴を覗いていたらしいのよ」
「なぬ!? 全然気がつかなかったわよ!」
「さっきね、あの子は、樒の事を霊能者のくせに自分に覗かれているのに気が付かないなんて鈍い奴とか、私達の前でバカにしていたのよ。それでお父さん激怒しちゃって。そんな時に、優樹君のお母さんが結界を解除しちゃったものだから」
あちゃー! なんてタイミングの悪い。
「もう、誰が悪いかなんてどうでもいいわ。それより、逃げ出した寒太をどうやって見つけるかが先よ」
「あたし、式神で探して見ます。寒太君はどっちの方向へ逃げましたか?」
「あっちだ」
樒のお父さんが指さした方向へ、ミクちゃんは竜式神を放つ。
だが、式神も寒太を見つけることはできず、僕達は寒太の写真を芙蓉さんに送り、霊能者協会のネットワークを使って登録霊能者からの目撃情報を待つことにした。




