チビ魔神からは見えない
「さて、お遊びはここまでにして、スマホを取り返すぞよ」
タンハーは、僕のブレザーに手を突っ込んできた。
「おお! あったぞよ」
タンハーは内ポケットから、スマホを取り出したが……
あれ? このスマホは……
「ん? これは、おまえのスマホではないか」
「そうだけど……」
「騙しおって……」
別に騙してはいないが……おまえが勘違いしただけだし……
「おお! 財布ぞよ」
「こら! 返せ! どろぼう!」
「ふふふ。いくら入っているぞよ。ん? レシートばかりではないか」
そう言えば、今朝有り金全部パスモに入金したから、現金は残っていなかったな。
「スタンプカードも入っているだろ。ほしいか?」
「いらんぞよ!」
タンハーは財布を投げ捨ててから、僕のポケットというポケットを探しまくった。
しかしスマホは出てこない。なんで無いのだろう?
さっきまで、僕のスマホと同じ内ポケットに入れておいたはずなのに……
「スマホをどこに隠したぞよ」
「知らない」
「まさか!」
タンハーの視線は僕の股間へ……
「変なところ見るな! そんなところにはない!」
「では、どこにあるぞよ?」
「タンハー様。嘘をついているかもしれません。ここはズボンを脱がして調べましょう」
やめてえ!
「やめるぞよ。菖蒲! おまえは下品でいかんぞよ」
「そんな事、言われましても……」
「次にわらわの前で下品な事を言ったら、許さんぞよ」
どう許さないのだろう? やはりデスラーボタンでも押すのか?
「ふふふふ。スマホは、そんなところにはないでちゅ」
ネズ子の声! どこから?
タンハーは周囲を見回す。
「ネズミ女! どこにいるぞよ?」
「ふふふ。あたしは、気配を消すことができるステルス式神でちゅ」
「くそお。出てくるぞよ」
「ふふふ。あたしの姿は、チビ魔神には見えないでちゅ」
「誰がチビ魔神ぞよ! さっさと姿を見せるぞよ」
確かに、タンハーからはネズ子の姿は見えないな。
だって、ネズミ化してタンハーの背中にしがみ付いていたのだから。
ネズ子のステルス能力が凄いのか? タンハーが鈍いのか? どっちなのだろう?
「ん? タンハー様。背中に……」
悪霊の方は気が付いたようだ。
蔦がタンハーの背中に付いているネズ子を捕まえようと延びていくが……
「ひゃううう! 何をするんじゃ!?」
タンハーは、慌てて背後から迫ってきた蔦から逃れる。
忍び寄る蔦の気配にはこれだけ敏感に反応するという事は、タンハーが鈍いのではなくネズ子のステルス能力が凄いということだな。
「菖蒲! わらわを絡め捕って、どうするつもりじゃ!」
「いえ……違います。私はただ……」
「やはり、わらわの命令に従うのは、不満だったのじゃな」
「いえ、そうではなくて……命令に不満なのは確かですが……」
確かなんだ。
「やはりそうか! わらわが、エッチな事を禁止しているのが不満なのじゃな。それで謀反を企てたのじゃな」
こいつも、人の話聞かないなあ。
「いえ、エッチな事はしたいですが……タンハー様に逆らうつもりはなくて……だいたいそんな事をしたら、私はラーガ様の庇護を失い、地獄に送られてしまうじゃないですか」
ラーガというと、タンハーの姉の一人だったな。
この悪霊はラーガの力で現世に留まるのと引き替えに、言うことを聞いているという事なのかな?
「なに!? ネズミ女がわらわの背中に張り付いているだと! 先にそれを言うぞよ」
「ですから、言おうとしているのに、タンハー様が人の話を聞かないから」
「ふふふふふ。見つかってしまっては仕方ないでちゅね。ご褒美に、スマホの在処を教えて上げるでちゅ」
「なに? どこに隠したぞよ?」
「そこに落ちている紫色の巾着の中に放り込んだでちゅ」
そうか。さっきネズ子が僕の懐から何か取り出していたな。
あの時か……しかし、あの中には……




