六道 魔入
すでに、この部屋の除霊は済んでいたと言うのか?
「樒。いつこの部屋の除霊をやったというのだ?」
こいつが除霊の仕事をするときは、僕も同行する事になっているはずなのに……
「優樹はあの日、病院に行っていたわね。だから代わりに、あんたのお母さんが私と同行して除霊をやったのよ」
「誰の依頼で?」
「自殺した人の家族。この部屋が、事故物件になっている事をネットで知って、依頼してきたそうよ」
「なんで先に言わなかった?」
「だから、私はさっき優樹からのメールを見るまで、現場の住所を知らなかったのよ」
そうだった。
「待ち合わせ場所を聞いた時は、前回の現場に近いなあとは思ったけど、まさか同じ場所だとは思わなかったわ」
今回の件、最初から樒に住所を教えておけば済んだ事だったのか。
「それでどうなの? 霊は残っていたの?」
僕は首を横にふった。
「浮遊霊一ついない」
「でしょうね。除霊した後、念のために鬼門と裏鬼門にお札を貼っておいたし」
やっぱり、結界も張っていたのか。
「除霊したですって!?」
ん? 千尋さん、どうしたのだろう?
血走った目で樒を睨みつけて……
「はい。除霊しました。サービスで結界も張って起きました」
「結界!?」
「はい。ああ、結界はサービスですから、料金はけっこうです。料金請求したりなんかすると……」
そう言って樒は僕を指さす。
「このマジメっ子が怒るから……」
だが、千尋さんはなぜか怒っていた。
「余計な事するんじゃないわよ!」
「は?」
千尋さんの剣幕に、樒も気圧される。
しかし、なぜ千尋さんは怒っているのだ。
「どうりで、幽霊が見えないと思ったら……私の能力が消えてしまったのかと心配になっちゃったじゃないの!」
能力? あ! もしかして……
「千尋さん。ひょっとして幽霊が見えるのですか?」
「そうよ。あなた達ほど強い能力じゃないけど、私も霊能者よ」
「そうだったのですか」
「それなのに、この部屋に入居してから浮遊霊一つ現れないし、能力が消えてしまったのかと思ったわ」
別にいいんじゃないかな? 霊なんて見えなくても実生活でそんなに困らないし……
僕や樒みたいに、能力を仕事に生かしているなら別だけど……
そんな事より……
「千尋さん。それじゃあ、本当は幽霊なんて怖くないのですよね?」
「ち!」
今、舌打ちした。という事は、さっき怖がっていたのは演技……
なんのためにあんな事を……まさか? この人もショタコン?
「おや?」
樒が千尋さんに怪訝な視線を向けた。
「な……何よ?」
「お姉さん。どっかで見た顔ね」
樒がそう言った途端、千尋さんは顔を背けた。
樒の知り合いだったのかな?
「し……知らないわよ。あんたなんて、会った事ないわよ」
「いえ、直接会ったのではなくて、雑誌か何かでお見かけしたような気が……」
有名人なのか?
「あれ? このメガネ」
化粧台の上に置いてあった大きなメガネを、樒は拾い上げた。
「ちょっと! 勝手にさわらないでよ」
樒は千尋さんにメガネを差し出した。
「じゃあ、これをかけて下さい」
「う……」
千尋さんは渋々メガネをかける。
「これでいいかしら?」
「やっぱり! 六道 摩入さん」
六道 魔入? 誰?




