退魔銃に色気が足りない
できれば退魔銃は使わないで済ませたいけど……もしこれでも手に負えない事態になったら、外で待機している樒を呼ぶことになるのだが……
爺さんは、しきりに周囲を見回して困惑していた。
「なぜだ? ここは、私が警備していたビルのはず。でも、まるで廃墟のようではないか」
「あなたは胸が苦しくなった後、そのままお亡くなりになったのです」
「では、私は死んでいるのか?」
「はい。あなたが死んでから、半年が経過しています」
「半年も? それでは……私は……私は……」
爺さんは、頭を抱えて震えだした。
危ない兆候だろうか?
「私は……私は……」
え? 突然爺さんは満面の笑みを浮かべた。
「もう借金を返さなくていいのか!」
え? そっち?
「まったく、半年も前に死んでいた事にも気がつかないで、借金取りに怯えていたとは……教えてくれてありがとう。お嬢ちゃん」
「あの……僕、男なのですけど……」
「ありがと……」
そのまま爺さんは成仏して姿を消した。
まあ、いいか。仕事が楽に片づいたのだから。
それだというのに、魔入さんは不満そう。
何が気に入らないのだろう?
「簡単過ぎるのよ」
「いいじゃないですか。仕事が楽に終わったのだから……」
「君は、それでいいかもしれないけど、私はそれじゃあ困るの。私はこれから、今回撮った映像を視聴者に受けるように脚色しなきゃならないのよ」
「はあ」
そんな事、僕の知ったこっちゃない。
「脚色なんて、いつもやっているのでしょ」
「そりゃあそうだけど……」
「何が不満なのですか?」
「今回の霊は、なんの不満も言わないであっさりと成仏しちゃったわ」
「良いことじゃないですか」
「良くないわよ。不満を言ってくれないと、何が不満で成仏できなかったのか、でっち上げなきゃならないじゃないの。まあ、でっちあげるけど」
「僕としては、それがスゴくイヤなのですけど」
「何がイヤなの?」
「今回のお爺さん、いい人でしたよ。それを魔入さんは、何か怨念でもあるのかのように描写するのでしょ」
「まあ、そうなるわね。そうだ! あのお爺さん、借金を返さなくて済むと言っていたわね。過酷な取り立てをした闇金への恨みで、成仏できなかったという事にしましょう」
「やめましょうよ! お金を貸していたのが闇金とは限らないでしょ! 真っ当な会社かもしれないし」
「貸金業やっている人間に、真っ当な人間なんている訳ないでしょ」
偏見だよ。
「金貸しなんて、金が返せないと、胸の肉を寄越せとか言うような奴らよ」
それシェークスピアの創作だから。あ! でも、臓器を売れとかいう奴は実際にいるか。
「もういいです。好きにして下さい。でも、お爺さんにも遺族がいるかもしれないし、あんまりヒドい番組作ったら訴えられますよ」
「それは大丈夫。幽霊が誰なのかは、特定されないようにやるから」
「そうですか」
「しかし、残念だわ。できれば、君が退魔銃を撃つところも撮影したかったのに」
「退魔弾は高いんですよ」
「必要経費として一万円出すわ」
樒には、外で待機してもらっていてよかった。あいつの前で金の話とかされたら面倒だし……
「それにしても、君の退魔銃は色気が足りないわね」
「はあ? 銃に色気もへったくりも……」
「いやいや。君はベストの内側に隠したショルダーホルスターから退魔銃を抜いているわね」
「それが何か?」
「巨乳お姉さんがそれをやるなら、色気があるけど貧乳の君では……」
「貧乳もへったくりも僕は男です」
「だからね」
突然、魔入さんは僕のスカートを捲り上げる。
「ひゃううう! な……何するんですか!」
僕は慌ててスカートを抑えた。
「足に着けるホルスターってあるじゃない。だから、それに退魔銃を付けて、銃を抜くときにチラリと太ももを見せれば色気が出るわ」
「この場合、色気なんて必要ないでしょ!」
「視聴率を上げるのには必要なのよ」
そんなの僕の知ったこっちゃない。
「まあ今回は仕方ないけど、次は退魔銃が必要になるような物件に当たると良いわね」
「まだやるんですか? そのうち痛い目に遭いますよ」
いや、一度痛い目に遭え! ただし、僕と関係のないところで……




