6-14『幕間』
完全なる四季回。
今回の幕間は2話にわたってお送りします。
「悠人っ! ま、待たせた……かなっ?」
キャンプ明け、翌日。
色々と疲れていたため寝て過ごしたかったのだが、約束を破るのはちょっとアレだったので、今日はショッピングモールへと来ています。
「いいや、待ってない。……今日は一段と綺麗だな。一瞬、誰が話しかけてきたのかと思ったぐらいだ」
「そ、そんな……こと、ううん、まぁ、精一杯おめかししてきたんだけどさ。そう言って貰えると嬉しいよ」
目の前のギャルは、照れたようにそういった。
いつもは下ろしている金髪を後ろに纏め、どこか清楚な雰囲気を感じさせる純白のワンピースが、普段の彼女とのギャップを強調する。
ギャル、と言えばキャンプで肝試しを一緒にやった真備を思い浮かべる方。まぁ、いますよね。でも、僕を下の名前で呼んでいるのは今のところ、一人だけだ。
「あぁ、四季。今日のお前はいつもより綺麗だよ」
甘ったるい言葉を吐くと、彼女は顔を真っ赤にする。
恋する乙女かお前は。
……あぁ、そういえば本当に恋してたんだっけ。
7月某日、今日は四季とのデートの約束をしていた。
まぁ、キャンプについていけなくなった彼女から「う、埋め合わせ! 私も悠人と一緒に出かけたいのぉ!」と懇願された結果だ。
まぁ、致し方ないと割り切ろう。
こちらも、彼女の人生を奪おうとしてる責任があるからな。
「それじゃ、行くか。どこから行く?」
「あっ! それなら私、色々と考えてきたのっ! 今日は私に任せておいてよ、悠人っ! 絶対に楽しませてみせるんだから!」
普通、逆じゃね? と思った人も多いと思う。
さりげなくデートプランを考えて来ていて、それと気づかせずにさり気なーく女の子を楽しませる、ってのがデキル男ってやつだろう。
けどね、僕ってばデキナイ男なの。
なので、今日は四季に一切合切をぶん投げた。
「すまないな、四季。……何分、女子とデートなんて初めてなもので、何をすればいいのか分からないんだ。今日はお前を頼らせてもらってもいいか?」
「も、もももちろんよ!」
彼女はとっても嬉しそうだった。
テンション爆上げの彼女に微笑ましいものを感じつつ、僕は、さりげなく彼女の手を握った。
これだけの人混み、迷子になっても困るからな。
彼女は大きく身体を震わせる。
人混みに押されて彼女の耳元へと寄った僕は、小さな声で囁いた。
「……あぁ、楽しみにしてるよ。いろは」
彼女の顔から蒸気が吹き出した。
かくして、僕と四季の、何かが決定的に間違ったデートが始まった。
☆☆☆
「服を見に行きましょう!」
四季のデートプラン①
『二人で一緒に服を見る』
まぁ、テンプレだよなぁ。
女の子の服選びで意識高い系の店に入って。
そんでもって、女の子が試着中、なんとも言えない表情で男の子が佇んでいる……と、そこまで想像できた。
が、これは想像してなかった。
「ひゃぁ! カッコイイわ悠人! 私がお金払うから買いましょう!」
「……待て四季。ちょっと待て、今何着目だ?」
――逆だった。
いや、……えっ? 普通こっち?
四季の服を見るのが普通だろ?
なんでったって四季が僕の服を見てるんだ。
場所はショッピングモールのメンズ服専門店。
来てるところからして四季、自分の服を見る気がないようだ。
先程から僕は、四季の着せ替え人形状態。
四季の持ってきた服を片っ端から着ては褒められ、また着ては褒められ……を繰り返してる。
まぁ、ね。
普通に、テキトーな服選んできてるなら別にいいさ。
ある意味、途中で飽きて『そろそろ次のところ行こう』と言い出せるから。
ただなぁ……その、ねぇ、四季さん?
あなた、ファッションセンスの塊ですか?
「……やばいな、初めて自分で自分がカッコイイのかもしれないと思った」
「でしょう!? 悠人は元々イケメンな方なのよ! 服装が決まってれば悠人に惚れない女の子なんて居ないわ!」
鏡を前にする僕に、四季、絶賛。
先程から彼女の選んでくる服は、絶妙なセンスの煌めく組み合わせばかり。いざ着てみると、まるで最初からそうなるように仕組まれていたかのような運命さえ感じさせる。なんたるファッションセンスか。戦慄したわ。
「四季、お前を手離したくない理由が1つ増えた。将来僕が、服選びに頭を悩ませる必要性が無くなるだろうからな」
「永久就職ってことね! 嬉しいわ悠人!」
「あ、あのぉ……そろそろ試着室を占領するのをやめて欲しいのですが……」
店員さんが控えめに声をかけてくる。
その姿を四季はジロリと睨んだが、僕はどうどうと声をかける。
「四季、落ち着け。店員さんの言うことは正しい」
「あらそう? 悠人が言うならそうなのね。ごめんなさい、店員さん。とりあえずここにある分、全部くださるかしら? お金私が……」
「僕が払う。お前は昼飯まで財布を取っておけ」
「あらそう? 悠人が言うのならそうするわね」
こうでも言わなきゃ僕に尽くす気が収まらんだろ、こいつ。
僕はこれでも、テストで『まぁまぁ』いい点数を取ってるからな。表沙汰にはしてないけど。というか倉敷にも言ってないけど。
だから金には余裕がある。
この服は……とりあえず似合っていたので僕の部屋に置いておこう。いつか使う機会もあるだろうしな。
「は、はい。それではお会計を――」
店員さんに連れられて会計まで歩いていく。
その後ろを、楽しそうに頬を緩ませた四季がくっついてきていた。
☆☆☆
「映画を見ましょう!」
四季のデートプラン②
『二人で映画を見る』
うん、やっぱりこれに限るよね、デートだもん。
2人並んだ席に着き、一緒に恋愛ものの映画を見る。
胸を打つラブロマンス。
ふとした瞬間に迫るラブシーン。
戸惑い、気まずさに隣をチラ見し。
目が合っては逸らして、頬を染める。
しかし、肘掛で握りあった手だけは緩めない。
……そうだよねっ!
やっぱりデートって言ったらこうじゃなきゃ!
デートプラン①が間違ってたから少し心配だったけど、これなら――
『我が漆黒の腕に抱かれて消えろ! エターナル・サン・ブラックエンド!』
『な、なん……だとッ!? わ、我が漆黒が消えていく……!』
『確かにお前黒かった……。だがッ、俺の方が漆黒だった! ブランド・レンシャイン! お前の敗因はそれだけさ!』
『ば、馬鹿な! この私が、この私がぁぁぁぁぁあああああああ!?』
「楽しかったわね! 悠人!」
「えっ?」
気がついたら映画、終わってた。
あれっ? 恋愛ものは?
そして知らぬ間にデートプラン③『昼食』まで来てたんですが。
場所は近くの洋食屋さん。
まぁ、ここは普通だなぁ。
さっきの映画が常軌を逸し過ぎてて、ちょっと警戒してるけど。
「悠人、さっきの映画どうだった?」
「……まぁ、面白かったんじゃないか?」
特に印象深かったのが『確かにお前は黒かった』って、最終決戦で発せられたセリフだな。セリフからして作者の頭の悪さが窺える。
その他にも、真剣なシリアスシーンなのに笑いを誘ってくる場面がいくつか。シリアスな笑いってああいうのを言うんだろうね。
こうして振り返ってみるとかなり面白かったんじゃないだろうか?
「そうよね! 私は……そうね、主人公の弟、レンディングの同性愛者カップル、ブランド・レンシャインが実は黒幕だった! ってのが一番びっくりしたわ! まさか……ねぇ? だって弟のレンディングが黒幕だって思うじゃない! いつも主人公の背中を見て黒い笑顔を浮かべていたし……」
「あぁ、まさか、兄である主人公のケツを見ていただけだとはな」
なんたるミスリード!
まんまと騙されたぜコノヤロウ!
あの作者、頭が悪いように思えて実は頭がいいのか?
よく分からない。そんな映画だった。
そうこう考えていると、頼んでいた料理がやってくる。
「はい、こちら。超大盛り450gハンバーグと、レギュラーサイズの150gハンバーグになります」
すげぇ大盛りがやってきた。
えっ、こんなの食えるのか不安になってきたんだけど。
店員のお姉さんは450gを僕の前へと運んできたが、それを見て四季が口を挟んだ。
「あっ、そのハンバーグ、私が頼んだやつです」
「…………えっ」
店員、理解までに2秒かかった様子。
そうなんですよねぇ、実は、超大盛りって四季のヤツなんです。
こいつ、モデルみたいな体型してるのにどれだけ食うんだよ。
店長さんは困惑しながらも謝罪。
超大盛りを四季に、レギュラーサイズを僕に配膳した。
「そ、それではごゆっくり……」
「はい、ありがとーございます!」
そういうや否や、四季は早速自分のスマホでハンバーグを撮影。
この学園内じゃ、ネット関係にも制限がつけられている。
おそらく、写真を撮ってのちのちに友達へと自慢するとか何とか、そういう目的なのだろう。……ううむ、女子高校生の考えることは難しい。
「それじゃ、頂きますっ!」
「あぁ、いただきます」
僕は彼女に倣って合掌する。
……まだまだ、間違い続きのデートは続いてゆく。
ちなみに映画の名前は【ブラックエンド】
いい感じの題名から一気に裏切られるゴミストーリー。
裏切りに次ぐ裏切りとミスリードの果てにたどり着くものは……!
海外の有名な俳優たちを盛大に無駄遣いした超大作です。




