純真な乙女? どこに?
背後から差し込まれた魔入さんの腕に、僕は首と胸を押さえつけられて身動きが取れなくなってしまった。
「放せ!」
と言ったところで、悪霊が放すはずがないか。
悪霊に憑依された人間は普段より強い力が出せるらしく、魔入さんが僕を抱きしめる力はハンパなく強かった。
もがいてもふりほどけない。
いや、僕が非力すぎるという説もあるけど……
「魔入さん! 目を覚まして! 悪霊なんかに負けないで!」
悪霊に憑依された人が、自力で悪霊の束縛を断つことも希にある。
それを期待して声をかけてみたのだが……
「無駄よ、坊や。この女に、坊やの声は届いていないわ」
無理なのか?
魔入さんも霊能者だから、少しは期待したのだけど……
いや……
「本当に声が届かないなら、そんな事言う必要ないよね」
「あら? 分かっちゃった。でも、声が届いても無駄。私は、この女の願望を利用しているのだから」
願望?
「魔入さんが、どんな願望を?」
「君をイジメたいみたいよ。何か恨まれるような事しなかった?」
う! やっぱり、前回の仕事でお爺さんの霊を呼び出した事で恨まれたのかな?
恨まれるだろうな。僕も悪意でやったし……
「という分けで、そろそろ君の精気をいただくわ」
「ひいぃぃ!」
悲鳴を上げる僕の目の前に、突然タンハーが降りてきた。また霊体化したのか?
「待つのじゃ! アヤメ! スマホの回収が先じゃ」
「ええ! そんなの精気を吸い尽くして動けなくしてから、ゆっくり探せば……」
「だめじゃ! おまえ、こいつの精気を吸うときに、エッチな事をするのじゃろ」
な……何をする気だ?
「ええ、しますけど何か?」
「そういう事を、純真な乙女の見ている前でするな!」
「え? 純真な乙女? どこに?」
「ここにいるじゃろう」
「ええ!? タンハー様って、純真な乙女だったのですか?」
「この可愛い幼女の姿を見て分からぬのか!」
「いえ、見た目はそうですけど、中身は魔神ですし……」
「とにかく、わらわの見ている前でやるな。わらわがスマホを回収して、遠くへ行ってからゆっくりやれ」
「わかりました。ではまず坊やの服を脱がせて裸にしましょう」
やめてえ!
「だから、わらわの見ている前でそういう事するな! ポケットに手を入れれば済むことじゃろ」
「ええ! いいじゃないですか」
「だめじゃ! だいたいなんでおまえは、そうやってエッチい方向に行こうとするのじゃ」
「そんな事言われましても、私色情霊ですしおすし」
「とにかく、おまえはそいつを押さえつけているだけでいい。わらわがスマホを探す」
「分かりました」
タンハーが僕の方へ手を伸ばそうとしたその時……
「ぎゃあ!」
魔入さんが突然悲鳴を上げて、僕を手放した。
何があったのだ?
「痛い! 痛い!」
見ると、魔入さんの足首にネズミが噛みついている。
これはネズ子!




