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023話 目出度い

 元亀二年(1571年)二月 【越後国 春日山城】にて


「うーーーーーーーーーーーーーーん」

 悩む

「うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん」

 凄く悩む

「うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん」

 とっても悩む。

「うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん」

 悩んで悩んで悩みまくる。


 取り敢えず筆をとり紙に「道満丸」と大きく書いてみた。


 嫁さんが懐妊した。

 めでたい。

 史実によれば、この子は嫡男で道満丸だ。


 しかし、そのまま史実通りの名前を付けてもよいものだろうか。

 史実では僅か九歳にして亡くなる運の無い名前とも考えられるわけで……

 

 まぁ尤も俺も景虎という史実では殺されちゃった男なんだし、その名前をそのままにしているんだから、そんな事を言えた義理でもないんだけど。

 景虎は義父上にいただいた名前だから変えれるわけもないんだけどね。

 だいたい道満丸が亡くなったのも駄目な景虎パパのせいでもあるし。


 今回の歴史では俺が頑張れば御館の乱で親子ともども死なずにすむかもしれない。


 だが、しかし、自分の子が生まれるのに、その子の名前を付ける楽しみが無いというのもどうなんだろうか。


 いっその事、きらきらネームを……


 いや、いや、いや、そこまでは言わないが、でも、もっとこう、何か素敵な名前があるんじゃないだろうか。


 今川家なんて代々、世継ぎの幼名は龍王丸なんて強そうな名前だよ。

  

 そもそも道満丸と言うと平安時代の芦屋道満を連想しちゃうんだよね。

 芦屋道満と言えば安倍晴明の敵役の陰陽師だよ。もろに悪役だよ。

 うん。やっぱり道満丸はよそう。


 ここはもっとこう別の名前を付けよう。


 流星丸とか、獅子王丸とか、伊賀の……いや、いや、いや、何を言っているんだ俺は。

「伊賀の」何て、どっかのコミックの主人公じゃないか。

 少年漫画と少女漫画の両方にあるけどね。

 少女の方は31年振りで続編復活って知った時は驚愕したよ。

  

「殿、何をなさってますの?」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 いきなり背後から声をかけられた。

 うん、今、もろに驚愕したよ。動悸が激しい。


「お、おぉ清姫か。うん、まぁその何だ、はっはっはっ」


 おかしな脳内妄想をしていたおかげで気付くのが遅くなった、というか気付かなかったよ。

 うちの嫁さんは忍者ですか。

「伊賀の」はフラグですか。

 ともかく、こういう時は頭をかいて笑って誤魔化すに限る。


「あらっ。どうまんまる? もしかして、これはこの子の?」


 嫁さんは文机に置いてあった紙を見つけて、俺の横に座ると自分のお腹に優しく手を当てている。


「う、うん。まぁ考えていたところだ、はっはっはっ」

 未だ動悸がおさまっていないところに言われたからうまく返答できませんがな。


「良き名前ですわ。ありがとうございます。この子のために」

 そう言って嫁さんが嬉しそうに微笑んでいる。


「そうか、気に入ったか?」


「はい、とっても」


 あっ名前が決まってしまった。こんなに嬉しそうにしている嫁さんに今更、これはダメとは言えない。

 くっ!

 何という事だ!

 せっかく、もっと恰好の良い歴史に残るような名前にしようと思っていたのに、景虎一生の不覚!


 はっ! まさか、これは、あれか! これが現代SFのタイムスリップ物によく出て来る歴史の修正力というやつなのか! 

 恐るべし歴史の修正力!

 嫁さんを使うとは何と狡猾な!!


 あれっ? そうなると、もしかして俺が何やら色々やっても、もしかして御館の乱で死ぬのは決定事項?

 何をやっても最後には歴史の修正力で結末は同じ……なのかな?

 いや、いや、いや、諦めんぞ。

 この景虎、諦めの悪さと屈折している性格と根性の捻じ曲がり方では誰にも負けない!


 諦めたらそこで終わりなんだ。

 そうですよね、先生!


 うーーーーーん。それにしても、考えてみれば現代で実際に勉強を教わった先生よりも、某コミックに出て来た架空の先生の方が俺の人生に遥かに大きな影響を与えてないか?

 いや、与えているよな。

 我ながらオタクの業が深いものよ、くっくっくっ。


「殿、どうなさいました? お顔の色が何やら……」

 

 嫁さんが、俺の顔を見て不安そうにしている。

 いかん、いかん、脳内妄想に浸るのは寝る時にでもしよう。適当に誤魔化さなくては。


「いや、何でもないよ。良き父親になれるかなと思っていただけだから。ほらっ儂は幼い頃に寺に預けられて父親というものを、よく知らぬから……」


 あっ、嫁さんの顔が曇ってしまった。

 何か思い切っり同情しているようだ。

 咄嗟に口から出まかせのつもりだったんだが、内容が悪かった。同情を引くつもりじゃなかったのに失敗、失敗。


「まぁ殿……大丈夫ですわ。殿はきっと良い父親になれますわ」


 嫁さんがそう言って俺の手を優しく握って来た。

 ここは、もうこのまま芝居をするしかないですよねぇー。


「そうかな。なれるかな?」

 

「ええ、なれます」


「そうか。有り難う」


「はい」


 そんなわけで夫婦仲は結構良いと思える今日この頃です、◯◯先生。


【つづく】


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