死神の慈悲3
今まで死神のスマホに表示されていた百の数値が、突然ゼロに変わったのだ。
その事に、死神よりも先に少年が気付く。
「あの……死神のお兄さん」
「なんだ?」
「なんか……スマホの数字が変わったんだけど……」
「なに!?」
死神は下を見下ろした。
踏切ではまだ、線路の隙間に足が挟まって動けなくなっている少年がいる。
すでに霊魂を抜き取られているので、足が挟まっていなくても動けるはずがない。
だが、少年は線路から足を引き抜こうと渾身の力を込めていた。
そんな事をしても、子供の力……いや人の力ではどうにもならないはず。
だが、死神の目には、この世の物理法則をねじ曲げようとしている力が見えた。
黒い霧のようなものが奔流となって少年の足を挟み込んでいる線路に流れ込み、鋼鉄の線路を少しずつ変形させているのだ。
「やめろ! そんな事をしたら」
死神は黒い奔流の源を探した。
それは、踏切の向こうで立っている高校生ぐらいの少女から発している。
少女はふいに死神の方に目を向けると、ニヤっと笑みを浮かべた。
少女の目には死神が見えているようだ。
そして死神には、その少女の顔に見覚えがあった。
「おまえは……アラティ」
その瞬間、少年の足を捕らえていた線路が切断された。
自由になった少年は、踏切の向こうで待っているアラティの元に駆け寄ると、その足下にひざまずく。
「アラティ様。ありがとうございます」
「よしよし」
アラティは少年の頭を撫でると、死神の方を向きなおる。
「死神さん。この子の身体、いらないのでしょ? 私が有効利用してあげるわね」
「ふざけるな! 俺が、そんな事を許すとでも思っているのか!」
「あらあら。私にかまっている場合じゃないと思うけど……」
「なに!?」
死神のスマホから、アラームが鳴り響いたのはその時。
スマホの画面を見て、死神は驚愕する。
「くっ! 予定にない死者がこんなに……」
けたたましいブレーキ音を立てながら、電車は踏切に向かっていた。
線路の破損をセンサーが感知したようだが、もはや停止する事は不可能。
そのまま電車は線路の破断箇所に到達。
電車は横倒しになり、轟音を立てながら民家に突っ込んで行く。
アラティは邪悪な笑みを死神に向ける。
「あらあら。どれだけの人がお亡くなりになったのかしらね。早く霊魂を導いてあげないと、悪霊化しちゃうわよ。まあ、私はその方が都合いいけど」
「くそ! その子の身体を、どうするつもりだ?」
「とりあえず、配下の悪霊を憑依させてみたわよ。じゃあね、死神さん」
去っていくアラティを、死神は止めることができなかった。




