ゲス悪霊
降真亜羅が指さすタブレット画面では、タンハーと寒太が向かい合って、何かを話している様子が映っていた。
「ミクちゃん。音を出して」
「うん」
ミクちゃんはタブレットを操作して、消音を解除する。
『おまえという奴は、せっかくわらわが向かえに来てやったというのに、礼の一つも言えないのか』
最初にタンハーの怒鳴り声が聞こえてきた。
『なんで俺が、あんたに礼を言わなきゃならねえんですか? タンハー様』
この声は寒太と似ているが、憑依している悪霊が喋っているようだな。
ていうか、タンハーと悪霊はあまり友好的ではないようだが……
『俺はアラティ様配下の悪霊でさ。タンハー様に従う義理はないぜ』
『わらわは、そのアラティ姉様からの頼みで向かえに来てやったのだぞ』
『へえへえ、そうでしたか。でも、妹が姉の命令を聞くのは当然でしょ』
『おまえという奴は……そもそも元をただせば、おまえがアラ姉からはぐれて迷子になるからいかんのじゃ』
『しょうがねえでしょ。あっしも人間の身体を使うのは久し振りなんで、上手く動かせないんでさ』
『もういい! それで、おまえアラ姉とはぐれてから、今まで何をしていたぞよ?』
『へい。腹が減って動けなくなったところを、バカな女が助けてくれたので、しばらく女の世話になっていたんでさ』
『勝手な事を。動けるようになったのなら、すぐに連絡せんかい! アラ姉のスマホアドレスを書いたメモとテレカは、持たしてあっただろう』
『いや、もちろん連絡はするつもりでしたさ。でもその前に、バカな女の身体を味わっておこうかと』
つくづくゲスな奴だ。
降真亜羅の方を見ると、顔をしかめていた。
「あの子、私のことをそんな風に思っていたの? 信じられない」
怒っているようだが……まあ、怒るのは当然として、演技ではないだろうな?
演技ではないなら、降真亜羅は善意の第三者という事になるが……
「ここまで聞けばもう十分ね。優樹、ミクちゃん、あのチビ魔神とゲス悪霊を捕まえに行くわよ」
「そうだね。でも、どうやって捕まえる?」
「まず私が寒太に近づいて九字を放つわ。憑いている悪霊は、それで肉体から追い出せる。悪霊は寒太の身体に戻ろうとするから、そこは優樹の退魔銃で牽制してほしいの」
「その後は?」
「なに言っているの。悪霊さえ追い出したら、寒太の霊魂が肉体に戻れるわよ」
「いや、寒太の霊魂は樒の部屋にいるだろ?」
「そうよ。それが何か?」
「樒の部屋って結界が張ってあるのだろ。結界から出られるの?」
「え? そうだったあ!」
うっかり者だな。
「そうだ! ミクちゃん。式神を私の部屋に飛ばして結界を……」
「無理だよ。式神だって、結界に近づけないし」
「無理かあ……」
こんな事なら、寒太を連れてくるのだったな。
「そうだ。優樹のお母さんって、今日は家にいるの?」
「え? ああ、母さんなら今日は仕事がないから、家事に専念すると言っていたけど……」
「あんたのお母さんには、私の家の鍵を預けてあるのよ。電話して、家の玄関の扉を開けておくように言っておいて」
「わかった」
母さんに電話で話を伝えた後、僕たちは司馬さんと降真亜羅に礼を行ってから店を出た。




