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エマニュエル・シリーズ設定資料集  作者: 長谷川
◆種族・民族・国家
17/17

国家・地域④──シャムシール砂王国


【国名】

シャムシール砂王国



【建国年月日】

通暦1147年(詳しい年月日は不明)



【建国者】

ザハル=ヤウズ=ジャハンギル



【人口】

2~3万人(推定)



【首都】

砂都(さと)シェイタン



【国章】

挿絵(By みてみん)


戦争と富(ムータマリッド)


(シンボルの意味)

・シャムシール

→国名にもなっている細身の曲刀。シャムシール人が愛用する伝統的な武器であると同時に戦争や暴力の象徴でもあり、砂王国が闘争を基幹にした国家であることを表している。


・金貨

→シャムシール砂王国の資金源である金泉(きんせん)(※1)の象徴。砂王国が金泉の恵みにより非常に豊かな富を持つことが示されている。描かれている髑髏(どくろ)は砂賊を表す。また、この金貨は円(〇)=天空(天界)をも意味し、その円の上で交差した二本のシャムシールが×印を作っている。これはシャムシール人の無神論思想を色濃く表し、「神の否定」「天界への反逆」といった意味を帯びている。


・王冠

→最も武略に優れた者が、砂賊の長(王)として武力も富も支配するという事実の象徴。砂王国では力づくで王の座に就いた者だけがすべてを手に入れることを許される、という伝統を表している。



【歴史】

 シャムシール砂王国の建国以前から、ラムルバハル砂漠(※2)には『砂賊(さぞく)』と呼ばれる砂漠の盗賊が跋扈していた。彼らは砂漠に湧く金泉を独占し、これを求めてやってくる人間から略奪を働くことで長らく口を糊していた。

 しかし通暦1130年頃から、砂漠のあちこちに点在していた砂賊同士の熾烈な縄張り争いが始まる。やがて武力によって他の砂賊を打ち負かし、傘下へ併呑したのが初代砂王ザハル=ヤウズ=ジャハンギルだったと言われている。

 ザハルは当時、砂賊にとっても天敵であった死の谷の竜人(ドラゴニアン)を味方につけ、彼らの後ろ盾を得て砂賊の統一に成功した。

 しかしシャムシール砂王国には一切の公的史料がなく、また国の形態も正統な国家とは言い難いことから、砂賊が自分たちの共同体を「シャムシール砂王国」と自称し始めた正確な時期や経緯は分かっていない。

 一部の口伝によればザハルの前にもすべての砂賊を束ねる存在がいたというが、真偽や詳細はまったくの不明。一般にシャムシール砂王国の建国年と考えられている1147年は、ザハルが攻め込んだアルコイリス法王国で初めて自らを「砂王」と称した年である。



【体制】

 「砂王国」の名を冠してはいるものの、シャムシール砂王国は正確には国ではなく砂賊たちの集合体である。実態としては国家に必要な政府も司法も貨幣の流通も存在せず、当然ながら役人や軍人、国民といった概念すらもない。

 彼らが砂王国領に出入りする商人とのやりとりに使っている貨幣は砂王国が発行したものではなく、砂賊たちが略奪によって近隣諸国から入手したもの。貨幣が手元にない場合は金泉から採取された砂金によって支払いが履行される。

 掟や法律といったものが一切存在しないため、砂王国には〝犯罪〟という概念すらもないが、唯一砂賊たちが認める暗黙の了解のひとつに『砂王』の存在がある。砂王は世襲制でも禅譲制でもなく、実力で砂賊たちのトップに躍り出た者だけが名乗ることを許される。

 すなわち謀略や武力によって当代の砂王の首を取った者こそが次の砂王であり、たとえどのような手段による簒奪(さんだつ)であっても咎められることはない。砂王国では〝強さ〟こそがすべてであり(他者への警戒を怠ったことが原因で)殺されるということは〝弱い〟という事実の証左であると考えられているためである。こうした事実からも分かるとおり、シャムシール人にとって砂王とは〝君主〟ではなく単なる〝(砂賊の)頭領〟に過ぎない。また彼らの理念では弱い者が強い者に従うのは当然であり、ゆえに砂賊たちは砂王の決定や命令には比較的従順に従う。

 しかし砂王は君臨すれども統治せず、あくまで戦争・略奪の指示や富(砂金)の分配を恣意的に管理するのみである。よって砂王国は常に無政府状態と言って差し支えなく、国家としての体制は存在しない。

 なお砂王国唯一の集落である砂都シェイタンでは常時1~2万程度の砂賊(傭兵)が暮らしていると推測される。

 住民を管理・把握する体制がないため正確な人口は不明だが、シェイタンに集まる傭兵は厳密には2種類に分けられる。シャムシール砂王国で生まれ育った生粋の砂賊と、報酬(砂金)目当てで外部から流れてきた傭兵である。

 後者はシャムシール人には当たらず、立場的には余所者だが、砂王国ではシャムシール人も余所者も差別されることはない。何故なら住民も誰がシャムシール人で誰が外部から来た者か把握していないためである。

 また砂王国では戦場での働きに応じて砂王から報酬が下賜されるが、この額はあくまでも戦場での活躍に比例する。つまりシャムシール砂王国は完全なる実力主義社会であり、こうした気風を気に入って余所から居着く荒くれ者も多い。

 さらに砂王国は建国以来奴隷制を採用しており、戦争で捕まえた捕虜や略奪先から誘拐してきた者、女奴隷が生んだ子供、奴隷商人が運んでくる商品等が奴隷として扱われる。シェイタンに在住する奴隷の数は1万前後と言われ、彼らは肉体労働や汚物・死体の処理といった過酷な労働に使役される他、砂王国と同盟関係にある竜人(ドラゴニアン)族の食糧として供給される。

 また女奴隷は例外なく娼婦(性奴隷)として働かされるさだめにあり、〝人〟ではなく〝物〟として消費されるため死亡率が非常に高い。

 ゆえにシェイタンでは女性の人口が極端に少なく、女奴隷は男奴隷よりも高値で取引される傾向が強い(なおシェイタンに奴隷以外の女性はおらず、女=奴隷の認識が一般的。このため外部からシェイタンに立ち寄った女性であっても、身分・立場関係なく奴隷と見なされる)。

 ただし奴隷から砂賊(傭兵)になることも可能で、窃盗や暴行、殺人等により実力を認められた者は以降砂賊として生活することができる。大抵の者は反抗の意思を見せた時点で砂賊に殺処分されてしまうが、そういった逆境を機転や腕っぷしで乗り越えた者だけがシャムシールを佩刀(はいとう)し、砂賊を名乗ることを許される。

 なお奴隷を除くシェイタンの住民は9割が兵士であり、砂王国は軍隊を持たない代わりにこれを戦力としてシェイタンの防衛や周辺諸国との戦争を行う。ただし彼らはあくまで傭兵で、軍規や命令系統等のさだめは特にない。戦闘の際には暗黙の了解として団体行動を基本とするが、個々人に国や民族としての帰属意識はなく、些細なことから内輪揉め(同士討ち)が起こることもしばしば。

 戦時には砂王の命令によって出陣が促されるが、従軍するか否かは個々人の任意であり、気分が乗らなければ出動を拒んでも良い。砂王国軍の規模や陣容が出兵の度に変わるのは、こうした背景があるためである。



【地理・気候】

 灼熱のラムルバハル砂漠全土を領土とする砂漠の国家。四季はほとんど存在しないと言ってよく、1年を通して昼は暑く夜は寒い。日中の最高気温は夏場には40℃を超えるが、日が沈むと急速に冷え込み、20℃以下まで気温が下がる。加えて水源が少なく食糧の確保が難しいことや、砂漠で暮らす様々な危険生物の存在も相俟(あいま)って、金泉という垂涎の恩恵がありながら外敵の脅威は少ない。

 年間降水量は250mm。西からの季節風が吹き込んでくる永神の月(5月)~泰神の月(7月)頃には、風を遮る遮蔽物が乏しい影響で毎年砂嵐が発生する。シェイタン近郊では地下水脈を利用した農業がわずかながら存在するものの、気候と杜撰な管理が原因で収穫量は極めて少なく、慢性的な食糧不足が問題となっている。

 なお東にはトラモント黄皇国との、西にはルエダ・デラ・ラソ列侯国との領土を分かつ長大な城壁が(そび)()っており、砂王国は実質〝壁の中の国家〟と言える。

 南部に広がる広大な岩石砂漠(死の谷)は谷を横断するシャールーズ河の恵みでいくらか潤っているものの、竜人族の領分であるためシャムシール人も滅多に立ち入ることはない。

 主な家畜は駱駝(らくだ)、馬、豚。なお詳しくは後述するがシェイタンではゴミ、汚物の他、人間の遺体も街中に放置されることが多く、街の掃除屋として豚は放し飼いされている。雑食の豚は生ゴミのほか人間も食べるため、シェイタンで放畜されるタンズィフ豚は人肉を餌として肥えている事実がある。

 こうした豚に持ち主はおらず、シャムシール人は街中で半野生化し勝手に繁殖しているものを狩って食糧とする。またラムルバハル砂漠には野生の禿鷲(はげわし)も棲息しており、彼らもまた路傍の死肉を(ついば)んで死体の処理にひと役買っている。


(シャマール駱駝イメージ画像)

挿絵(By みてみん)


(タンズィフ豚イメージ画像)

挿絵(By みてみん)


(シャハラ鷲イメージ画像)

挿絵(By みてみん)



【文化】

 公用語はハノーク語。国外から様々な人間(傭兵や奴隷)が出入りするため、他国のようにシャムシール人を象徴するような特徴的な訛りは見られない。

 住民の姓名にまつわる制度がないため姓は持たず、名前だけで生活する者が多い(砂王国で生まれた奴隷はそもそも名前すら持たないケースも散見される)。こういった環境から偽名を名乗っても何ら問題はなく、(すね)に傷のある人間が外部から流れ込んできて隠れ住むには絶好の国である。

 住民の文化的・生産的な活動は皆無と言ってよく、識字率は周辺諸国と比較しても最低レベル。娯楽と言えば賭博か姦淫か飲酒、あるいは乱闘しかなく、シェイタンの街中では毎日頻繁にシャムシール人同士の殺し合いが発生している。

 またシェイタンには公衆浴場が存在せず、シャムシール人は1年を通してほとんど入浴をしないのが普通。街に数ヶ所ある井戸は持ち主(「井戸守り」と呼ばれる)が定められており、飲料水を汲んだり水浴びがしたい場合は各井戸の井戸守りに水代を払わなければならない(水代の相場は桶1杯につき1金貨(シール)前後)。

 なおこれらの井戸は一応砂王の所有物ということになっており、井戸の管理権は戦で著しい功績を挙げた者に下賜される。よっていかなシャムシール人であろうとも、井戸守りを殺して管理権を強奪するという行為は固く禁じられており、井戸守りを害した者は例外なく処刑される決まりとなっている。

 シェイタンで暮らす人間は基本的には砂賊(傭兵)か奴隷のどちらかだが、一応農夫や酒造人、鍛冶師、宿屋経営者等、住民の暮らしに必要な肩書きを持つ者も最低限存在する。住民が暮らす住居の大半は奴隷に建設させたもの。

 と言ってもどの家が誰のものという明確な所有権はなく、あくまで住民各自が己の〝縄張り〟として認識している程度。シェイタンにある建物のほとんどは砂漠の砂を利用した塗り壁や日干し煉瓦を建材としており、屋根は陸屋根のものが圧倒的多数を占める。寝床は床に直接枯れ草を敷いただけのものが最もポピュラー。便所はなく、用を足す際は道端で済ませるのが一般的である。

 日中は砂漠の暑さを凌ぐため、大通りにいくつも用意された天幕(ルーフタープのような形状のもの)の下で過ごす者が多い。シェイタンの街中には天然の地下道(井戸の水源)への入り口が点在しているが、地下道内は竜人の縄張りとなっており、好んで下りる者はほとんどいない。



【食文化】

 住民の気質と砂漠という環境により、食糧自給率は周辺諸国の中でも最低。農夫の数や耕地面積が少なすぎるため、野菜類の流通は雀の涙程度。栽培されている作物は耐熱性の高い根菜や豆類が主。

 ただし街中で勝手に繁殖する豚の数は多いため、食肉に限って言えば入手がたやすく、必然的に肉料理ばかりが食される。しかし料理とは名ばかりであまり凝った調理はされず、塩と香辛料を振りかけただけの串焼きや、ミンチにした肉を放り込んだだけのスープ等が代表的なシャムシール料理である。

 それ以外の衣食のほとんどは他国からやってくる行商人と近隣諸国からの略奪に頼り切っている状態だが、最も需要の高い酒だけは自主生産されており、サボテンに似た耐乾植物「アルシュク」を原材料とした砂王国独自の酒が好んで飲まれる。この酒は原料の名前をそのまま取って「アルシュク」と呼ばれ、シャムシール人は昼夜を問わず、浴びるようにアルシュクを飲むのが日課となっている。


【国民性】

 非常に粗暴で好戦的。住民のほとんどが戦(略奪)によって生計を立てているため、暴力を好む傾向がある。弱肉強食の気風が強く、自分より弱い者には一切の容赦をしない。大抵の物事は金か暴力で解決できると考えており、シャムシール人との平和的意志疎通は不可能と言って良い。

 彼らの間では外の国の常識は一切通用しない。良識ある人間がもし何らかの事由でシェイタンに立ち寄らなければならない場合は、砂避けの外套等で顔を隠し、行動するときは人目を忍び、仮にシャムシール人と鉢合わせた場合は決して目を合わせない・声をかけないのが命を守る最善の方法である。当然ながら彼らは他者の命を奪うことに何の抵抗も感じないため、たとえ同じシャムシール人であっても利害関係が一致しない場合はためらいなく殺害する。暴力と酒と賭博、そして姦淫をこよなく愛し、弱者をいたぶることに快楽を覚える者が多い。

 なお日頃から不衛生極まりない生活を送っているせいか、シャムシール人は多少のことでは体を壊さず、腐った食材も平気で食す。

 体格は大柄で筋肉質、褐色の肌の者が多く、食欲旺盛な竜人(ドラゴニアン)にすら「シャムシール人は臭いしまずいし食いたくない」と言わしめるほど。他国民からは「野蛮人」のレッテルを貼られ、激しく蔑視されている。



【宗教】

 シャムシール砂王国はエマニュエルで唯一の無宗教国家である。シャムシール人は無神論を信奉しており、神の存在を信じない、あるいは神に反抗することを何よりも尊ぶ。〝神への反抗〟とは具体的に言うと神々の教えを破ることであり、シャムシール人が暴力や争いを好む背景にもこうした無神論主義がある。

 彼らは敢えて神を(いか)らせる行いをすることで自らの度胸と悪徳を示し、それを誇るという一風変わった精神的文化を持っている。

 このためシャムシール人の多くは神刻(エンブレム)を刻んでも神術を行使することができず(※3)、神刻の力に頼る者はむしろ軟弱者として失笑を買う傾向にある。

 なお彼らが近隣諸国へ侵攻した際、宗教関係施設を真っ先に襲撃する理由もこれ。シャムシール人は神を信奉する教会・教団の施設を破壊したり、聖職者を(なぶ)(ごろ)しにすることに喜びを感じており、たとえ自国内であっても聖職者を発見すればただちに命を狙う。

 ときには捕らえた聖職者を誰が処刑するかで争いが起きることもあり、彼らは神への反抗を〝景気づけ〟または〝験担ぎ〟のように捉えている模様。なおこうした思想から彼らは死者を弔わず(※4)、砂王国には葬儀や墓という概念が存在しない。シェイタンの街中に死者の亡骸が放置されているのはそのため。

 ただしあまりにも通行の邪魔になったり、腐敗臭がひどすぎる場合、死体は奴隷によって旧市街(※5)へと運ばれる。この旧市街はシャムシール人にとっての死体置き場となっており、道の両脇に死体が積み上がっていることから通称「死体通り」と呼ばれている。



【冠婚葬祭・礼儀作法】

 シャムシール人に婚姻という概念はない。彼らにとって異性とはただの性処理の道具である。ゆえに親子、家族、親族といった血縁による関係性の重視も皆無といってよく、大抵のシャムシール人は姦淫した相手が子を孕んでも認知しないし、母子共にあくまで〝赤の他人〟である。砂賊たちの長たる砂王に至っては、我が子を〝王座を狙う敵対者〟として警戒するあまり、母親に堕胎を強要したり赤子のうちに殺害したり砂漠に捨てたりすることを(いと)わない。

 またシャムシール人に礼儀や作法というものを求めるだけ無駄である。彼らの間にあるのは〝強い者には従う〟という暗黙の了解のみで、年齢や経験、身分の差から相手を敬ったりへりくだったりするという発想がそもそもない。

 シャムシール人が他者と相対するときに重視するのは〝相手は自分より強いか弱いか〟、それを見極めることのみである。



【商業】

 砂王国にもわずかだが商業を生業としている人間がおり、彼らは主に食糧や酒、麻薬、奴隷を商品として扱う。商品の仕入れは大抵の場合、近隣諸国の闇市で行われる。これは一般的に、近隣諸国がシャムシール人に物を売ることを法で禁じているためである(よって原価が非常に高い)。

 さらに商品を運ぶためにはラムルバハル砂漠を往復しなければならないことや、いずれの商品も国内では貴重品であることなどが加味され、物価は常に暴騰状態。もっとも大抵のシャムシール人は大金を所持しているため、他国人から見れば法外な値段であっても、彼らの間ではそれが通常の相場として認識されている。

 また砂王国には近隣諸国からの行商人も頻繁に出入りする。上述したようにシャムシール人を対象とした物の売買は固く禁じられているにもかかわらず、彼らはシャムシール人が通常価格の2~5倍の値で商品を買い取ってくれることを知っているため、砂漠の対岸にある国へ商いへ行くと見せかけ、途中でシェイタンに立ち寄って商売をするのである。

 こういった不正を防止するため、近隣国では入出国時の積荷のチェックを厳重化しているものの、商人たちもあの手この手で監視の目を掻い潜るため未だ規制が功を奏していない。なおこうした商人たちの出入りがなくなれば、食糧自給率が極めて低いシェイタンでは住民の生活が成り立たない。このためシャムシール人は「商人とは決して揉めない・脅さない・襲わない」という暗黙の了解を守っており、商人を襲って略奪等を働いた者は例外なく処刑される決まりとなっている。



【特産品】

・砂金

・夜光石

・鉄鉱石

・岩塩

・アルシュク酒



【敵対国】


◆トラモント黄皇国

 シャムシール砂王国の東に君臨する大国。水源豊かで肥沃な大地を有する黄皇国はシャムシール人にとって垂涎の楽園であり、古くから領土を巡る諍いが絶えない。対する黄皇国は砂王国の存在を非常に疎ましく思っているが、ラムルバハル砂漠を横断しての砂王国侵攻は気候・環境・兵站等の観点からかなり厳しく、また仮に征服したところで領土としての旨味がないため、国境の守りを固めるに留まっている。


◆ルエダ・デラ・ラソ列侯国

 シャムシール砂王国と西の国境を接する連合国家。列侯国の前身であるアルコイリス法王国の時代から砂王国とは犬猿の仲。東のトラモント黄皇国に比べると国力は見劣りするものの、軍事後進国で攻めやすいという理由から度々列侯国の侵略を受ける。なお通暦1458~1461年にかけて、のちに歴史的和解と呼ばれる『砂虹(さこう)同盟(どうめい)』が締結されたこともあったが、列侯国が内乱で疲弊しているのを見た砂王国が我慢できずに侵略へ踏み切ったことで、あえなく同盟関係は崩壊した。



【同盟種族】


竜人(ドラゴニアン)

 ラムルバハル砂漠の南部に広がる死の谷を縄張りとする獣人。戦闘能力が極めて高く、人間を好んで捕食することからシャムシール砂王国が発足する前は砂賊にとっても天敵だったが、現在は同盟関係を結ぶことで共存に成功している。

 この関係を維持するために、砂王国側は戦争(略奪)で獲得した捕虜や奴隷の一部を竜人に食糧として供給。対する竜人はその見返りとして戦時には砂王国軍の戦力として馳せ参じることを約束しており、この盟約が守られる限り竜人は決してシャムシール人を襲わない。なお竜人族は独自の言語を保持しており、人間との意志疎通は不可能と言われているが、シャムシール人との交渉のため、ごくわずかではあるもののハノーク語を話せる者が存在する。



【イメージBGM】


◆ラムルバハル砂漠

https://youtu.be/HeSDv6v5-IU


◆死の谷

https://youtu.be/JdSJUFMQMn8


(※1)

 金泉(きんせん)とは、ラムルバハル砂漠で見られる自然現象のこと。その名のとおり、砂漠の砂の下から泉のごとく砂金が溢れてくる現象で、発生位置や時期は完全にランダムである。実はこれは砂漠の地下で暮らす岩蚯蚓(イワミミズ)の排泄行為であり、早い話がラムルバハル砂漠の砂金=岩蚯蚓の糞。

 岩蚯蚓は体長1mほどにもなる大型の蚯蚓で、長い時間をかけながら牙で岩を削り取って食べる。ラムルバハル砂漠の地下には金鉱石を含んだ岩盤が広がっており、岩蚯蚓はこの金鉱石をも細かく砕きながら食糧としたのち、排泄の際に体外へ排出しているのである(金はいかなる生物も消化することができないため)。

 なお岩蚯蚓は排泄を行う際、地表付近に排泄口を突き出す習性があり、これが砂金の出現を泉のように見せている。金泉の正体を知る者は未だエマニュエルには現れていないが、正直なところ知らぬが仏。


(※2)

 ラムルバハル砂漠とは北西大陸南中央部に広がる砂砂漠(すなさばく)のこと。東のトラモント黄皇国と西のルエダ・デラ・ラソ列侯国に挟まれ、東西の距離はおよそ3000kmにもなる。伝説によれば、ラムルバハル砂漠は元々緑豊かな樹海だったが、神話の時代に起こった神界戦争のさなか、太陽神シェメッシュの振るった《太陽の槌》が直撃して焼き払われ、降り積もった灰によって砂漠化したという。

 その伝説を裏づけるかのように、砂漠の下には広大な岩の大地が広がっており、天然の地下道が迷宮のごとく張り巡らされている。

 この地下道の存在を知る者は砂漠の外にはほとんどおらず、普段は南の死の谷で暮らす竜人(ドラゴニアン)たちの生活圏となっているため、好んで近づく者もいない。

 竜人たちは死の谷からつながるこの地下道を生物の腸に見立てて『大地の肚(レドヌ・ダオル)』と呼んでおり、死んだ同胞の墓場にしたり、鉱石の採掘をしたりと様々な用途に活用している。また、ラムルバハル砂漠に点在するオアシスは地下道のあちこちにある地底湖とつながっている場合が多く、地底湖に棲み着く淡水魚などの生物は竜人の貴重な食料源となっている。

 なおラムルバハル砂漠には竜人の他にも、スナヘビや大サソリなど人間を捕食する危険生物が多い。加えてシャムシール人に略奪の対象として狙われる危険も伴うことから別名「死の砂漠」とも呼ばれ、腕に覚えのある傭兵であっても、可能であれば海路を使って迂回することが多い。

 しかし商魂逞しい商人たちは数少ない例外であり、彼らはシャムシール砂王国へ行けば酒や食糧がかなりの高値で取り引きできることを知っている。

 ゆえに命懸けで砂漠へ繰り出す者も多く、こういった商人はラムルバハル砂漠を横断する間だけ同業者と徒党を組み、隊商(キャラバン)として団体で旅をする。複数の商人が集まれば共同で出資して護衛の傭兵を雇うことも容易となり、また砂漠で危険生物に遭遇しても他人を囮にして逃げることができるためである。

 また、こうした商人たちはラムルバハル砂漠に存在する『岩道(がんどう)』を知っている。岩道とは地下の岩盤が迫り上がって砂深が浅くなっている道のことであり、この岩道では危険生物が砂に潜って獲物を待ち伏せすることができない。

 このため熟練の商人たちは岩道の場所や距離を完璧に記憶している。よってどうしてもラムルバハル砂漠を横断したい場合には商人たちの行商に同行するのが最も安全で確実な策。ただし中には高額な案内料を要求したり、偽物の岩道の地図を売りつけたりする悪徳商人もいるため、交渉の際には注意が必要である。


(※3)

 通常、神刻(エンブレム)とは術者の祈りと信仰心を糧として神術を発動する。神術の才能は生まれながらの素質に左右される部分が大きいものの、信仰心が深ければ深いほど威力・効力が倍増する傾向があり、逆に不信心な者はいくら祈唱(きしょう)を唱えても微弱な神術しか使えない。これが無神論者となれば論外であり、神を信じぬ者に精霊たちは決して力を貸さない。なお信仰心の薄い者が神術を行使するためには、一般的な術者よりも長い祈唱が必要。逆に正しい信仰と才能を持つ術者は祈唱の省略が可能だが、こういった術者が敢えて長く複雑な祈唱を唱えれば、その分神術の威力や効果も増大する。


(※4)

 エマニュエルにおいて人間は死後、魂のみの存在となり天界へ召されると信じられている。魂はそこで天樹エッツァードの実に宿りきらきらと輝く。この輝きが地上では「星」と呼ばれる。

 やがて長い年月をかけて実が熟すと、地上に落ちて死者は新たな命に生まれ変わる。その際、天樹から落ちる魂のきらめきが地上からは流星に見える。

 生命神ハイムが定めたこの輪廻転生の理により、生命は永遠に循環し続ける。しかし死者の魂が天界へ召されるためには幾つかの条件を満たす必要があり、そのひとつが〝生者による弔いと祈り〟である。

 死後、適正に弔われなかった魂や、誰にも安息を祈ってもらえない魂は天へと昇ることが叶わず、逆に魔界へ引きずり込まれて魔物に成り果てると言われる。ゆえに人々は親しい者の死を悼み、弔意を捧げて来世での再会を祈るのである。

 が、無神論主義のシャムシール砂王国では、そもそもこの輪廻転生が信じられていない。よってシャムシール人は死者を弔う必要性を一切感じておらず、遺体もそのまま放置する。砂王国に墓が存在しないのはこのため。

 こうした事情から砂王国は別名「無墓(むぼ)の国」とも呼ばれ、人の生死を何とも思わないシャムシール人の非情さの象徴となっている。


(※5)

 旧市街とは、シェイタン西区の外れにある廃墟街のこと。詳細な時期については不明だが、数十年前に規格外の砂嵐の直撃を受けてほとんどの建物が倒壊し、居住が困難となったため現在は打ち捨てられている。

 住む者がいなくなったせいで旧市街の大半は砂に埋もれてしまっているが、シャムシール人はここを死体置き場として利用している。死者が一切弔われないシェイタンでは街中に多数の死体が転がり、どうしてもこれを放置できなくなった場合、シャムシール人は奴隷に命じて死体を旧市街へ運ばせる。

 こうして遺棄された死体が道端に山積みになっていることから、旧市街は通称「死体通り」と呼ばれる。当然ながらハエやウジ虫、禿鷲(はげわし)の糞害などがひどく、死体の山が放つ腐敗臭もとんでもないことになっていることから、現地人ですらも滅多なことでは近寄らない。

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