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霊能者のお仕事  作者: 津嶋朋靖
事故物件

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133/289

僕ツインテールになります

 イヤな予感が当たったのは、数日後の事……


 千尋さんから指名依頼を受けて、また別の事故物件を見に行く事になったのだが……


「ここが、今回の物件よ」


 千尋さんに連れてこられたのは、一件の古びたアパート。


「三ヶ月前、ここの二階の部屋で、八十歳のお婆さんが孤独死したの。大家さんは綺麗に掃除したのだけど、借り手がつかないのよね。お婆さんの幽霊が出るので」

「千尋さん。一つ疑問なのだけど」

「なに?」

「千尋さんも霊能者でしょ。なんで僕なんかを雇うの?」


 前回は、自分の霊能力が無くなったと勘違いしていたからだけど……


「千尋さん自身、霊が見えるなら、僕なんかいなくても……」

「私の霊能力、そんなに強くないのよ」

「え? そうなのですか」


 千尋さんはコクっと頷く。


「この前、君は私のおじいさんを呼び出してくれたわね。あの霊はまるで生きているみたいだったけど、それは君が霊力か何かを注ぎ込んでいたからでしょ?」

「ええ、まあ……」

「私の場合、たいていの霊はあんなにはっきりとは見えないの。この前、結界を解除した時に私たちの前を浮遊霊が通り過ぎたけど、君はあれが何に見えた?」

「三十代くらいのサラリーマンでしたが……」

「そう。サラリーマンだったの? 私には、人の形をした透明なモノにしか見えなかったわ」

「そうだったのですか」

「今までは私の弱い霊能力で、だましだまし番組を作っていたけど、そろそろプロの霊能者を雇わないといけないなと思っていたところだったのよ」

「僕だって、霊能者協会の登録霊能者の中では弱い方ですよ」

「私よりはマシよ。私が事故物件を取材するには、数日間はその物件に住まなきゃならないの。長い時は一週間。霊を撮影できるまで、それだけ時間がかかるのよ」


 そんなに時間がかかるのか。


「でも、君がいれば数時間で済むでしょ」

「まあ、そうですけど……そこに霊がいればの話ですが」


 千尋さんと入った部屋には、孤独死した老婆の地縛霊が確かにいた。


 見たところ悪霊化はしていない。どうやら、死んでいることにも気が付いていないようだ。


『あら、いらっしゃい。今日は可愛いヘルパーさんですね』


 部屋に入ってきた僕たちを訪問介護とでも思ったのか、お婆さんは笑顔で出迎えてくれた。


「社さん。この部屋に何かいるの?」


 どうやら、千尋さんには見えていないみたいらしい。


「ええ。あそこにお婆さんが」


 千尋さんは僕の指さす方向に向いて目を細めた。


「確かに、うっすらと何かが見えるわ」


 うっすらと見えるんだ。


「まあ、昼間このくらい見えるなら、深夜まで待てばはっきり見えると思うけど、それには泊まり込みしなきゃならないわね」


 千尋さんがビデオカメラをお婆さんに向けると、その姿がはっきりとディスプレイに映る。


「やはり、君を連れてきて正解ね。私だけだったら、このお婆さんの撮影に数日かかるわ」

「じゃあ、取材はもう終わりですね」


 さあ帰ろう。


 帰ろうとして(きびす)を返すと、(えり)首を千尋さんに掴まれた。


「まだ帰っちゃだめよ」

「だって、お婆さんの映像は撮れたのでしょ」

「まだ、取材はこれからよ」

「何をするのですか?」

「これから、君がお婆さんにインタビューをするの。そのシーンを撮らないと帰さないわ」

「ええぇぇ」


 めんどくさあ……


「その前に確認だけど、このお婆さん、危険はないわね?」

「危険な霊ではありませんね。供養すれば、すぐに成仏できます」

「すぐに成仏させちゃだめよ! 供養するのは、取材が終わってからよ」

「じゃあ、さっさと終わらせましょう。このままじゃあ、このお婆さんが可哀想です」

「分かったわよ。それじゃあ君とお婆さんの対話を撮影するから、準備するわね。そこのイスに座って」

「どうするのです?」

「素顔を晒したくないのでしょ。だからメイクするのよ。言ってあったでしょ」

「はあ」

「じっとしていてね」


 それからしばらくの間、僕の顔に何かを塗りたくられたり、頭に何かを被せられたりしていた。


「はい。完成」


 鏡に写った姿は、とうてい僕に見えない。


 そこにいるのは、黒髪ロングヘアーをツインテールにしている美少女。


 僕、ツインテールになります。


 テイルオン!


 じゃない!


「なんですか!? これは!」

「何って? メイクだけど」

「女装するとは、聞いていません!」

「あら? 言ってなかったかしら?」

「聞いていたら、断りました!」

「じゃあ素顔晒してもいいの? また事故に見せかけてモザイクを外されるわよ」


 それは困る。


「だいたい、なんでそのプロディーサーの人はそういう事をするんですか?」

「そりゃあ、視聴率稼げるからよ」

「霊さえ出てりゃ、視聴率稼げるのじゃないの?」

「甘いわね。怪奇現象さえ出てれば視聴者が付くと思ったら大間違い。番組に美少年美少女を出した方が、視聴率が上がるのよ」

「だったら、千尋さんがマスク外して素顔晒せばいいじゃないですか。せっかく美人なのに」

「イヤよ。前に、素顔をテレビに出していたら、変な男に付け狙われたのよ。だから、メガネとマスクで顔を分からなくてして芸名も変えたのに」

 

 ストーカー被害に遭っていたのか。


「君がそんな目に遭ったら可哀想だから、こうやってメイクしてあげたのよ」

「だからって、女装じゃなくても……」

「女装が一番確実なのよ」 

「そんな事言ったって、僕だと分かる人には分かっちゃうし……」

「ホクロも消してあるから大丈夫よ」


 いや、樒にも先輩たちにも氷室先生にも絶対分かってしまう。


「それとも、今更仕事を投げ出すの? 君はそんな無責任な子なの?」


 う……


「今回だけですよ」


 釘を刺してから、僕は今回の仕事に取りかかった。


(「事故物件」終了)

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