さようなら。僕の恋。
ここは、元々予定にない物件だったというのか?
「まあ、いい映像が撮れたのだから良かったわ」
良くない!
そのせいで僕は、蔦の化け物に襲われて、恥ずかしい映像を撮られて、悪霊に精気を吸われて死にかけたというのに……
「じゃあ、本来僕たちが入る物件は、どこだったのですか?」
「それが、この住宅街に入ってすぐのところだったのよね。ほら、私たちが住宅街に入ってすぐに幽霊が後から付いてきたでしょ」
「ええ」
「あの幽霊が、本来の取材対象だったらしいわ」
確かにあれなら危険はないが……
「うわ!?」
突然樒に抱き上げられた。
「なにすんだよ! 樒」
「何って、お姫様抱っこしているんだけど」
「恥ずかしいだろう!」
「あんた、しばらくは身体が動かないのでしょ。動くまでの間、私が抱っこしてあげるわよ」
「いいよ。そこまでしなくても」
「よくないわよ。九字で悪霊を追っ払ったけど、あれは一時的な処置だから。いつ戻ってくるか分からないし、早くここを離れないと危険よ」
そう言ってから樒は、僕を抱き抱えたまま玄関へ向かって歩き出した。
その横を魔入さんがすれ違う。
樒は後を振り返って言った。
「魔入さん。この家は危険だからもう入らないで」
「だって、まだパワーストーンが……」
「しょうがないな。やっちゃって」
樒は誰に言っているんだ?
「きゃあ! 何よ。これは?」
何が起きたのだろう?
と思っていると、何かが僕と樒の横を通り過ぎた。
「ちょっと! 私は長い物は苦手だって言ったでしょ!」
金色の竜が、その細長い身体を魔入さんの身体に巻き付けて飛んでいた。
この竜、ミクちゃんの式神だったな。
「樒。ミクちゃんも来ていたの?」
「そう。式神が必要になるかもと思ってね。まあ、私の九字切りで片づいたけど。ミクちゃんには、すでにブースターを飲んで待機してもらっていたから、魔入さんを待避させるのに使わないともったいないじゃない」
ブースターってかなり高いらしいからな。
「魔入さん」
樒が呼びかけると、竜に巻き付かれた状態で魔入さんは振り向いた。
「今、私が優樹を抱っこしている様子は撮影していますか?」
「そりゃあ、ドローンが撮影しているけど……」
「じゃあテレビに出すときは、私の事は美少女霊能者の彼氏という設定にしておいてくれない」
「え?」
魔入さんはしばし考え込む。
「単なる相棒じゃだめなの?」
「彼氏がいるという設定にしておいた方が、優樹にストーカーする奴が減るでしょ」
「ううん。どうかしら? でも、恋人という設定にしたいのなら、もっと恋人らしい事をしてもらわないと……」
恋人らしい事?
「それもそうね。じゃあ優樹。今から、恋人らしい事しようか」
「ちょっと! 樒! 恋人らしい事って、何を?」
「前に一度やったでしょ。あんたのお母さんの車の中で……」
「まて! まて! まて! これってテレビに映るんだよ!」
「当たり前じゃない。テレビに映すためにやるんじゃない」
「みんなに見られちゃうよ!」
「いいじゃない、私も優樹も変装しているし」
「母さんにはばれているし、超研の先輩達にもばれているし……」
なにより、氷室先生にばれている。
先生にこんなシーン見られたら、僕の恋は……
「別にいいじゃない。先輩たちに見られたって」
「ああ! そうだ! 呪殺師ヒョーも番組を見ていて、僕だと気がついたんだ」
「え? そうなの?」
「そうだよ。さっきネズ子が来てそんな事言っていたんだ」
「そうか。ヒョーが見ていたのね」
考え直してくれたか。
「それなら、尚更やらないと」
なんでそうなる!
「ここで私と優樹の仲を見せつけて、ヒョーには優樹の事を諦めさせるのよ」
「いや、待って。そんな事をしたら樒が呪われ……わ!」
樒が急速に顔を近づけてきた。
「わあ! 近い! 近い! 近い!」
さようなら。僕の恋……




