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エマニュエル・シリーズ設定資料集  作者: 長谷川
◆種族・民族・国家
10/17

種族②──魔族・魔物

 この項目では作中に登場済み(及び登場予定)の魔族・魔物について解説する。

【上級魔族】


◆クルデール

 『エマニュエル・サーガ―黄昏の国と救世軍―』第5章に登場。『魔王の忠僕(ギニラルイ)』の第57位。全身を長い体毛に覆われ、先端が刃物のように尖った黒い尾を持つ。また羚羊(れいよう)に似た角と蝙蝠(コウモリ)の翼を備え、魔術を交えた肉弾戦を得意とする。

 第148話にて『百魔殺し』の異名を持つヴィルヘルムを圧倒するが、『魔王の忠僕』の中では最下位から数えて15番目と、実はそれほど位が高くない。『魔王の忠僕』の50~72位は、より上位の魔族に言わせれば〝下級魔族に毛が生えた程度〟の存在であり、上級魔族としてまだまだ未熟であることを物語っている。

 その証拠に、のちに登場するジャヴォールには「口が軽い」と評されており、ヴィルヘルムとの戦いでも自ら名乗りを上げるなど、上級魔族らしからぬ振る舞いが散見された。なお名前の意味は魔族語で「冷酷なる者」。


◆ジャヴォール

 『エマニュエル・サーガ―黄昏の国と救世軍―』第6章に登場。『魔王の忠僕』の第27位。水疱に覆われた赤黒い肌に蝙蝠の翼、竜の尻尾を持ち、救世軍から「竜尾(りゅうび)の魔族」と呼称される。

 体格はクルデールよりひと回り大きく、頭部には奇妙な角つきの兜を着用。見る者全員に「醜悪」と評されるほど醜く、決して素顔を晒さない。

 呪術系の魔術に秀で、作中では様々な魔術を用いて救世軍を苦しめる。格下のクルデールを蔑むような言動をしつつも一応同胞として認めており、彼を相手に善戦したヴィルヘルムの命を狙う。『魔王の忠僕』内での序列は上の下といったところ。名前の意味は魔族語で「偉大なる悪魔」。


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【下級魔族】


処刑獣(ツァーリ・サバーカ)

 『エマニュエル・サーガ―黄昏の国と救世軍―』第1章に登場。狼人(ロボ)族に似た下級魔族で、狼の頭に人型の肉体を有する。

 ただし体毛はなく、全身灰色の肌に覆われており、一つ目。同じく狼型の無知性魔物である多眼獣(グラス・サバーカ)を従えて地上に現れることが多く、『魔工刃(まこうじん)』(※1)と呼ばれる特殊な刀を用いて神術を跳ね返す能力を持つ。

 人語は解さず話せるのは魔族語のみ。尻尾は二股で蛇のように細長く、攻撃時には先端が剥けて中から黒い棘状の骨が飛び出す仕組みになっている。また普段は閉じられているが実は後頭部にも目があり、360°の視野を持つ。


憑魔(コクアヴォート)

 『エマニュエル・サーガ―黄昏の国と救世軍―』第5章に登場。実体を持たない霊体魔族。人間の魂を強制的に封じ込め、肉体を乗っ取ることで暗躍する魔族。下級魔族でありながら人語を解する。が、人間に憑依できる以外に特筆すべき能力はなく、実体を持たないがゆえに神術に弱い。

 本体は黒い(もや)に赤い目と口がついたような姿をしており、伸縮自在。霊体の一部を物質化して戦うこともできるが、戦闘能力はそれほど高くない。また、精神面が頑強な者には取り憑くことができず、憑依の際には対象の心に入り込む隙を求める。憑魔に取り憑かれた者は虹彩が赤みを帯びるのが特徴。

 他にも宿主と記憶を共有できないという弱点があり、宿主しか知り得ない事実を尋ねられたり、ハノーク語以外の言語で話しかけられると答えられない欠点を持つ。憑魔に取り憑かれた人間は憑依されている間の記憶はほとんどなく、眠っている状態に近い。


小悪魔(マーリニキー)

 『子連れ竜人のエマニュエル探訪記』列侯国編に登場。身長1mほどの小型の人型魔族。頭部に毛髪はなく、全身を青黒い肌で覆われ、下半身の形状は蛇。蝙蝠に似た小さな翼で縦横無尽に飛び回り、上空から槍で獲物を狙う。

 この槍は魔工刃と同じ素材でできており、人間が触れると皮膚が火傷したように爛れ、溶ける。加えて槍の内部には『鎧溶かし』と呼ばれる強力な毒が仕込まれており、この毒もまたあらゆるものを溶かしてしまう強酸に似た性質を持つ。槍の柄についている突起を押し込むと穂先から毒が飛び出す仕組みで、鋼鉄の鎧も簡単に貫通してしまう脅威の武器。

 下級魔族の中でも特に知能が低く、簡単な魔族語しか話せない。が、大型の無知性魔物と行動を共にし、子供のように無邪気に人間を襲う習性がある。

 さらに大型魔物が劣勢に陥ると魔石(※2)を食わせて進化を促すことがあり、その際、自分も魔石ごと食われてしまうケースが多い。


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【魔物】


多眼獣(グラス・サバーカ)

 『エマニュエル・サーガ―黄昏の国と救世軍―』第1章に登場。

 毛のない狼のような見た目の魔物。灰色の皮膚に覆われた全身には、余すところなく無数の眼がついている。この眼のおかげで多眼獣には死角がなく、素早い動きと反応で人間を翻弄する。

 非常に獰猛な性格だが単体で現れることは少なく、大抵の場合、群をなして処刑獣に付き従っている。無知性魔物ゆえ言語は解さないものの、処刑獣の命令には忠実に従う姿が度々目撃されており、処刑獣のしもべとしてのイメージが強い。


影人(チェーニ・ムーシ)

 『エマニュエル・サーガ―黄昏の国と救世軍―』第3章に登場。

 人間の影が地面から起き上がり、巨大化したような見た目の大型魔物。体長は5、6mにもなり、全身影のごとく真っ黒で、顔の部分には口だけが裂けている。それ以外はのっぺらぼう。毛髪や耳もなく、腕だけが異様に長い。両手の爪は極めて鋭利で、鋼鉄の鎧をもたやすく貫通する。ただし動きは極めて鈍重。

 人間や物の影から突然這い出してくる半霊体魔物で、普段は瘴気が濃い場所にしか現れない。トラモント黄皇国ではその姿が民間伝承に登場する『真っ黒お化け(ランキー・ブギー)』(※3)を彷彿とさせることから、そちらの呼び名の方が定着している。


屍霊(ズローヴァ)

 『エマニュエル・サーガ―黄昏の国と救世軍―』第6章に登場。霊体魔物の代表格。怨念に顔を歪めた人間の生首が人魂に包まれて浮遊しているような姿をしている。半透明。

 不気味な呻き声や奇声を上げて空中を漂い、生物の死骸を見つけるやそれに憑依して魔物へと変異させる。中でも人間の亡骸に憑依したものを「屍人(しびと)」と呼ぶ。

 群で墓場や戦場跡地に現れることが多く、特に土葬の風習が残る地域での被害が目立つ。ただし屍霊に取り憑かれた死骸は火に弱いという弱点があり、燃やされると中の屍霊ごと消滅する。


大蚯蚓(ギガ・ツェルヴィ)

 『子連れ竜人のエマニュエル探訪記』砂漠編に登場。サンドワームのような見た目の大型魔物。地中を移動し、人間の匂いを嗅ぎつけて突然姿を現す。目は退化しており消滅しているが、優れた嗅覚と振動を感知する感覚器を持つ。

 全長は10~20mほど。丸い口の周りにびっしりと牙が生えており、皮膚は毒々しい斑模様をしている。その見た目に違わず、獲物に向かって粘性の強い毒液を吐きかけることがあり、この毒液は人間の衣類や皮膚であれば簡単に溶かしてしまう。またミミズと同じで心臓が五つあり、すべての心臓を潰さない限り死ぬことはない。ただでさえ生命力の強い大型魔物の中でも特にしぶといことで知られ、熟練の戦士も裸足で逃げ出すレベルの脅威的存在。


鎧甲蟹(ヤート・クラーブ)

 『子連れ竜人のエマニュエル探訪記』列侯国編に登場。青黒い甲殻に巨大なハサミを持つ(かに)型の大型魔物。体高は5~7mにもなり、脚は8本。

 甲殻は非常に硬質で、神術をも跳ね返す強度を誇る。口から強酸に似た毒の泡を吐き、獲物が逃げ惑うところへ高速で突っ込んで轢き殺すという恐ろしい戦術をしかけてくる。しかし蟹に似た見た目に反し、塩水が弱点。塩水をかけられると甲殻が溶け、殻の中身が剥き出しとなる(このため海辺には出現しない)。

 また一度ひっくり返ると自力では起き上がれないという弱点もあり、神術を使って転倒させるのが最もポピュラーな討伐方法。ただし神術の当て方を誤ると自分に術が跳ね返ってくるため、注意が必要である。


地底魚人(ゼムルイバ)

 『子連れ竜人のエマニュエル探訪記』列侯国編に登場。手足の生えた魚が四つん這いになったような見た目の中型魔物で、大蚯蚓同様、地中を移動するため完全に目が退化している。後ろ脚に比べて異様に大きな前脚には硬い爪が生えており、この爪を使って地面を掘り進む。

 長い尻尾の先には尾びれを支える鋭利な棘があり、爪と尾を駆使して獲物を串刺しにするのが得意。背びれも生えているが鱗はなく、全身を半透明に近い不気味な皮膚で覆われている。地面や空気に伝わる振動を感知して動いているため、息を止めてじっとしている獲物は見つけることができない。


黒大蜥蜴(ニェドラ・ヤーシ)

 『エマニュエル・サーガ―黄昏の国と救世軍―』番外編『誰が為に花は咲く』に登場。サンショウウオのような姿の半霊体魔物。

 体長7、8mにもなる大型の魔物で全身真っ黒。目を持たず、神術使いが放つ神気を感知して突っ込んでいく習性を持つ。サソリのように持ち上げられた尻尾の先には第2の口があり、実はそちらが本体。背中には金属のように硬い棘がびっしりと生えており、獲物に向けて矢のごとく射出することができる。

 対神術戦に特化した珍しい魔物で、神気を感知すると全身を硬化させる能力を持つ。硬化中の大黒蜥蜴にはいかなる神術も通用せず、また並みの武器や膂力では斬りつけることも不可能。本体である尻尾を切り離せば滅することができるが、巨体に似合わず俊敏なため、遭遇すると非常に厄介な魔物のひとつ。

(※1)

 魔工刃(まこうじん)とは、魔界で精錬される謎の金属を加工した武器。片刃で反りのある曲刀であることが多い。触れた神術を弾く能力があり、主に処刑獣が得物として携行している。どのような原料からどのように造り出されている武器であるのかはまったくの不明。解明しようにも人間が携行すると精神を冒され、やがて狂乱してしまうため、所持することすらできない。しかしそうした特異性から、魔石を加工した金属なのではないかと言われている。


(※2)

 魔石とは、魔界で採掘される鉱石のこと。その正体は長い年月をかけて凝固した瘴気の塊であり、黒い石肌に血管を彷彿とさせる赤い斑という、非常にグロテスクな見た目をしている。人間は触れただけでも皮膚が爛れ、粉末状に砕かれたものは想像を絶する苦痛と確実な死をもたらす劇毒となる。

 が、魔物にとっては他ならぬ魔力の源であり、所持しているだけで魔の力を増幅させる効果が望めることから、魔族たちのパワーストーンとして装飾品などに使われている。また、無知性魔物がこれを経口摂取すると突然変異が起こり、より凶暴で強靱な魔物へと進化する。姿形さえも変わってしまうことが多く、魔石の運び手である小悪魔(マーリニキー)の姿を見かけたら要注意。

 なお、アビエス連合国で暮らす口寄せの民が妖術を使う際の媒介とする水晶も「魔石」や「魔導石」と呼ばれるが、魔界で採れる鉱石とはまったくの別物。彼女たちの操る妖術を魔術の類と勘違いした人間が勝手にそう呼んでいるだけで、正式名称は「希石(きせき)」。


(※3)

 真っ黒お化け(ランキー・ブギー)とは、トラモント黄皇国の民間伝承に登場する怪物のこと。影のように真っ黒でやせっぽちな姿をしていることからこの名で呼ばれる。

 伝承に登場するランキー・ブギーは影人(チェーニ・ムーシ)と違って人並みの大きさだが、夜中に現れて子供たちに名前を尋ね回る。このとき自分の本当の名前を答えてしまうと、ランキー・ブギーに魂を抉り出されて食われてしまうという、何とも恐ろしい言い伝えである。

 対策としてトラモント黄皇国には古くから子供に幼名をつける風習があり、ランキー・ブギーの伝承が忘れ去られた今でも貴族たちの間では伝統として守られている。貴族の子らは成人を迎えるまで己の本当の名を知らずに育ち、成人して初めて真名を名乗ることを許される。この慣習には我が子を化け物、ひいては厄災から守らんとする親の願いが込められており、平民の中にも幼名の風習を守る者はいる。

 なおトラモント人の大人たちは、子供が言うことを聞かないときは決まって「悪い子はランキー・ブギーに食べられちゃうぞ」という脅し文句を口にする。この脅し文句がひとり歩きし、今では〝ランキー・ブギーが狙うのは悪い子供だけ〟と信じているトラモント人も多い。

 ちなみにランキー・ブギー伝承の発祥には諸説あるものの、太古に一部世間を騒がせた魔女騒動がもとではないかとする説が最も有力。魔女騒動は幻の中央大陸で起きたと言われ、同じく大陸が隣接していたアビエス連合国(シャマイム天帝国)にも、真名を知られないために異様に長い名前をつける風習が残っている(この風習はトラモント貴族が高位になればなるほど長い姓を持つ慣習に酷似している)。

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