魔導書
「こっちでちゅ!」
スマホの明かりを頼りに空き家に入った僕は、ネズ子に手を引かれて階段を駆け上がった。
僕らの後から、悪霊の操る蔦が追いかけてくる。
「ここでちゅ!」
ネズ子は、階段を登り切ったところにある扉を開く。
部屋の中は真っ暗。スマホの明かりだけが頼りだ。
僕の背後で扉が閉まる音と、施錠する音が続けて聞こえる。
「ネズ子さん。鍵をかけたの?」
「そうでちゅ。さっき偵察した時に、この部屋だけ内側から鍵をかけられる事が分かったので、ここを逃げ場所に選んだでちゅ」
どうやら、ネズ子はこの暗闇でも目が見えるらしいな。
ドン! ドン!
扉に何かが激しくぶつかる音が響く。
蔦がぶつかってきているのだろう。
「でも、鍵だけではいつまでも持たないでちゅ。すぐにお札を貼るでちゅ」
巾着からお札を一枚取り出した。
しかし、糊もないのにどうやって……と、思ったらお札の裏には両面テープが貼ってある。
用意がいいな。
お札を貼り付けると、扉を叩く音はたちまち止んだ。
ホッとするのもつかの間。
今度は窓の方から、ガシャン! ガシャン! と、何かを叩きつける音が響き出す。
「窓ガラスを破られるでちゅ! お札を早く!」
窓はアルミ製の雨戸が閉じられているので、すぐには破られないと思うが……げっ!
雨戸が開いていく。
雨戸には、カンヌキが掛かっていなかったようだ。
巾着からお札を抜いて、窓ガラスに貼り付けると、雨戸に掛かっていた蔦は消滅した。
念のために窓のない壁にもお札を貼り付けた。
「これで一安心でちゅ。後は、助けが来るのを待つだけでちゅね」
そうだ。もうすぐ、先生が来てくれる。
それまでの辛抱。
少し余裕ができたので、改めて部屋の中を見回した。
部屋は六畳ほどの広さで、床はフローリング。
家具の類はほとんど残っていなかったが、本棚が一つだけ残っている。
本棚の上にLEDランタンがあったが、どうせもう電池切れだろう。
資料によれば、北条菖蒲さんは二階の部屋で衰弱死していたのが見つかった事になっていた。
では、この部屋で亡くなったのか?
二階には他に部屋はなかったし、ここなのだろうな。
ネズ子が本棚から、古びた本を一冊取り出した。
「これ。魔道書でちゅ」
「魔道書? どうせインチキでしょ」
「いいえ、これはガチの本物でちゅ」
「なんで分かるの?」
「優樹君の霊感でも捉えられないくらいの微かな霊的波動が、この本から出ているでちゅ。この本自体がインチキだとしても、過去数十年以内にこの本の近くで魔神か何かが召還されているはずでちゅ」
キュリー夫人の実験ノートからは、今でも放射線が出ているというけど、魔道でも似たような事があるのか。




