ええ! やっぱり入るのおぉぉ!
樒に来てもらう事にはなったけど、できればこの物件には関わらない方がよさそうだな。
しかし、その決定権は僕ではなく、さっきからこの空き家の外観写真を撮りまくっている、お姉さんが握っている。
魔入さんは一通り撮影が終わってカメラを仕舞うと、四機のドローンを飛ばした。
このドローン、これまでの撮影にも使っているが、操縦しなくても僕らから一定距離を置いて追尾し続ける機能を持っているそうだ。
これを出したという事は、いよいよ建物内に入る気だな。
「社さん。神森さんはまだかしら?」
「まだ、十分以上かかりますよ」
「待ってはいられないわね。先に、私たちだけで中に入りましょう」
本気かよ。
「魔入さん。先に言っておくことがあります」
「何かしら?」
僕は、蔦に覆われた木造家屋を指さした。
「この物件に入ることはとても危険です。それでも入りますか?」
「君。前にも、そんな事言ったわよね」
え? そんな事あったっけ?
「霊の召還は、危険が伴う事があるって」
あ! あのことか。
「あの時、君の言う危険というのは、霊障の類かと思っていたけど、本当はお爺ちゃんの霊を召還するから、説教される危険があるという意味だったわね」
「そういえば、そんな事もありましたね」
もしかして、あの時の事を根に持っているのかな?
「今度の危険はなに? お婆ちゃんに説教される危険? それとも……」
「いえいえ、今回はマジに霊障です。魔入さんも、霊能力があるなら分かるでしょう。この家から漂う禍々しい波動」
「確かに、さっきから嫌な感じがするわね」
「でしょ。だから、樒が来るまで待ちましょう。いや……いっその事、取材中止にしましょう」
「なんで?」
「だからあ、危険だって言っているじゃないですか」
「危険なら、なおさら取材しなきゃだめでしょう」
「えええええ!」
「なに? その嫌そうな顔は」
実際に嫌だし……
「まさか、怖いって言うの? 男の子でしょ!」
「女装させておいて、今更そんな事……」
「つべこべ言わない!」
「ちょ! 引っ張らないで!」
腕を捕まれ、引きずられるように玄関前に連れてこられた。
禍々しい波動が、ますます強くなる。
さすがに魔入さんも、この波動にビビったのか顔をしかめた。
取材を諦めてくれたかな?
「これは!? すごい悪寒」
そりゃあそうだろう。
「これはいい動画が取れるわ」
あかん! ますますやる気になっている。
「社さん。これなら騒霊現象も期待できるかしら?」
「僕は、過去に二度ほど騒霊現象に遭遇していますが、あの時の波動はこんなレベルじゃ無かったです」
「そう。この程度では騒霊は無いのね」
「いえ。今回の波動は、あの時よりも遙かに強いと僕は言いたかったのですが……」
「すごいわ! これなら、扉を開いた途端に巨大な顔が現れて『立ち去れ!』とかいうシーンも期待できそう」
いや、そんな現象ないって……
「ドローンカメラの調子はどうかしら?」
魔入さんはスマホを操作して、ドローンから送られてくる映像をチェックした。
「うんうん。調子いいわね」
魔入さんは、大家から借りてきた鍵を出した。
「さあ、行くわよ」
勢いよく扉を開く。
シーン。
そこには何もいなかった。
ただ、履物が一つもない玄関があるだけ。
「ちょっと! 何も出てこないじゃないの!」
んな事言われたって……
「まあ、いいわ。中に入れば、何か出てくるでしょう」
ええ! やっぱり入るのおぉぉ!




