来てくれたのか?
コツン! コツン! コツン!
なんだ?
結界がパリーン! と音を立てて割れた直後に、周囲から乾いた音が響いたけど……
スマホのライトを床に向けると、小さな黒い球がいくつも転がっているが、これって!
「魔入さん。腕輪は?」
「え? ああ! お守りが無くなっている」
どうやら、結界が破れると同時に、その源である腕輪の紐も切れてパワーストーンの球が飛び散ったようだ。
「きゃあ! 拾って! 拾って! ディレクターに怒られちゃう!」
「それどころじゃないでしょ! だから逃げようって言ったのに! 魔入さんは、本当に考え無しなんだから!」
「今はそんな事を言っている場合じゃないでしょ!」
「今言わないでいつ言う……うわ!」
しまった! 蔦が襲って来ていたんだ!
「うふふふ。やっと出てきたわね。可愛い坊や」
「ひいい!」
逃げる間もなく、蔦は僕の胴体に絡みつく。
「放せ!」
蔦を掴んで引きはがそうとするも、今度は左右の腕に蔦が絡みついてくる。
「ああ!」
左右の足に絡みつかれ、そのまま僕は空中に持ち上げられた。
「うふふ。捕まえたわよ。坊や」
だめだ! 身動き取れない。
「魔入さん! 助けて!」
て、思わず言っちゃったけど、あの人が助けになるわけないし……
案の定、床に散らばったパワーストーンの球を拾うのに忙しくてそれどころじゃないらしい。
その魔入さんの身体に蔦が絡みつく。
「ちょっ……ちょっと悪霊さん。私、同性には興味ないのですけど……」
「心配ないわ。私にもない。だから、ここから出て行きなさい」
「あーれー!」
そのまま魔入さんは、玄関から外へ放り出された。
怪我してなきゃいいけど……
なんて人の心配している場合じゃないよ!
蔦がどんどん絡みついてくるし、服の中まで入ってきて気持ち悪い。
視界もほとんど蔦に遮られてしまった。
その蔦をかき分け、長い黒髪で顔を覆い隠し、白いワンピースを纏った女が姿を現す。
悪霊の本体?
「うふふ。可愛い坊や」
やだ! 怖い! 来るな!
蔦に絡まれて身動きの取れない僕の方へ、女は足も動かさないでスーっと寄ってくる。
長い髪の間から、青白い腕が出てきた。
何をする気?
青白い掌が僕の頬に触れた。
ゾワ! 冷たい!
氷の様に冷たい掌が、僕の頬から首筋をなで回した。
あれ? なんか手足から力が抜けていく。
「うふふふ。美味しい」
こいつ……僕の精気を吸っているんだ!
「うふふ」
女は髪をかき分け、土気色の肌をした顔を露わにした。
女が今から何をする気か分からないけど、ろくな事でないのは確か。
逃げないと……でもどうやって?
「臨・兵・闘・者・皆・陳・烈・在・前」
この声は、樒の九字切!
来てくれたのか。




