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霊能者のお仕事  作者: 津嶋朋靖
冥婚

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116/289

……梅雨……つゆ……露

 荻原 新はバスを降りると、(てのひら)を上にかざして雨が降っていないかを確かめた。


 今のところ降っていないようだが、空は一面、黒い雲に覆われ、今にも雨が降り出しそう。


 用心のため、リュックから傘を取り出した。


 周囲を見回すと、紫陽花(あじさい)が咲き(ほこ)っている。


 関東は、昨日梅雨入りしたばかりなのだ。


「梅雨か」


 一言(つぶや)いてから、新は立ち止まった。


 ……梅雨(つゆ)……つゆ……(つゆ)……


 切ない思いがこみ上げてくる。


 露は一ヶ月後に隣家の子に転生すると、死神は言っていた。


 しかし、一ヶ月経っても隣家から赤ん坊の鳴き声など聞こえてこない。


 そもそも、妊婦の姿すら見かけていないのだ。


 死神の言ったことは嘘だったのか?


 ポツ! ポツ! ポツ!


 雨が降ってきた。


 新が傘をさした時……


「あら、やだ。降って来ちゃった」


 女の声に新は振り向く。


 歩道上に止まっているベビーカーの横で、母親らしき若い女がリュックの中を(あさ)っていた。


 どうやら、傘が見つからないらしい。


 新は女の近くまで行って、母子(おやこ)の上に傘をかざす。


「どうぞ」

「あら? ありがとう。傘入れておいたはずなのに、どこにやったのかしら?」


 結局傘は見つからなくて、母子を家まで送ることに……


「ごめんなさいね。どうも、傘は実家に忘れてきたみたいなの」

「いえ。たいしたことじゃありませんから」


 新はベビーカーの中をのぞき込んだ。


 赤ん坊と目が合う。


「可愛い赤ちゃんですね」

「ええ。四月に生まれたの。もう、起きるとすぐ泣くから大変よ。寝ている間に家に着かないと……」

「起きていますよ」

「え?」


 母親がヘビーカーをのぞき込む。


「あら? 変ねえ。いつもなら、起きるとすぐ泣き出すのに。この子ったら、君のことが、気に入ったのかな?」


 程なくして、新の家が見えてきたとき。


「本当にありがとう。私の家はここだから」

「え? お隣さんだったのですか?」

「え? お隣?」

「僕、隣の荻原です」

「まあ! そうでしたの。これからもよろしくね。荻原君。さあ、あなたもお礼を言いなさい」


 もちろん、赤ん坊にそんなことを言われても喋れるわけがない。


 だが、赤ん坊は挨拶でもするかのように、新に手を伸ばしていた。


 何気なく、新が右手をさしのべると、赤ん坊は新の人差し指を握りしめる。


「あら? この子ったら、もう未来の旦那様を捕まえちゃったのかしら?」

「女の子なのですか?」

「そうよ。仲良くしてあげてね」

「はい。それじゃあ、これからもよろしく。ええっと……この子、名前はなんというのですか?」

(つゆ)よ」

「……!」

 

(「冥婚」終了)

優樹「すごい歳の差カップルになっちゃったな」

樒「いいじゃないの。愛さえあれば、歳の差なんて。ところで今回の話は「一緒にいこう」の続編だそうだけど、あれに「牡丹灯籠のオマージュ」とか書いてあったわね。優樹は「牡丹灯籠」って知っているの?」

優樹「知っているよ。「四谷怪談」「皿屋敷」と並ぶ日本三大怪談の一つだし」

樒「どんな話だったっけ?」

優樹「簡単に言うとこう。江戸時代、浪人の荻原新三郎が旗本飯島家の娘、お露と知り合いお互い一目惚れをするそうなんだ。ところがお露の正体は亡霊。このまま付き合い続けると新三郎は死んでしまう。そこでお寺の和尚さんが、新三郎の家にお札を貼ってお露を入れなくしてしまうんだ」

樒「なるほど。今回のお話で、荻原君の家に結界を張っていたのは、そこから来ているのね」

優樹「この話、中国の明代に書かれた「牡丹燈記」を元に創作された落語なのだよ。その後、映像作品も一杯作られたんだけど、作品によって色々と違っているんだ」

樒「まあ、当然ね」

優樹「ただ、結末はどれも新三郎は結界の外へ出て死んでしまうんだよ」

樒「虚しいわね。私たちの露ちゃんの場合は、転生して再会できたけど……」

優樹「まあ、この結末もありきたりだけどね」

樒「ところで優樹。ホワイトデーのお返しは?」

優樹「はいこれ」

樒「わーい!」

優樹「言っておくけど、下僕なんかにはならないからな。樒のチョコは……その……義理……いや、友チョコとしてもらったつもりだから……」

樒「ごめん。下僕チョコなんて嘘」

優樹「え?」

樒「あんたに上げたチョコは、義理でも友でも下僕でもなくて本当は……」

優樹「それじゃあ、樒……あれは……」

樒「あれは、奴隷チョコよ」

優樹「はあ!?」

樒「ふふふふふ! ホワイトデーのお返しを受け取った事で奴隷契約成立ね」

優樹「あのなあ……」

樒「一生逃がさないわよ」

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