表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/241

7-9『解禁』

 A組からの闘争要請。

 それは、かつて熱原が僕らに課したものとほぼ同じ形式のものだった。

 以前のソレは、それぞれ6人を選出し、勝ち抜き戦で戦わせるもの。

 今回は、それが4人になっただけ。


『そして雨森悠人。アンタにはそのトップバッターになってもらうわ』


 それが彼女らの課した条件。

 向こうからの出馬は決まってる。

 紅、邁進、ロバート、米田。

 この4人だ。

 熱原は今回は無参加らしく、そうなれば納得のメンバーだと思う。


「……まだ迷ってるのか、僕は」


 ふと、目が覚めた。

 まだ日が昇るより前のこと。

 ベッドから起き上がり、カーテンを開く。

 暗闇に街頭の灯りが眩しい。

 早朝の光景に目を細めていると……ふと、眼下で見知った顔が走っているのを目にした。


「……朝比奈」


 こんな朝早くから走ってるのか。

 よほど八咫烏に嬲られたのが堪えたか。

 ……あるいは、そうでなくとも彼女は強さを求めていたかもしれない。


 強くなりたい、誰よりも。

 誰かのために強くなりたい。

 そんな感情は懐かしい。

 酷く昔に、僕が捨ててしまった感情だ。


「誰かのために」


 久しく、その言葉を口にしたことは無い気がした。

 僕は自分のためだけに生きてきた。

 自分のためだけに生きる。

 それ以外に生きる価値など見いだせない。

 たとえその根底に何があったにせよ。

 僕は自分のためだけに生き続けるのだと、僕は確信していた。


 それなのに今。

 僕は……あの女、朝比奈霞のためだけに、自分の力を公にしようとしている。

 ……確かに、巡り巡れば僕のためさ。

 僕が楽に学園生活を過ごせるように。

 朝比奈が確実に学園を平定できるように。

 朝比奈霞が負けた時のためを思って、動いてる。


 ……なんだよ。

 こうして文面化すると、まんまアイツのためじゃねぇか。


 これが星奈さんのため――とか言うならわかる。

 いつもの星奈さん狂いが出たんだな、って言って朝比奈以外の皆納得するだろう。

 だけど、よりにもよって朝比奈って……。

 疲れてんのかな、僕。

 少し寝た方がいいかもしれない。


 そう考えて、朝比奈霞を見下ろしていると。

 期せずして、僕の口から言葉が零れた。



「……本当に、なんでお前が()()にいるんだよ」



 それは、無意識下の言葉だったと思う。

 ふと、ずっと昔の記憶が蘇る。

 思い出したくもなかったけれど。

 初めてクラスを覗き見た時。

 お前の顔を見て、驚いたのを覚えてるよ。


「……お前が居なければ、もう少し平穏な日常ってのも、あったのかもしれないな」


 あるいはお前が無能であれば。

 きっと僕は、何も望まなかったと思うし。

 お前が有能であるからこそ。

 僕も、何かを望まずには居られない。


 やがて、地平線から朝日が顔を出す。

 朝比奈霞は地平線を見て、走るのをやめた。

 僕は彼女から視線を逸らし、歩き出す。


 気がつけば、覚悟なんてものは決まっていた。

 いいや、最初から決まりきっていたのかも。


 まぁ、どっちでもいい事か。



 僕がすべきことは変わらない。



 さぁ、決別の時だ。

 今日をもって、僕は弱者から引退する。




 ☆☆☆




 時が経つのは早いもので。

 気がつけば、既に放課後。

 僕らはグラウンドに集合していた。


 いつかと同じ光景だ。

 なんだが既視感を覚える。

 だけど、以前とは決定的に違うものがある。

 前回は朝比奈嬢が前面に立っていたけれど。

 今回は、雨森悠人が矢面に立っているという、些細だけど大きな違い。


「あら、臆さず来たわね」


 前方には、紅たちが立っている。

 その後方には……橘の姿はないな。

 橘を除いたA組が、ほぼ集結していた。


「あぁ、約束したからな。僕は基本的に、約束は破らない主義なんだ」


 対する、僕の後ろにもC組の面々が勢ぞろいしていた。

 あの時は……雨森悠人もほぼボッチだったが、今では多くの友人を得た。

 僕に対する心配の感情も、あの時よりもずっと増えてる。


「……雨森くん。本当に信じてもいいのかしら。……これを貴方に聞くのも、すこし躊躇われるのだけれど」


 ふと、朝比奈嬢が問うてくる。

 僕は隣に立つ彼女を一瞥して、前を向き直す。

 僕の反応に、彼女は少し悲しそうに目を伏せ、唇を噛み締めた。

 そうだよ、そういう反応でいいんだよ。

 僕はお前を嫌ってる。

 だから、わざわざ大袈裟に反応するな。

 無視に慣れろ、名前を覚えられないことは諦めろ。

 そうじゃなきゃ、これから先3年間も一緒に居られないぞ。


「一つだけ、お前に言っておくことがある」


 僕はそう言って、前に進み出る。

 軽く振り返れば、朝比奈嬢は目を丸くして僕を見ていて。

 僕は、端的に……そして初めて、彼女に自信を口にする。




「お前たちに出番はない。帰っていいぞ、()()()()




「……っ!?」


 朝比奈嬢が目に見えて震えた。

 それは、僕が彼女をフルネームで呼んだことに対してか。あるいは僕の発言に対してか。

 その顔は少し赤く染まっていて……なんだか気持ち悪い笑顔をしていたため視線を逸らした。


「あ、雨森ー! 無理しなくていいからね! やばいと思ったら棄権するんだよ!」

「そーだぞ雨森! むりするなよなー!!」


 火芥子さんやら、錦町やら。

 多くの声に、僕は軽く手を振って前方へと歩いてゆく。

 対して……相手から最初に出てきたのは、長身の外国人、ロバート・ベッキオ。


 その身長は、おそらく二メートルを優に超える。

 大きさだけで見れば、もしかしたら堂島先輩をも超えているかもしれない。

 体格とは何よりも明確な天性だ。

 武を競うに至って、その天性はなによりも重要な役割を担う。


 まぁ、簡潔にいえば体格だけで勝敗が決まることもあるってことだ。


「やァ、雨森悠人。キミの相手はこのロバートが任されタよ。伝えられたのは一つ。徹底的に捻り潰シテくれとダケ」

「そうか。それは怖いな」


 まぁ、あれだろうな。

 あの中で最も外見が恐ろしく、それでいて確かな実力も伴っているから。だからこそ、ロバートを先攻に持ってきたんだろう。


 ……しかし、あれだな。

 徹底的に捻り潰せ……と来たか。

 どうやら相手方はロバートで僕を潰させて、悠々自適と嘲笑いながら、残りの戦いを軽めに流して消化するって腹らしいな。

 そのせいか、他の三人は明らかにやる気が感じられない。

 まるで、殴られる覚悟もなくここにやってきた……とか、そう言われても信じてしまいそうな光景だ。


「オヤ、何を見ているのカナ。このロバートが相手では不満かイ? 自称格上」

「不満はない。お前は強そうだからな。……ただ、少し勘違いをしているらしい」


 ロバートは拳を構える。

 彼は審判の方へと、ちらりと視線を向けた。

 審判は大きく頷くと、改めてルールを口にする。


「それでは改めて! 今回の戦いは4対4の勝ち抜き戦! 先に相手が全滅した組の勝利となります! また、敗北した組は、闘争要請を除いたありとあらゆる場面において、対戦した組へと一切の害なす行為を禁じられます! よろしいですね?」


「あァ、いいトモ」

「はい」


 僕らは交互に返事を返すと、審判の生徒会役員は改めて頷いた。


「それでは、これより闘争を開始します! 私たちが戦闘不能と判断した場合、第三者による介入があった場合、気絶した場合。これら三つ、いずれかが在った場合は失格となります! また、悪質な行為が認められた場合もまた、反則となりますので御注意ください!」


 僕らは同時に頷いて。

 そして、カウントダウンが始まる。


 ――闘争が始まる。


 会場に緊張感が張り詰める。

 A組、C組の面々。

 校舎内やグラウンドから僕らを眺める他クラス、上級生の生徒たち。

 そして、僕を前にしたロバート・ベッキオ。


 上空に浮かび上がった『3』の文字。

 ロバートの頬を汗が伝い落ちる。

 その汗が大地に弾けると同時に、数字が動いた。

 上空の文字が『2』、『1』と時刻を刻んで行く。

 無限にも等しい、引き伸ばされた時間の中で。


 それでも始まりはやってくる。


 カウントダウンが『0』と同時にブザーが鳴って。



 ロバート・ベッキオは、目にも止まらぬ速さで僕へと駆けた。



「悪いガ、手加減は苦手デネ!」



 おそらく、ロバートは一撃で決めに来た。

 思い切り振りかぶった右拳。

 体全体がムチのようにしなり、その先から放たれる拳は……きっと、尋常ではない威力を誇るだろう。


 速度、タイミング、威力。

 全てがほぼ完璧の状態。

 普通ならかわせないし、防いだにしても大きすぎるダメージが残るだろう。


 そこで僕は考える。

 どうしたらいいかな。

 かわすのもダメ。

 防ぐのもダメ。


 と、そこで僕は手を叩いた。



 ()()()()()()()()()()()()



 ロバートは眼前まで迫る。

 その拳は僕へと向かって振り下ろされて。


 それより早く、拳を落とした。



「ぶげふっ!?」



 ()()()()()

 空の竹刀で、素振りをするように。

 上から下へと落とした右の拳は、ロバートの頭部を寸分たがわずたたき落とした。


 目の前で、ロバートが地面へと叩きつけられる。

 衝撃だけでグラウンドにヒビが入った。

 風圧が砂煙を舞いあげて。



 それが止んだ時、その場は静寂に包まれていた。



「…………………………はぁ?」



 誰かが言った。

 なんとなく、A組の方から聞こえた気がした。

 そちらを見れば、紅たちは僕の足元を見て目を剥いており。

 僕の足元には、白目を剥いたロバート・ベッキオが沈んでいた。


 というか、思いっきり地面にめり込んでいた。


「えっ? あ、えっと……あれっ?」


 進行役の生徒会役員が呆然とする中。

 僕は、気絶して倒れてるロバートを見下ろし、全く同じ言葉を返した。



「奇遇だな。僕も、手加減するのは苦手なんだ」



 少し遅れて、歓声が響き渡った。

次回【最強の体現者】

そして、次回でついに100話達成。

いつもご愛読ありがとうございます!


面白ければ高評価よろしくお願いします。

とっても元気になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新連載】 竜を超える膂力に、史上最強の魔法。 ありとあらゆる才能に恵まれながら。 しかし、その転生にはちょっと足りないものがあった。 しかし、足りないものは『ちょっと』だけ。 不足は努力と工夫で埋め潰し。 やがて、少年は世界最強へと成り上がってゆく。 異世界転生、ちょっと足りない
― 新着の感想 ―
[良い点] 雨森の戦闘シーンかっけええええ!!!!てかあんたが書く戦闘シーンはどれもいいんだわ!!! [気になる点] 手加減は苦手ねえ……嘘やんけ
[一言] いや、パンチはや 異能見せる必要がないほどの圧倒的身体能力をみせつけていくストロングスタイル この人この状態で一瞬視界奪ってくるんですよ?悪魔か
[気になる点] そういえばこの学校の生徒会は校則に関する執行機関という役割でしかないのでしょうか。 高校では生徒の代表たる生徒会が意見を取りまとめ、学校側へ要望(校則の改定など)を出すこともありますが…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ