国家・地域③──ツァンナーラ竜騎士領
【領土名】
ツァンナーラ竜騎士領
【開谷年月日】
通暦300年頃(正確な年月日は不明)
【開祖】
不明
【人口】
およそ300人(人間のみ)
【主要な集落】
竜の谷
【国章(騎士団章)】
『天空の支配者』
(シンボルの意味)
・円描く雄竜
→竜族の王であり象徴でもある唯一の雄竜(竜父)を表すシンボル。円を描くような姿をしているのは、エマニュエルにおいて〝円〟は天空を表す記号(※1)であるため。
・竜槍
→竜と契約した竜騎士たちの象徴。竜槍が竜の紋章の下に描かれているのは、竜父こそが谷の竜と竜騎士を統べる存在であることの表れである。
なお『翼と牙の騎士団』の騎士団旗は、竜父が代替わりする度に色が変わる。旗の色は常に天空を意味する青色だが、紋章の色はその都度当代の竜父の体色に塗り替えられる。よって通暦1480年現在は青地に金色の騎士団旗となっている。
【歴史】
竜という生き物は神話の時代、自由の神ホフェスによって創られた。ホフェスは空飛ぶ術を持たない人類を憐れみ、彼らの友として竜を与えた。
人と竜は固い絆で結ばれ、共に神界戦争を戦ったが、この頃はまだ彼らの間に血の契約は通っていなかった。竜と最初に血の契約を交わしたのは、竜の谷に伝わる伝説によればアルビナという名の白き少女であったという。
神界戦争ののち、その力を人類に悪用されぬために数を減らした竜たちは、トラモント地方の北方に聳える竜牙山脈(※2)に隠れ棲むようになった。
彼らが神々に与えられた役目は遥か天上から人類の営みを見守り、人が道を過とうとしているときには彼らを導くことだった。
しかし人間たちは次第に竜族への畏敬を忘れ、彼らを〝狩猟〟の対象としていく。不老長寿をもたらし、万病にも効くとされる額の竜命石(※3)を狙われた竜族はやがて人類に失望し、彼らに手を差し伸べることをやめた。
されど伝説の少女アルビナは、その穢れなき心で最初の竜父と心を通わせ、決して裏切らないという誓いのために彼の血を呷った。以後、最初の竜父とアルビナは心清らかながらも濁世で行き場を失った人間たちを谷に匿い、共に暮らすようになった。こうして集められた人間たちが支え合い、竜と共存するようになったのがツァンナーラ竜騎士領の始まりと言われている。
【体制】
竜父と呼ばれる唯一の雄竜と100頭前後の雌竜、そして300人ほどの人間によって構成される小さな集落。明確な掟はあるが政府や司法は存在せず、また貨幣も流通していないことから、厳密には国家ではない。
ツァンナーラ竜騎士領唯一の集落である竜の谷は竜父によって治められ、谷では竜父の言葉が絶対視される。ゆえに竜父は神聖なる不可触の存在として扱われ、パートナーとなる竜騎士を持たない。
このため谷の唯一の戦力である『翼と牙の騎士団』に所属する竜はすべて雌竜であり、竜父の生みの親である雌竜が「竜母」と呼ばれ彼女らを統率する。竜母と契約を結ぶ竜騎士は必然的に騎士団の団長という扱いになり、およそ100名の騎士団員の頂点に立つ。なお竜父の代替わり前に竜母が死去した場合は、存命中の竜の中で最も高齢の者が次代までの中継ぎ竜母となる。その他、竜に関する詳しい解説は同章「種族①──天界・魔界・人界」-「竜族」を参照のこと。
天嶮として知られる竜牙山脈の中腹にあるため、外界の人間はほとんど寄りつかず、竜とわずかな人間たちによる自給自足の生活が基本。かつて竜騎士だったフラヴィオ・ヴァレンティーノが建国したトラモント黄皇国とは同盟関係にあるものの、よほどのことがない限り下界の物事には干渉しない。なお「ツァンナーラ」とはトラモント地方の古い言葉で「翼と牙」を意味している。
【地理】
草木も生えぬ鋭き岩山として有名な竜牙山脈の中腹にある集落。山脈の中核をなす竜牙山は標高8000mを超える天嶮であり、竜の谷があるのは3200mほどの地点。長年この土地で暮らし、また竜の背に乗って大空を飛び回っていることから、谷で暮らす人間たちは遺伝的に高度順応しており、地上4000mくらいまでであれば平地と同じように活動できる。また冬が極めて厳しい土地としても知られ、竜の谷の住人は耐寒性に優れることでも有名。
高地のため栽培できる作物は限られており、住民はわずかな土地にライ麦や山稗やナナ芋、オラーン豆などの作物を植えて自給自足の生活を送っている。古くから竜牙山脈に棲息しているピエトラ山羊を家畜化した谷山羊が唯一の家畜であり、谷山羊の乳から作られるツァンナーラ・チーズは麓でもそこそこの知名度がある。
また北側がクロス海に面しているため竜たちは時折海へ狩りに行き、魚や鯨を獲ってくる。神性生物である竜はほとんど食事を必要としないものの、古くからこの鯨が大好物。
さらに鯨皮は油や石鹸の原料として、骨は畑の肥料として、髭や歯は細工物として利用できることから、鯨が運ばれてくると谷はちょっとしたお祭り騒ぎになる。
竜牙山は草木が少ない代わりに鉱脈豊かな山としても知られており、主な燃料は石炭。鉄鉱石や銅鉱石、神刻石の産出も盛んで、人口に比して神術使いの割合が多いのはこのためである。
(谷山羊イメージ画像)
【文化】
閉ざされた山の中にある集落のため、住民の暮らしは非常に質素。外界との交流が極めて少ないこともあり、古くから変わらない牧歌的な生活が営まれている。ハノーク大帝国時代にも独立と不干渉を貫いた歴史を持つが、現在の公用語はハノーク語。元はトラモント地方に伝わる古言語が話されていたものの、トラモント黄皇国との同盟が結ばれたことで次第にハノーク語が浸透した。
竜たちは孵化したときから神語を解するが、生まれてから死ぬまで一度も神語を使うことなく一生を終える竜もいる。何故なら神々の言葉は非常に強い力を持ち、場合によっては人の魂を縛りつけてしまうためである(たとえば神語で「死ね」と口にすれば、本気で死を願ったわけでなくとも相手を自殺に追い込んでしまうことがある)。ただし竜同士の会話であれば神語が相互の魂に影響を及ぼすことはなく、また血の契約を結んだパートナーであっても神語だけは聞き取ることができない(神語に明るい人物であれば言語として理解することは可能)。
このため竜たちは、どうしても人間に聞かれたくない会話は神語によって交わすことがある。しかしまだ物の分別がつかない幼竜は遊び半分で神語を使ってしまうこともあるため、成竜たちによる正しい教育が必要である。
谷の竜たちは普段は人の姿で暮らしており、日常生活を営む中で竜の姿を取ることは滅多にない。何故なら谷の建造物はいずれも人間に合わせた大きさで造られており、竜の巨体で谷を歩けば様々なものを破壊してしまうためである。しかし卵から孵ったばかりの幼竜は10歳頃まで人の姿になる術を持たず、ある程度成長してようやく人化の方法を学ぶ。中には人化の術を身につけるまで時間のかかる個体もおり、過去には一生人の姿を取れずに竜のまま過ごした個体もいるという。
竜が己の騎士となる人間を選ぶのは人化の術が使えるようになってから。年齢的には14~17歳頃になって初めて血の契約を結ぶ竜が多い(個体差はあるものの、ある程度肉体が成熟しないと人間を乗せて飛べないため)。
契約の対象となる人間も比較的10代であることが多いが、中には20~30代になってから竜に選ばれる者もいる。最年少記録は12歳。竜は元々人間に寄り添うために創られた生物であることから、人類の敵となることがないよう谷の掟によって必ずパートナーを持つことが定められている。
竜にパートナーとして認められた人間は、竜父の居城である竜宮砦にて竜騎士の叙勲を受け、その際竜父から竜鎧と竜槍、そして竜頭兜という三種の竜具(※4)を授けられる。中でも竜頭兜は竜騎士に選ばれた者の象徴であり、竜父が新しい騎士の誕生を祝して手ずから兜を被せることから、この叙勲の儀式は『戴兜式』と呼ばれている。
反対に一生を竜に選ばれることなく過ごす人間も大勢いるが、谷で生まれた者は誰もが『翼と牙の騎士団』の支援要員である。彼らは竜騎士たちが戦いや訓練に集中して臨めるように、日常生活に必要な役割の一切を担う。農耕や牧畜、炭鉱での採掘、衣類等の日用品の調達といった労働はすべて彼らの役割であり、有事の際には谷の住民が一丸となって事態解決に臨む団結力が日頃から培われている。
なお谷の民が着用する衣類は谷山羊の獣毛を用いた毛織物製のものが一般的。染色に用いる顔料の素材が少ないため、基本的に白一色(生成り)のものが多い。建物には山から切り出した石材がそのまま使われており、集落の景観は灰色一色。
また寒冷地のため風呂がこよなく愛され、同じく山から採れる岩石を使った蒸し風呂が公衆浴場として存在する。蒸し風呂は湯着をまとって入浴するのが一般的なため、基本的には男女混浴。谷で唯一の浴場はいつも人や竜で賑わい、住民たちの憩いの場となっている。
【食文化】
耕地が少なく動植物もほとんど自生していない土地のため、食生活は慎ましやか。主食は稗、芋、豆と谷山羊の乳から作る乳製品で、稀に竜たちが狩ってくる鯨肉の大半は保存食として食べられる。その他、狩人たちが獲ってくる野兎、野鼠、野山羊なども貴重な食糧源。山脈の一部の山々からは岩塩が採れるため、塩は海水塩よりも岩塩が好んで使われる。
夏場でも気温が10℃を下回る日があることからスープ等の温かい料理や、火焔草と呼ばれる香草(竜牙山脈で唯一採取可能な香辛料)を使った辛味の強い料理が好まれる。特に『ズッパ・ロッサ』と呼ばれる火焔草を使った真っ赤なスープが代表的な郷土料理。
他にも谷山羊の乳から作ったチーズで焼いたグラタンやリゾット、ドリアの他、山羊の心臓の串焼き(スピエディー二)や、みじん切りにした野菜と塩漬け肉(挽き肉)を混ぜたものを黒鉄蔓の葉に包んで焼いた葉包み焼き(フォリヤ・パッコ)などもよく食べられる。フォリヤ・パッコは焼き上げると黒鉄蔓の葉が春巻の薄皮のようにパリパリになり、閉じ込められた肉汁と食感を同時に楽しめる料理として谷の子供たちに大人気。
なお谷で手に入りにくい食材については竜騎士たちが麓の人里へ交渉に赴き、物々交換で仕入れてくることもある。特に竜の谷の民芸品である竜鱗細工(※5)はトラモント黄皇国等で喜んで取り引きされるため、貨幣がなくても困らない。また谷の坑道から採掘される宝石も貨幣に代わる代物として大切に管理されている。
【領民性】
人の魂の色やにおいを嗅ぎ分ける竜と共に暮らす民であるため、ツァンナーラ竜騎士領の領民には無私無欲で清廉潔白な人物が多い。あまりにも濁った魂の持ち主はひどい悪臭を放ち、穢れを嫌う竜たちによって追放されてしまうためである。
加えて竜に竜騎士として選ばれることは谷の人間にとって最大の栄誉であり、子供の頃から誰もが竜騎士に憧れる。しかし竜騎士になれるのは武芸に優れ、聡明で身も心も清らかな者だけと決まっている。
ゆえに谷の子供たちは幼い頃から己を厳しく律し、体を鍛え、勉学に励む。そうした環境で育つがゆえに、ほとんどの子供が勤勉で誠実な大人に育つのである。
なお竜牙山は冬が長く、冬季は日照時間も少ないために、肌や髪や瞳の色素が薄い人間が多い。特に瞳は驚くほど澄み切っており、〝世界一美しい瞳〟として有名。髪は金髪や銀髪、瞳は碧眼が圧倒的に多い。なお竜騎士たちは心話を使って竜と会話するのが習慣化しているため、外界の人間には寡黙と誤解されがち。
【宗教】
ツァンナーラ竜騎士領はしばしば〝天界に最も近い谷〟と呼ばれるが、実際に谷で暮らす住民たちは天界の神々よりも神性生物である竜を信仰の対象としている。特に竜父を神聖視する風潮が根強く、代々の竜父は生き神のごとく崇められてきた。これは谷で唯一の雄竜である竜父が失われれば竜族は繁殖できず、滅びの運命を辿るため。よって谷の民たちは竜父を〝微瑕ひとつつけてはならない不可触の存在〟と認識しており、竜父も滅多なことでは人前に姿を現すことはない。
とは言え天界の神々に対する信仰心が決して薄いわけではなく、特定の教会や教団を持たないだけで日々当たり前に神々を信仰している。とりわけ人類に竜を下賜したとされる自由の神ホフェスへの信仰心は厚く、毎年夏至の日にはホフェスへの感謝を捧げる『竜翼祭』が開催されるほど。
この『竜翼祭』では現役の竜騎士たちが曲芸飛行を行ったり、その年最強の竜騎士を決める武闘大会が開かれたり、竜たちが騎士の称号を持たない人々を乗せて飛行する遊覧飛行が行われたりする。エマニュエルの冒険家の中にはこの祭りをひと目見ようと(そしてあわよくば竜の背に跨がる僥倖に浴しようと)竜牙山登山に挑む者も少なくない。ただし夏の山も雪がないだけで落石や滑落の危険は変わらず、谷へ辿り着く前に命を落とす者があとを絶たない。
【冠婚葬祭・礼儀作法】
外界との接触がほとんどないため、谷の住民同士の婚姻が相次ぎ、非常に血の濃い集落となっている。掟により肉親との結婚は禁じられているが、四等親以上離れていれば親族とも婚姻が認められ、現在では住民全体が血縁関係を持っていると言っても過言ではない。
竜と人間の婚姻は認められておらず、人間はあくまで人間と家庭を築くことが大前提。これは竜が人間と交わると竜としての力を失い、ただの人間となってしまうためである。竜と人間の婚姻を許せばそのようにして次第に竜の数が減り、竜族が滅亡の危機に晒されてしまうことから、竜と交わる禁忌を犯した者は追放または極刑という厳格な処分が下される。
竜同士の繁殖は隔月(新月の日)に行われ、新月の晩が来る度に雌竜が竜宮砦へ上って竜父の伽を務める。この行為は伽番と呼ばれ、ひと晩のうちに砦へ呼ばれるのはあくまで一頭のみである。伽番を務める雌竜は竜父が任意で選ぶわけではなく、谷にいるすべての雌竜が持ち回りで務めることになっており、竜たちは〝夫婦〟や〝結婚〟といった概念を持たない。
なお伽番が持ち回りで行われるのは、竜父が特定の雌竜を偏愛し、他竜との間に子孫を残すことを拒めば種の存続に関わるため。神性生物である竜族は近親同士で交わっても子に影響することはなく、竜父は己の子とも繁殖を行う。
また掟によって特定の相手に懸想することが固く禁じられており、竜父はあくまでも平等にすべての雌竜の相手を務めることが義務づけられている。ちなみに竜族の性交渉は人の姿で行われるが、出産形態は卵生。雄も雌も性欲はなく、伽番はあくまで繁殖のために必要な義務的行為として認識されている。
葬法についてはエマニュエルで唯一『竜葬』が行われる地域であり、谷で死者が出ると葬儀ののち、竜の姿となった竜父が死者を丸呑みにする。これは死者の魂を竜父が取り込み、次なる命へつなぐという魂の循環を意味する儀式。竜も人も死せば平等に竜父の血肉となるが、竜父が幼く死者を呑み込めるほど成熟しきっていない間は竜母が代わりに竜葬を務める。谷で新たに生まれる竜は、こうして死んでいったかつての仲間の生まれ変わりであると固く信じられている。
また、竜族は喉もとに「逆鱗」と呼ばれる逆さに生えた鱗が一枚だけあり、これに触られると痛みを伴うために、たとえ相手が竜騎士であっても喉もとに触れられることを嫌う。これは人の姿のときも同じで、首筋~喉もと付近に触れられると竜たちは我も忘れるほどに怒り狂う。
ゆえに竜騎士領では〝他者の首もとに触れてはいけない〟という暗黙の了解があり、これは人間同士であってもマナーとして適用される。竜の谷の住民にとって首もとへ手を伸ばしたり胸ぐらを掴んだりする行為は最大の侮辱であるため要注意。
なお竜と人間で最敬礼の形は異なり、竜たちは相手に敬意を表するとき、跪いてやや頭を垂れ、己の竜命石を差し出すような仕草を取る。これは人間でたとえるならば自分の心臓を差し出すようなものであり、それだけ相手を深く信頼していることを表す。
一方、人間(特に竜騎士)は右手の拳で己の左胸を叩く仕草を最敬礼とする。これは神話の時代、始祖の竜が生涯の友とした英雄ユバルに己の心臓の半分を与え、死に頻した彼を生かしたという伝説によるもの。始祖の竜の心臓を与えられたユバルは竜と命を共有する存在となり、一生を竜と共に生きた。竜騎士たちはこの伝説になぞらえて胸を叩き、己が魂が竜族と共にあることを示す。
【特産品】
・竜鱗細工
・竜角細工
・石炭
・鉱石
・宝石
・蔓縄(黒鉄蔓で編んだ非常に強度の高い縄)
・鯨肉
・ツァンナーラ・チーズ(伸びがよく味もまろやかだが、においがきついチーズ)
・赤胡椒(乾燥させた火焔草を粉末状にした香辛料)
【同盟国】
◆トラモント黄皇国
建国者にして初代黄帝のフラヴィオ1世が元竜騎士であることから、ツァンナーラ竜騎士領はトラモント黄皇国の建国以降、300年以上に渡りかの国と同盟関係を結んでいる。特にフラヴィオ1世の愛騎オリアナの子孫である代々の皇室とは非常に蜜月。しかし谷の掟を破って炎王軍の独立戦争に加担した上、オリアナと交わって竜の力を奪ったフラヴィオ1世は現在も谷の鼻つまみ者であり、彼が黄皇国の歴史に刻んだ功績は、竜騎士領では大罪として語り継がれている。
【イメージBGM】
◆竜の谷
https://youtu.be/s749S6PimLo
(※1)
円という記号(〇)は四角(□)や三角(△)とは違い、どこまで行っても角=行き止まりがない。行き止まりがないということは果てがないということである。ゆえにエマニュエルではこの記号がしばしば天界や天空を表すものとして使われる。また円は「(魂の)循環」や「無限」を表すこともある。
(※2)
竜牙山脈とは北西大陸南部、トラモント黄皇国の北方に聳え立つ山脈のこと。巨大な剣山のごとき姿をした岩山で、大地からいくつも突き出す山々が竜の顎に見えることから「竜牙山脈」の名がついた。
山脈のほぼ真ん中に切り立つ竜牙山を中心とした山脈で、いずれの山々も岩石の塊であることから、棲息する動植物はとても少ない。標高は最も高いところで8617mにもなり、冬の間は山脈の大半が氷と雪に覆われる。道と呼べるような道はなく、山頂を目指すには断崖絶壁の上にある細い足場を渡っていくか、岩壁を登攀するしかない。このため好んで近寄る人間は滅多におらず、麓から自力で竜の谷を目指すのはほぼ不可能と考えられている。
しかしこうした環境を隠れ蓑として利用する者たちもいる。それが竜牙山脈に住み着く山賊たちである。竜牙山脈には現在6つの山賊団が隠れ住んでおり、彼らは麓で略奪を働いたのち、決まって山中のアジトへと逃げ込む。そうすれば軍が追ってこられないことを知悉しているためである。
6つの山賊団はそれぞれの山にそれぞれの縄張りを持ち、互いの領分を侵さぬように暮らしているが、代々竜牙山(彼らの間では「本山」と呼ばれる)を縄張りとする山賊が最も力を持ち、有事の際にはすべての山賊をまとめ上げる。この竜牙山の山賊は「大山賊」と呼ばれ、他の山賊から畏敬の念を持って仰がれている。
また竜牙山脈は石炭や鉄鉱石が豊富に採れる鉱脈としても知られ、麓にはいくつかの坑道がある。これらの坑道の大半は国が管理しているが、中でも山脈西部に存在するフィエール鉱山は罪人が送られる強制労働所としても有名。さらに山脈を構成する岩石は建築用の石材に使えることから、大小の石切場も点在している。
なおトラモント黄皇国の北辺を塞ぐように切り立つ竜牙山脈は、北のクロス海から吹き込む季節風を遮る壁の役割も果たしており、この山脈があるおかげで黄皇国の一部地方は冬場でも雪が少ない。ただし竜牙山脈自体は毎冬大量の降雪を観測するため、麓では雪崩等の雪害に注意が必要である。
(※3)
竜命石とは、生まれつき竜の額から生えている菱形の宝石のこと。名前のとおり竜の命そのものと言われる宝石で、竜はこの石が割れると死んでしまう。
また竜命石は竜が使う特異な力の源であり、彼らが神刻を刻まずとも神術に類する力を使えるのはこの石のおかげ。竜命石の色はその持ち主の属性を表し、赤なら火、青なら氷、緑なら風、黄色なら地、紫なら雷の神術を使える。竜命石の色(属性)は竜の体色同様個体によって異なり、卵の段階でランダムに決定される。
なお竜は総じて心話(※6)を使えるが、竜命石と竜命石を触れ合わせることによって同族と精神を通わせることもできる。たとえば何らかの理由で昏睡状態に陥った竜であっても、竜命石を触れ合わせることにより他竜と意思の疎通が可能。このため竜たちは互いの額を触れ合わせる仕草を最大の愛情表現としている(同じように竜人や亜竜も互いの額を擦り合わせてスキンシップを図るが、竜族との種族的・遺伝的関連性は不明。竜人や亜竜の鬣の生え際からは個体臭が分泌されるため、それを相手に擦りつけることで愛情を表現しているとする説もある)。
余談ながら竜命石には「薬とすれば万病に効き、服した者は不老長寿が約束される」という言い伝えがある。このため神界戦争以降、始世期の到来と共に人類は竜を友ではなく狩猟の対象として見るようになった。現在も竜命石を狙って竜の密猟をもくろむ輩はあとを絶たず、竜族が下界の事情に干渉したがらない理由の一つとなっている。
(※4)
三種の竜具とは、竜騎士が戴兜式の際に竜父から下賜される装備のこと。竜鎧、竜槍、竜頭兜の3つをこのように呼び、竜騎士はこれらの装備を身につけて戦に臨むこととなる。各竜具の詳細は以下のとおり。
・竜鎧
→大量に集めた竜の鱗を敷き詰めるように縫い合わせた、文字どおりの鱗状鎧。竜の鱗は下手な金属よりも硬く、防御性に優れることから、竜騎士の鎧として愛用される。一部の爬虫類や竜人、亜竜などは皮膚組織が硬質化してできる粒状鱗を身にまとっているが、竜の鱗は一枚一枚が折り重なるように生えた瓦状鱗。このため傷んだ鱗や古くなった鱗は自然と抜け落ち、新しい鱗に生え替わる(鱗が生え替わる過程で竜は痒みを覚えるため、岩場に体を擦りつけたり、竜騎士に頼んで古い鱗を取り除いてもらったりする)。竜鎧や竜鱗細工はこうした鱗を集めて作られるもの。大抵の竜騎士は愛騎の体色と同じ色の竜鎧を好んで着用する傾向がある。
(竜鎧イメージ画像)
※画像引用元↓
https://thinkertinkermaker.us/2014/05/30/dragon-queen-bodice-construction-part-1/
・竜槍
→地上の騎士たちが使う馬上槍によく似た形状の武器。ただし通常のランスよりも柄が長く、長柄の先に細長い鋼の傘がついている。これは巨大な竜の背中からでも攻撃が届くよう考案されたもの。なお竜騎士が普段から携行しやすいように柄は半ばから折れて外せる仕様になっており、自由に組立・解体が可能。地上では竜槍の長さがかえって仇となり、武器として扱いにくいことから、白兵戦の際にはどの竜騎士も竜槍を短槍に換装して戦う。なお取り外した柄も石突部に仕込み刃が隠されているため、緊急時の得物として有用。他にも竜騎士が愛用する武器として弩や飛刀が挙げられる。
(馬上槍参考画像)
※画像引用元↓
https://matome.naver.jp/odai/2145897696384932401
・竜頭兜
→竜の頭部を模した形の兜。頭部の覆いを自在に上げ下げできる真鍮製の兜で、装備者の耳のあたりには裏毛のついた耳当てが垂れている。これは気温の低い上空を竜に乗って長時間飛行していると、耳や両手の指先といった末端から体が冷えて、最悪の場合凍傷を引き起こす恐れがあるため。なお竜は-30℃~40℃程度の気温であればあまり暑さや寒さを感じないため、特殊な装備は不要。竜騎士は竜との五感の共有が可能であることから、上空で耳や鼻を覆っていても戦闘に支障はない。
(竜頭兜イメージ画像)
※画像引用元↓
https://www.deviantart.com/azmal/art/Dragon-Helmet-Progress-71333575
(※5)
竜鱗細工とは、竜の鱗を加工して製作された細工物の総称。首飾りや耳飾り等の装身具の他、ゴブレットや小物入れ等の日用品も存在する。
竜鱗細工のほとんどは谷の住民の愛用品となっているものの、一部は外界の人里との交易品としても扱われる。特に竜族の末裔である黄帝を君主と仰ぐトラモント黄皇国では人気の品であり、竜鱗=竜騎士領の貨幣と認識されるほど。竜の鱗は稀少価値が高いだけでなく、宝石のような美しい光沢を帯びていることから、地上では非常に高値で取り引きされている。
なお数十年に一度生え替わる竜の角を利用した竜角細工も竜騎士領の特産物の一つ。谷の住民が使う角笛や短剣(ナイフ)は竜の角を加工して作られたものであり、竜鱗よりも稀少で地上では滅多に手に入らないことから、一部の蒐集家の間では垂涎の品として扱われている。
(竜鱗細工イメージ画像)
※画像引用元↓
https://www.etsy.com/jp/search?q=dragon+scale&ref=pagination
(竜角細工イメージ画像)
※画像引用元↓
http://recorder0728.blog106.fc2.com/blog-entry-3.html
http://www.e-lsa.jp/shika.html
(※6)
心話とは口を使わずに心で会話するテレパシーのようなもの。竜族の他にも亜人の角人族が使えることで知られる。ただし同族同士でしか心話が使えない角人族と違い、竜族は種族間の垣根を超えて心話による対話が可能。これは竜族が竜の姿を取ると、口の構造の問題で言語を話すことが困難になるためである。
また竜騎士を背中に乗せて飛行する際、上空では風圧などの要因により口頭での会話が難しい。よって竜と竜騎士の間には心話による意思の疎通が不可欠となる。飛行中の竜の心話は、他の竜や竜騎士とコミュニケーションを取るための無線のような役割も兼ねているため非常に重要。しかし有事の際に備え、竜騎士たちは飛行中であっても口頭での会話ができるよう、特殊な発声訓練を受けている。




