今回は特別に許す
不意に飯島露は、スマホから顔を上げて視線を僕に向けた。
「おっさんに伝えて。スレを見ろと」
なるほど、スレに書き込んでいたのか。
「今、彼女がスレに、あなたへ言いたい事を書き込んでいます」
「なんだと?」
矢納はスマホを凝視した。
程なくして、スレに新たな書き込みが表示される。
『あたしが運転していたのは原付バイクです。原付バイクは道路の左端を走らなければならないのに、路上駐車をする人のせいでまともに走れません。身勝手な路上駐車はやめて下さい』
それを読んだ矢納は、飯島露がいるのとは逆の方向を向いて叫んだ。
「だったら、原付なんか乗るんじゃねえよ! 道路の左端はどのみち、配達の車とかが止まるから、どっちにしても通れねえよ」
「あの。彼女がいるのはこっちですけど」
僕は飯島露のいる方を指さす。ていうか、さっき教えたよな……
「バカ野郎! 幽霊に面と向かって言ったら、怖いじゃないか! 祟られたらどうすんだ!」
あ! よく見ると矢納の足は、ガクガクと震えている。
なっさけねえ。
そうしている間に、飯島露はスレに新たなレスを書き込んだ。
『あたしは身勝手なって言ったの。配達の車は、仕事で止めているのだから身勝手じゃないわ。でも、あなたの車は、駐車場に止めれば済む事よ。あなたが四百円ぽっちの駐車料金をケチらなければ、こんな事故は起きなかったのに』
「うるせー! だいたい、なんで車を止めるだけで、金を取られるんだよ!? 俺は車を止めるだけで、金を取られるのには納得いかない」
祟りがコワいのなら逆らうなよ。
『だからって、路上に止めたら駐車違反よ』
「うるせー! ガキが知ったような口をきくな! それにこれは駐車じゃない。停車だ! ここは駐車禁止だが、停車は禁止されていない」
いや、絶対に駐車だろう。
樒が矢納の肩を軽く叩いた。
「なんだよ? ねえちゃん」
「あのさあ、私は教習所で習ったけど、横断歩道の前後五メートルは駐停車禁止よ。停車もできないはずよ」
そう言って樒は、矢納の車を指さす。
前後五メートルどころか、横断歩道の端を踏んでるやん。
「ちっ」
矢納は舌打ちすると、車に乗り込み横断歩道から車を離した。
「これでいいな?」
車から降りると、矢納はスマホを取り出す。
スレに新たな書き込みがあった。
『いいわけないでしょう。道路は、あなたの駐車場じゃありません』
「うるせー! 道路は俺の駐車場だ」
不意に矢納は僕の方を向いて、右手を差し出した。
手には百円玉を摘んでいるが、なんのつもりだ?
「金は出す。こいつ祓ってくれ」
はあ!?
僕が何かを言うより先に、樒が矢納の胸ぐらを掴んだ。
「おっさん。私たちを舐めてるの? これっぽっちで、祓えるわけないでしょ」
「じゃ……じゃあ二百円出す」
「フザケてんじゃないわよ。除霊は一回百万円よ!」
「ひいぃ! カンベンしてくれ」
よし樒。今回は特別に許す。もっとふっかけてやれ。
本編中で矢納が「それにこれは駐車じゃない。停車だ!」と言っていましたね。
こういう言い訳をする人がたまにいますが、運転者が車から離れた以上は駐車です。停車ではありません。
運転者が車から離れていなくても、継続的に止まっていれば停車ではなく駐車です。
道路交通法第二条の十八『駐車 車両等が客待ち、荷待ち、貨物の積み卸し、故障その他の理由により継続的に停止すること(貨物の積み卸しのための停止で5分を越えない時間内のもの及び人の乗降のための停止を除く。)、又は車両等が停止し、かつ、当該車両等を運転する者(以下「運転者」という。)がその車両を離れて直ちに運転する事ができない状態にあることをいう』
道路交通法第二条の十九『停車 車両等が停止することで駐車以外のものをいう』




