7-2『呼び出し』
こういう作品における学園祭って。
出し物、メイド喫茶とお化け屋敷以外にないと思うんです。
えっ? いや。
星奈さんのメイド服姿にぶっ倒れる雨森を書きたいわけじゃないんですよ。
小森茜とのいざこざはあれど。
特に何も起きることはなく日々は過ぎ。
ある日、唐突に榊先生は告げた。
「そろそろ、学園祭の準備を始める」
「「「ひゃっほおおおおおおおおおい!!」」」
クラスが沸いた。
あまりの煩さに隣の小森さんが耳を押さえている。ふーん、耳いいんですね。そんなことを考えてそっちを見ていると、おもくそ睨まれたため視線を逸らした。
「来たぜ来たぜ! 学園最大のイベントが!」
「いべんと! ぶんかさい!! おれがんばる!」
「黙れ貴様ら、特に錦町。貴様はいつも煩い。声量を考えろ」
「わかったよ先生!!」
相変わらず、錦町は何も分かってない。
いい加減榊先生も理解出来ていたのか、大きなため息を漏らして黒板へとチョークを走らせる。
「学園祭は、特殊なポイントを使うことで様々な出店を楽しむことが出来る。それらのポイントは学園祭開始時点で全生徒へと一律振り込まれ、最終的にクラスで儲けた合計ポイントを、クラス全員で割ることで、一定のポイントが個々人へと振り込まれる仕組みだ。理解出来ているか?」
「つまり、全学年、全学級がそれぞれ出店するということですね?」
朝比奈嬢が質問を飛ばす。
それに対して、榊先生は肯定で返した。
「学園祭は、この学園のイベントの中でも異質極まる。なにせ、このイベントは敵へ塩を送り合うのだからな」
「……そーだよなー。好きに出店行くのはいいけど、そこでポイント使っちまったら、そのクラスにその分だけポイントが行っちまうわけだろー?」
「あぁ、その通りだとも烏丸」
榊先生は、腕を組みながらそういった。
「だからこそ、教師陣からは『純粋に楽しめ』という言葉を贈らせてもらう。下手に作戦なりなんなりと思考を巡らせても無駄だ。ポイントを余らせたところで還元される訳ではなく、むしろ、意図的にポイントを余らせたなんてことになれば、私たち教師陣からの印象が悪くなる。……意味は分かるな?」
そんなもん、ここにいる全員が痛いほどよく知っている。
――教師が退学と言えば、その時点で退学なのだから。
だから、教師からの好感度というのは、あまり馬鹿にできたものでは無い。だからこそ僕は最初期から榊先生に媚び売りまくってたわけだしね。
「というわけで、貴様らが今一番に考えねばならんことは、いかにして他クラスからより多くのポイントを毟り取るか。その一点に尽きる」
「うっわぁー、生々しい話になってきたー」
しかし、シリアスから一点。
妙に生々しいことを言い始めた榊先生に、烏丸がドン引きしたように声を漏らす。しかし。
「何を言う、烏丸。これは遊びではない。敵に塩を送るというシステム上、あまり表立ったことは出来ないが……それでも、対決は対決なのだ。今回で言うと、より多くのポイントを手に入れた組が勝利となる。……まぁ、勝利したからと言って報酬がある訳では無いがな」
「……でも、ポイントが手に入るのは純粋に嬉しいですね。体育祭で稼いだと言っても、ポイントがあって困ることは無いでしょうから」
「さて、どうだろうな?」
朝比奈嬢の言葉に、榊先生は怪しく笑う。
だが、それはブラフだと思う。
ポイントがあって、困ることは無いだろう。
所持ポイントが多い生徒を退学させる、とか、そんなイカれたルールでも追加されない限りは問題ないはず。というか、そうでなけりゃ僕、やばいよ。実は結構ポイント持ってますもの。
「ま、いいや! んじゃ、早速内容始めようぜー!」
「おおお! 難しい話はよく分からないけど、とりあえず面白い出店を考えればいいんだろ!? うん、おれに任せとくんだな!!」
烏丸と錦町がテンション高めで叫び、榊先生は何も言わずに教卓の椅子に座り込む。その姿をクラスメイトたちは一瞥したが、本当に何も言う気配はなく、やがてクラス内はワイワイと大賑わいになっていく。
「はいはーい! メイド喫茶! これ一択でしょー!」
「フツーに飲食店なんてどう? シンプルイズベストだよっ!」
「いいえ蛍さん、飲食店は難しいわ。食中毒なども考慮して、食に関わることはやめておきましょう。1年生の立場で、下手に責任は持てないもの」
烏丸や、倉敷、朝比奈嬢らが話し合いを進めていく。
その姿を後方で見つめ、僕は頬杖をつく。
「ふぁ、ぁ……、眠い」
大きなあくびが零れて、僕は窓の外へと視線を向ける。
今日も今日とて、平和な一日になりそうだ。
☆☆☆
と、思っていたのが間違いだった。
「雨森悠人ね? ちょっと面貸しなさいよ」
放課後。
クラスに入ってきたその女は、開口一番にそう言った。
静まり返ったクラスの中に、その言葉はよく響く。
真っ赤な髪に、勝ち気な吊り目。
雰囲気は最悪だし、偉そうに両腕を組んでいることからも、なんとなーく僕のことを下に見ているのがわかった。嫌な奴だなー。僕ほどじゃないと思うけど。
「お前は……確か」
「自己紹介が遅れたわね。1年A組、紅秋葉。一応、1年A組を仕切らせて貰ってる立場の者よ」
仕切らせて貰ってる、ね。
それはそのままの意味で取るべきだろう。
内心そう考えていると、我らが正義の味方がやってくる。
「……A組のリーダーは、熱原くんではなかったかしら? 紅さん」
「……ん? あぁ、朝比奈ね。……あんた、まさかとは思うけどまだ気づいてなかったわけ? 熱原如きが、A組でてっぺん取れるわけないでしょ。……それとも、そこの黒月に手も足も出ずに負けた熱原が、アンタや新崎康仁と同格だったとでも言うわけ?」
紅の言葉は、とても正しい。
熱原永志は、強かった。
異能を使い始めてこの短時間で、あそこまで強くなれたのはひとえに才能と努力によるものだろう。けして侮れるような相手じゃない。
が、アレが頂点なわけが無いのだ。
あんな程度の実力で、A組を完膚なきまでに掌握した?
A組は熱原が最高実力者?
だとしたら、A組はB組、C組より遥かに劣っていることになる。
それはおかしい。
となれば答えは簡単だ。
「――熱原くんの後ろに黒幕が居る。……新崎くんを知った時から考えていたわ。新崎くんに比べ熱原くんは、少々弱すぎる」
もちろん、朝比奈嬢もわかってたはず。
だから驚きはなく、その目には不信が灯っている。
まぁ、クラスの大半は驚いてるみたいだけど。
「むしろ、あなたさえ疑っているわ。ねぇ、紅さん。貴方は――その黒幕の代理でしかない。違うかしら?」
「……うっへー、これまた、聞いてた話よりも随分頭がキレるみたいね」
紅とやらは、顔を顰めて舌を出す。
本当に朝比奈嬢が嫌っ、って顔だな。
奇遇ですね。僕もです。
「で、紅さん。僕はどこに面を貸せばいい」
「ちょ!? 雨森くん!?」
朝比奈嬢が声を上げたが、僕は彼女を完全に無視した。
「……あんた、なんのつもり? 言っちゃ悪いけど、馬鹿じゃないの?」
「馬鹿ではない。それに、もしかしたら告白かもしれないだろう。少し楽しみにしてるんだ。早く行こう」
僕は席から立ち上がると、僕の前に朝比奈嬢が立ち塞がる。
「あ、雨森くん。……その、幻想をぶち壊すようで悪いけれど、明らかに告白ではないと思うわ。行くのはやめなさい」
「それは建前だ。せっかく向こうからのお呼び出し。なら、ついて行って『黒幕』とやらの情報を掴んできた方がいいだろう」
「そ、それは……」
この女、僕が本気で告白欲しさについて行くと思ったのか?
だとしたら怒るよ? 僕は星奈さん一筋だって言ってるじゃない。
ちなみに星奈さんの次に好きな女は四季いろは。
お前は最下位から2番目だ朝比奈嬢。
ちなみにダントツの最下位は橘。あいつはダメだ。生理的に無理。
「それ、私の前でいっていーわけ?」
「何故わざわざ僕なのか、は分からない。だが、なんのメリットもなく僕がついて行くと思う方がおかしいだろう?」
「はっ、その通りね。んじゃ、行きましょうか雨森悠人」
そう言って紅は歩き出す。
僕は朝比奈嬢の隣を過ぎて、その後に続く。
その際に……ふと、黒月が出口の扉付近に立っているのが見えた。
紅は黒月を一瞥、すぐに興味を失って歩き出す。
そんな中、黒月は珍しく表立って意見を言った。
「雨森。お前を指定してきた理由は――おそらく、お前の身体機能について、思うところがあったからだろう。大方、異能無しであそこまで戦えるお前に興味を抱いた、と。そんな所だろうが……」
「あぁ、何かあれば逃げる。逃げに徹して、逃げきれないことはないと思うからな」
そう言って、僕は黒月の隣を通り過ぎる。
廊下に出れば、紅は窓際の壁に背を預けて待っていてくれた。
「あら、お話はいいの?」
「あぁ、待たせたな。それじゃあ行こうか」
かくして、僕は紅に続いて歩き出す。
……どうやら、学園祭にも一波乱ありそうな予感がするな。




