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霊能者のお仕事  作者: 津嶋朋靖
事故物件2

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136/289

ファミレス

 なんでこんな事に……


 と、僕が内心呟いたのは、学校近くのファミレスでの事……

 

 学校帰り、樒と一緒に魔入さんからここに呼び出された僕は、テレビの仕事をまた引き受けてしまった。


 いや、最初は断るつもりでいたのだが……






「ええ! 断るの? 困ったわ。君が出演してくれないと、私はディレクターに怒られちゃうの」

「そうですか」


 んなの、知ったこっちゃない。


「君のおかげで、視聴率も上がったのに……」

「そうですか」


 だから、知ったこっちゃない。


「出演してくれたら、ギャラもはずむわよ」


 それを聞いた途端、僕の横でコーラを飲んでいた樒がテーブルの上に身を乗り出す。


本当(マジ)すか!?」

「こらこら!」

「だって優樹。これは不正請求じゃないわよ」

「いや樒。僕たちが受け取っていい報酬は、あくまでも霊能者協会で決められた金額で……それに僕は、この仕事を引き受ける気はありません」


 そう言った途端、魔入さんはテーブルに身を乗り出して僕の右手を掴んできた。


「ねえ。そんな事言わないで」

「ちょっ! 手を離して下さい」


 パシ!


 突然、誰かが魔入さんの手を扇子で叩いた。


 叩いた人は……


「誰ですか? あなた」


 魔入さんは、扇子を手にしている背の高い目つきの鋭い二十代後半ぐらいの女性を睨みつける。


「あなたこそ誰ですか? うちの生徒の手を握りしめたりして」

「え? 生徒?」


 魔入さんは、僕たちの方を振り向く。


「先生なの?」


 僕と樒は、それに対して無言で頷いた。


 しかし、なぜ氷室先生がこんなところに?


「氷室先生。私と優樹の後をつけてきたのですか?」

 

 樒の質問に氷室先生は首を横にふる。


「そんなわけないでしょう。たまたま食事に入っただけです」


 そうだよ。偶然だよ。先生がそんなストーカーみたいな事するわけないじゃん。


「そうしたら、社君の手を握りしめている女がいるではないですか」


 そう言って先生は、魔入さんを睨みつける。


「あなた分かっているのですか? 未成年者に手を出したら……」

「ち……違います! 私はけっしていかがわしい事をしていた分けではなくて……私、こういう者です」


 魔入さんが差し出した名刺を先生は受け取った。


「オカルト芸人、六道魔入? ああ! 先日お電話でお話した方ですね」

「え? ああ! あの時、電話でお話した先生でしたか。あの後、電話を代わったプロデューサーが震え上がって……」

「人聞きの悪い事を……生徒に誤解されるでしょ」


 先生は僕の方を振り向く。


「社君。私は法的な話をしただけですからね。別に脅迫するような事を言ったわけじゃないですから」


 もちろん分かっています。


「脅迫するような事を言ったんだ」


 樒! 失礼な事を呟くな! 優しい先生が、そんな事をするはずないだろう。

 

「それで、三人で集まって何を話していたのですか? ひょっとして、次の番組の打ち合わせ?」

「ええ。実はそうなのです」

「まあ! それは楽しみですね」


 え? 楽しみって……


「あの……先生。もしかして、先週の放送見たのですか?」

「ええ。見たわよ。あの美少女霊能者って、社君でしょ」

「ち……ち……違います! あれは、全然知らない人で……ホクロだって消えて……」

「ホクロ? ああ! メイクで消したのね。でも、君だって一発で分かったわよ」


 もうやだ! 恥ずかしい! 死にたい!


「先生よく分かりましたね。幼なじみの私が見ても、なかなか優樹だと分からなかったのに」


 樒のセリフ訂正。幼なじみ× 腐れ縁○


「そりゃあ教師ですから」

「授業中に、隠し撮りした優樹の顔を、毎日眺めていたのですね」

「人聞きの悪い! 私はそんな変態な事……」


 そうだ! 氷室先生がそんな事をするはずがない!


 ん? 不意に魔入さんが僕の横に移動してきて耳元に囁いた。


 樒と氷室先生は言い争いに夢中で気がついていないようだ。


「ところで知っているかしら? 前回の番組で君の女装姿を見た人達の中に『あの美少女は何者?』と特定しようとしている人達がいるって」

「初耳です。でも、特定される事はないでしょう」

「そうかしら? 特定厨という人達の力を、侮らない方がいいわよ」


 ピク!


 いや……大丈夫だよ。特定厨だって、なんの手がかりもなしに……


「まあ、君がどうしてもイヤだというなら仕方ないわね」


 諦めてくれましたか。


「でも、もし番組の視聴率が下がって打ち切りになっちゃったりしたら……」


 知ったこっちゃないです。


「もしそうなったら、路頭に迷った番組関係者の誰かが、秘密を特定厨に漏らしてしまうかも……」


 結局、脅迫かい!


 僕には、この仕事を断る選択肢は最初から用意されていなかった。


「いいでしょう。仕事は引き受けます。だけどどうしても、女装しなきゃダメですか? ディレクターさんも『もうモザイクは外しません』と一筆書いてくれたのに」

「だってねえ、前回の女装で視聴率がすごい上がちゃってね。次も、あの可愛い霊能者を出せと視聴者からの希望が殺到しているのよ」

「実は男だったってばれたら、視聴者からの怒りを買いますよ」

「大丈夫。ばれないから」


 特定厨を侮るなって言ったのはあんたでしょ!


「優樹」


 いつの間に言い争いが終わったのか、樒と氷室先生も僕の方を見ていた。


「仮に女装がばれても、余計に人気出るかもよ」


 人気なんか出なくていい! 女装趣味の変態と思われるのがイヤなんだよ!


「先生! なんとか言って下さい」

「社君。女装はつらいの?」

「つらい……ていうか、恥ずかしいです」

「そう。でも、君はこの仕事を一度引き受けたのよ。一度、引き受けた仕事をわがままに放り出していいの? そんな事では、君はいつまでたっても子供よ」

「子供!」


 女装はイヤだけど、わがまま言っていたら先生に嫌われるかな? 


「分かりました。恥ずかしいけど……引き受けます」

「はい。よく言えました。社君、偉いわよ」

「先生。今、優樹に良いこと言ったように聞こえたけど、本音は『見たい! 優樹キュンの女装見たい!』とでも思っているのでしょう?」

「思ってません!」


 そして次の日曜日、僕は魔入さんの指定した物件へと向かった。

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