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霊能者のお仕事  作者: 津嶋朋靖
事故物件2

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ディレクターも霊能者?

 次の物件は、古い住宅街の中に建つ一軒家。


 二階建ての木造家屋の壁は、半分以上が(つた)に覆われており、昼だと言うのにすべての雨戸が閉じられ、如何(いか)にも悪霊が出てきそうな雰囲気を(かも)し出していた。


 家主は、二年前に孤独死した引きこもりの女性。


 両親ともに死別しており、相続した遠縁の親戚はこの家を持て余しているという。


 まあ、僕はこれまでにも何件かその手の家を見てきたけど、実際に悪霊がいたなんてケースはほとんどなかったね。


 地縛霊はよくいるけど、たいていは無害な霊で、供養すればすぐに成仏してくれたし。


 今回もそんなところだろう。


 僕は隣の座席に座っている魔入さんに、読み終わった物件の資料を返した。


 ちなみに座席というのは車の座席で、今僕たちはワゴン車で現地へ向かっている。


 ディレクターさん自らが運転してくれていて、現地に着くまでの間、僕と魔入さんは後部シートで打ち合わせをしていたのだ。


 それにしても……


「魔入さん」


 僕は小声で話しかけた。


「なあに?」

「この番組って、予算厳しいの?」

「え? なんでそう思うの? まあ、潤沢(じゅんたく)とは言えないけど、そんなに予算には困っていないわよ」

「だって、ディレクターさんって、番組制作する中で一番偉い人でしょ?」


 ちらっと運転席に目をやった。


 そこでステアリングを握っているのは、浅黒い肌に白いスーツを(まと)った二十代後半ぐらいのオバ……いやいや、お姉さん。


 黒い大きなマスクと、大きなサングラスで顔のほとんどが隠れているが、それらを取り除けばおそらく美女なのだろうと思われるこの人が、ディレクターの降真(こうま)羅亜香(らあが)さん。


 南アジア系の人かと思っていたが、日本国籍は持っているそうだ。


 それはともかく……


「ディレクターさん自ら運転するなんて、予算がないのかなあと思って聞いたのですが」

「ああ! なるほどね。でもそんな心配はないわ。普段なら運転してくれるスタッフがいるのだけど、今回は事情があってディレクターが運転する事になったの」


 事情? 


「今回の物件は、ディレクターが見つけて来たのよ。ただ、物件の持ち主に撮影許可をもらいに行ったところ、住所を明かさないという条件で許可が下りたの」

「場所を知られたくないという事ですか?」

「そうよ。できれば私たちにも知られたくないそうよ。だから資料にも、住所が入っていなかったでしょ」


 確かに入っていなかったな。しかし……今更そんな事言われても……


 僕はちらっとスマホに目を走らせた。


 現在位置なんて、さっきからグー○ルマップで確認しているし、現地に着けば住所なんて分かっちゃうよ。


「魔入さん。もし、危ない霊がいたら樒に来てもらう事になっているので、彼女にだけは住所を教えておきたいのですけど……」

「別にいいわよ。そのぐらいなら」

「いいのですか?」

「ディレクターは『できれば』と言っていたのよ。神森さんを呼ぶ必要があるなら、仕方ないわね」


 いいのだろうか?


「それにね。私もさっきから、スマホのマップで現在位置を確認しているから」


 この人は……ディレクターの言いつけなんて最初(はなっ)から守る気ないな。


「それにディレクターは、今度の物件には危険はないと言ってくれているから大丈夫よ。神森さんの出番はないわ」

「はあ。だといいのですが……」


 ディレクターさんは、何を根拠に危険はないと言っているのだ?


 霊能者でもなきゃ、そんな事分からないだろ。


 その事を聞こうとした時、車はハザードを出して道路の端に止まった。


「着いたわよ」


 運転席からディレクターが振り返る。


「今、あなたたちが、後でしていた話が聞こえたけど……」


 ギク! 結構小声で話していたのに……この人地獄耳?


「住所が分かってしまったのなら仕方ないわね。このことは、助っ人を呼ぶ以外で口外はしないように」

「はあ」「もちろん分かっています」

「それと(やしろ)さん」

「なんでしょう?」

「君は、今回の物件に危険は無いと、私が言ったことが疑問のようね」

「ええ……まあ」

「まあ、当然よね。いったい、何を根拠にそんな事を言っているのかと思っているでしょ」


 まあ、思っているけど……


「この事は、あまり人に言いたくなかったのだけど、私も霊能者なのよ」

「え!? そうなのですか?」

「まだ、私が本当に霊能者なのか疑問のようね。ではそれを証明してあげるわ」


 どうやって?


「君の足下に、ネズミの姿をした霊体がいるわ。でも、動物霊ではない。式神ね」


 なに!?


 足下を見ると、確かにそこにネズミが居た。


 こいつはネズ子!

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