退魔札
「ちゅー!」
ネズ子は魔入さんの足から離れると、みるみるうちに人化していった。
前は、OL姿や女子高生になっていたけど、今回はなんの姿になるんだ?
と思って見ていたら巫女装束。歳は十代後半ぐらい。
ただし、頭にはやはり大きなネズミ耳がついている。
「優樹君。助けに来たでちゅ。立てまちゅか?」
「あ……ありがとう……でも、どうしてヒョーさんはこの事が分かったの?」
「ヒョー様は、優樹君のストーカーでちゅ。こんな事があればすぐに分かりまちゅ」
ありがたいのだか、ありがたくないのだか……
とにかく今は……
「ヒョーさん。ありがとう」
今は礼を言います。でも、怖いから僕につきまとわないで……
「そこのネズミ女。おまえ式神じゃな。なぜ、わらわの邪魔をするぞよ?」
ネズ子はタンハーの方を振り向いた。
「あたしはネズ子。呪殺師ヒョー様が使役する十二の式神の一つでちゅ」
「なに! 呪殺師ヒョーじゃと!?」
「ふふふ、驚いたでちゅか?」
「誰じゃ? そいつは」
一瞬、周囲はどうしようもない沈黙に包まれた。
悪霊アヤメに取り付かれている魔入さんが、タンハーにそっと耳打ちする。
「タンハー様。呪殺師ヒョーとは……」
「何!? 金で呪殺を請け負う殺し屋じゃと! なんて悪い奴ぞよ」
「悪神に、悪い奴呼ばわりされたくないでちゅ」
「何を言うぞよ。わらわは確かに悪神じゃが、わらわがやっていることは人の法律では裁けぬぞよ。よって、わらわは法律上悪ではないぞよ」
「ヒョー様の呪術も科学的には証明できないので、法律では裁けないでちゅ。だから法律上悪ではないでちゅ」
いや、どっちも人の道としてダメだと思うけど……
「む? そうなのか? アヤメ」
「タンハー様。呪殺に殺人罪は適応できません。ですが、脅迫罪になった実例があります」
「脅迫罪になるのか。やい、ネズミ女。やっぱりおまえは悪い奴ぞよ。この脅迫犯め」
「そんな事どうでもいいでちゅ」
「よくない。いーけないんだ♪ いけないんだ♪ 脅迫したら♪ いけないんだ♪」
「変な替え歌するなでちゅ」
「ふん。とにかく、おまえは悪い奴ぞよ。今すぐ警察を呼んでやるぞよ」
スマホを取り出したタンハーを、アヤメが慌てて止める。
「おやめ下さい。タンハー様。さっき、無免許運転で、補導されそうになったのをお忘れですか?」
「うわ! そうじゃったぞよ。危うく罠にはまるところじゃったぞよ」
いや、罠じゃないだろ。
ん? ネズ子が僕に紫色の巾着袋を差し出した。
「優樹君。この中に退魔札が入っているでちゅ」
「退魔札?」
「魔物を退けるお札でちゅ。式神であるあたしは触れる事ができないので、優樹君が使って欲しいでちゅ」
「ありがとう」
巾着を開くと、数枚のお札があった。
その中の一枚を引き抜く。
ええっと……これをどう使えばいいのだろう?
キョンシー映画だと導師がお札を投げると、ピューっと飛んで行ってキョンシーの額に貼り付いたりするけど……
ペラペラの紙切れが、あんなふうに飛ぶはずないし……
とりあえず、お札を手に取って文字の書いてある方を悪霊とタンハーのいる方に向けてかざした。
「う!」「ひ!」
タンハーと悪霊が怯むのが分かる。
効果はあるようだ。
「優樹君。今でちゅ」
ネズ子が僕の手を握って駆けだした。
「どこへ行くの?」
「家の中へ入って結界を張るでちゅ」
僕はネズ子に手を引かれるままに、家の中に入っていった。




