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二十一世紀末電脳世界妖奇譚  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)


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文京区国際テロ組織襲撃事件 その6

 文京区国際テロ組織襲撃事件がメディアのニュースになって忘れ去られる程度の時間が過ぎた。

 人形町の人形専門店『亜梨須』のドアを上総君茂は慣れた感じで開ける。


「邪魔するぞ。相変わらず客がいないな。この店」


「私の店なんだからいいじゃないですか。

 それと、ここ禁煙なんですけどね。先輩」


 何気なく店内を見渡す。

 監視カメラとは違う視線を感じたが、それを表情に見せる事無くいつものように煙草を指で弄ぶ。


「無害無臭煙だから気にするな。

 前にも言ったような気がするがな」


 店の奥のカウンターに上総君茂が座り、三木原有実がコーヒーを用意する。

 先に口を開いたのは上総君茂だった。


「で、お前誰だ?」


 既に体を軍用アンドロイドに変えている三木原有実が動じる訳もなくコーヒーを目の前に置く。

 上総君茂はそれに手をつける事無く、無害無臭煙の煙草を口に咥えたまま続きを口にする。


「おかしいなと思ったのは、大学のトイレの件だ。

 お前、わざわざ男子トイレに入って俺の入っている個室のドアをノックしただろう?

 あいつが元男という事は知っていたんだろうが、だからこそ女の真似についてはできる限り徹底的に真似ていたんだよ。それで疑念が沸いた。

 あいつなら、あのシチュエーションで俺をからかいつつも、入口で待つ方を選んだはずだ」


「たまたまかもしれないじゃないですか。

 口調だって、先輩の前なら崩す事もありますし」


 目の前に座る三木原有実は上総君茂が知っている三木原有実に見える。

 だが、何かが違っていると勘が告げている。

 上総君茂は咥えていた煙草に火をつけず、そのままゴミ箱に投げ捨てる。


「そういう掛け合いもありだからな。

 だが、行動は別だ。

 大学の男子トイレで見た目女性が堂々と入るには、女性なら躊躇うんだよ。

 そのあたりの掛け合いと、実際に行動をした時点で俺の知っている三木原有実じゃないなと確信したよ」


 三木原有実は動じない。動じる女でもない。

 出来の悪い探偵の推理を聞く犯人のような笑みを浮かべたまま上総君茂の独り言は続く。


「次に気になったのが、地下通路だ。

 お前、天衛警備保障から借りた戦闘用アンドロイド四体を指揮下に置いて秘密の臨時班を編成したよな。

 で、人形神と合わせてあの時居たのは三体。

 一体は柏原教授の護衛につけたとして、あと一体何処で何をしていた?」


 沈黙。

 互いに互いの顔を見つめ目をそらさない。

 その状態のままさらに数分の時間が流れた後、上総君茂は更に推理を続ける。


「テロリスト『箱舟』の死体は見たか?」

「アングラ系ニュースで流れたし、先輩と一緒に現場に居たはずですよ」

「ああ。使っていたドロイドはともかく、テロリスト連中は『人間』だったよな」

「……」


 答えられない質問に対して三木原有実の眉が微妙に動き、それを見逃す上総君茂ではない。

 無言の肯定。それを確信して話を進める。


「人形神の作成方法は知っているだろう?

 なかなかエグイ方法だが、わかりやすい代償としては、願いを叶える代わりにその願いを望んだ者が『苦しんで死ぬ』あたりか。

 奴らが、神話資源を利用して大洪水を起こそうとするのは、自らを選ばれた民としたいからだ。

 そんな奴らが、生贄だとしても苦しんで死ぬ事を望むか?」


「それは……」


 三木原有実はそれだけ言って再び数秒間の沈黙が訪れ、上総君茂が先に口を開く。


「この話、元々は高天原ホールディングス内部の天津派と国津派の派閥争いだ。

 天津派が国津派への嫌がらせとして人形神の情報を『箱舟』に流したが、『箱舟』のテロが成功する事まで天津派は望んではいなかった。

 この人形神という神話資源を抽出した柏原教授と国津派は当然、天津派もこれを『箱舟』が使いきれない事を知っていた」


「何が言いたいんですか? 先輩?」


 目の前のこいつが本物の三木原有実ならば、今ので詰んだ事を察したのにと悲しく思いながら続ける。


「あの時お前に暗号で書いたメモを見せただろう?

 『情報を流してテロリストにここを襲わせろ』って奴。

 あれで、戦ったら乾が国津派だと分かるし、天津派としてもテロリストと諍いが起こって、国津派が取り込むって寸法なんだが、本物の三木原なら気づいたんだろうな。

 上で警視庁と湾岸警察がテロリストと戦闘していたのに、そのテロリストにタイミングよく乾を襲う戦力なんて残っていない事にな。

 あの時、乾たちを襲ったのはお前がコントロールしていたドロイドだな?」


 そこまで話しても三木原有実の姿をした人形は動揺を見せず、むしろ別の意味で余裕が感じられた。

 まるでこれから起こる事を楽しみしているかのように……


「繰り返すぞ。お前は誰だ?」

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