反撃
僕から少し離れた場所で、魔入さんはおかしな踊りを踊るような動きをしていた。
「私の中から出て行って!」
「私の支配を受け入れろ!」
何も知らない人がこの様子を見たら、魔入さんが一人芝居しているかのように見えるだろうけど、本人は悪霊から身体を取り戻そうと必死なのだな。
しかし、今なら蔦のコントロールも弱まっているのでは……?
あかん。手足を動かしてみようとしたが、相変わらずガッシリとホールドされている。
ネズ子の方はどうだろ?
蔦をかじっている! もう少しで抜け出せそうだ。
「ええい! もうおまえなどいらん!」
突然、魔入さんの身体から、長い黒髪で顔を覆い隠している白いワンピース姿の女性が飛び出した。
昼間に見た悪霊! ていうかこの姿、テレビ画面から這いだしてくる人のコスプレでは?
悪霊が身体から離れると同時に、魔入さんの身体はクタッと倒れる。
長く憑依されていたから、身体が弱っているのだろう。
大丈夫かな?
「元々おまえに取り憑いたのは、タンハー様のスマホを取り返すためだ。目的を達成した以上、もうおまえに用はない」
悪霊は、僕の方へ目を向けた。
怖い!
「うふふ。さあ坊や。お姉さんと良いことしましょ」
待てよ。この人はショタコンだよな。それなら……
「待って! 僕は、こんな姿だけど、本当は高校生です」
ショタコンなら、高校生と聞いてどん引きするかも……
「知っているわよ」
え? 知っていたの? あ! そいえばさっき『見た目はともかく、この子は高校生でしょ』と言っていたな。
魔入さんの記憶を探ったのか?
「お姉さんは、高校生も守備範囲よ。だから、安心して」
安心できるかあ!
「待って! 待って! 高校生というのも嘘です! 本当は成人しています」
「何歳?」
「ええっと……よ……四十……」
無理過ぎだった……
「中年なの?」
あれ? 信じたのか?
「そ……そうです。中年です。幻滅したでしょ」
このまま幻滅して、どっか行ってくれるかな?
「うふふふ。そういう、苦し紛れの嘘を付いてまで逃れようとするところが、ますます可愛いわ」
あかん! 騙せない……あたりまえか……
悪霊は、長い黒髪をバサッと払った。
露わになった土気色の顔が、僕に迫ってくる。
あれとキスするの? ほとんどゾンビじゃん。
これじゃあ、魔入さんに憑依されたままの方がまだマシだよ!
「優樹君」
耳元でネズ子の声が!
抜け出したのか?
「右腕に絡みついていた蔦を噛み切ったでちゅ。今なら、退魔銃が使えるでちゅ」
そうか! 魔入さんの身体から離れてしまえば、退魔銃の効果がある。
「ありがとう。ネズ子さん」
自由になった右腕が懐のホルスターに届くのと、悪霊の唇が僕の唇と触れるのとほぼ同時だった。
精気を吸い取られ、意識が遠のきそうになる中、僕はトリガーを引く。
「ひいいいいい!」
悲鳴を上げて僕から離れた悪霊のわき腹には、大きな穴が空いていた。
「いつの間に、退魔銃を……」
第二弾を撃った。
悪霊の髪が少し消える。
「ひい! よくも私の髪を!」
あ! 怒らせちゃったかな?
「もう、許さない」
そう言って悪霊は、床に倒れている魔入さんの方へ向かう。
魔入さんの様子を見ると、ようやく意識を取り戻したところのようだ。
「六道魔入。この部屋に、テレビカメラがあるというのは嘘だったぞ」
「え? そうなの……」
眠そうに目を擦りながら、魔入さんは答える。
「だから、今この部屋でこのショタっ子を襲っても誰にもばれない」
「え? ちょっ! 待っ! 私は社さんを襲うなんて考えては……はう!」
悪霊は再び魔入さんの身体に入りこむ。
これでまた退魔銃が効かなくなった。
「さあ、坊や。観念しなさい」
「観念するのは、お前の方でちゅ!」
声の方に目を向けると、ドアのところに人化したネズ子が立っている。
「忌々しいネズミ女。お前ごときに何ができる?」
「あたしに何もできないとでも、思っているのでちゅか?」
そう言ってネズ子は、ニヤっと不敵な笑みを浮かべた。




