表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/241

5-3『無人島』

旧題)狂人は平穏に棲む~近いうちに学園潰します~


近いうちに学園を潰せそうになかったため、作品の題名を変更させて頂きました。

「うん! それでいこっか!」


 新崎康仁からの承認は、一発で下りた。

 元々、B組から提示されたルールは。


 ①3日間のサバイバル

 ②場所は無人島

 ③道具や食料など持ち込みは禁止

 ④戦闘不能=脱落

 ⑤リタイアも可能

 ⑥相手の全滅で勝利とし、B組が勝てばC組は以降絶対服従とする。

 ⑦夜宴・八咫烏の特別参加(本人の意思を尊重する)。


 の、大まかに分けてこの7つだった。

 そして、今回C組から出した条件は。


 ①特定の箇所に攻撃を受ける=脱落

 ②事前に無人島の資料(水場の地図など)の配布。

 ③3日間で勝負がつかなかった場合は、クラス代表による戦闘により勝敗を決める。戦闘は本戦同様、特定箇所に攻撃を受けると敗北になる。

 ④開始地点の自由選択権有り

 ⑤トイレやベッドなどが完備されたセーフティゾーン(危害を加えることが出来ないエリア)を配置し、一日に8時間のみ使用することが許されることとする。

 ⑥意図して悪意のある行為をした者は脱落とする。

 ⑦C組が勝利した場合、B組は以降、他者へと危害を加える一切を禁じられる。


 以上、こちらも7つである。

 特に、女子から⑤について、絶対にと念押しされている。

 そりゃそうだよね。女の子が野糞なんてやだよね。僕もやです。せめてトイレットペーパーを支給してください。


 閑話休題。


 話し合いの場に来た新崎は、渋ることなく了承を示した。

 それには、学園側として話し合いに立ち会った榊先生も驚いた様子だった。


「……いいのか? 悪意のある行動は、即敗北に繋がるぞ」


 新崎といえば、悪意の塊だ。

 だからこその言葉だった。

 けれど、彼はきょとんと首を傾げて笑っていた。


「いいって言ってるじゃないですかー。この前、そこのクソ女に負けてから、僕も学びましてね。やるなら、徹底的に。回りくどい手なんて使わず、真正面から叩き潰す。……そうでなけりゃ、格の違いってのを思い知らせられないでしょ?」


 その瞳の奥に、憎悪が燃えているのは言うまでもないだろう。

 新崎はそう言って去ってゆき、朝比奈もまた、彼の姿を見送り、席を立つ。


「そうね。今度こそ……決着をつける。誰の目にも明らかな形で、真正面からあなたを倒すわ、新崎康仁」


 彼女の覚悟も、本物だった。

 その横顔を、その場に招待されていた僕は一瞥する。

 何を思うでもなく、何を考えるでもなく。

 ただ、なんの感情もなく、無表情に一瞥くれて。


 特になんの感慨もなく、視線を逸らした。




 ☆☆☆




 一週間後は、すぐに訪れた。

 僕は豪華客船のような超大型フェリーの甲板で、スマホを見つめていた。


『夜宴の長、()()()()。通称【八咫烏】へと、1年B組から闘争要請があります。参加による一切の報酬はありません。受諾しますか?』


 一週間前、ルールが締結された直後に送られてきたメールだ。

 やっぱりというか、なんというか。

 八咫烏の正体は、既に学園側へとバレているらしい。

 といっても、僕に目をつけている教師陣は少ないと思う。

 というか、榊先生くらいなものじゃないのかな。

 生徒の異能は担任教師にしか明かされず、それ以外には学園長しか知る由はない。だが、学園長は僕ら生徒には興味なんてないだろう。

 現に、入学式以来、一度も姿を見かけていないのがその証拠だ。


 というか、僕の異能はあくまでも『目を悪くする』。

 そういう風に登録してある。

 だから、僕を注目しようなんてもの好き、榊先生以外には一人もいない。


 だから、多分このメールは榊先生が打ったものだ。

 あるいは、自動的に送られるシステムでもあるのかな?

 いずれにしたって、八咫烏の正体を入力したのは榊先生だろう。最高級の異能を誇り、C組の自警団に手を貸し、B組の新崎に敵対した。そんな噂を聞いてしまえば、彼女は僕を真っ先に疑うだろうからな。


「ま、どうでもいいことか」


 そもそも、榊先生に脅威を感じていない。

 彼女が敵対するのは、きっと僕らが学園と真正面からことを構える時だろう。その時までは、人畜無害な校則モンスターとでも思っておけばいい。

 僕はスマホをポケットへ戻すと、背後から足音が聞こえてきた。


「……あら、雨森くん。こんな所に居たの」

「……お前は」


 朝比奈嬢じゃないか、どうしてこんな所に。

 甲板には人っ子一人居ない。

 というのも、この船は現在進行形で無人島へと向かっている。

 そのため、生徒たちは今できる準備――地図の暗記だとか、食べられる木の実やキノコの把握だとか、今のうちに食い貯めだとか。そういうことを着々と進めている。

 僕みたいに、余裕綽々で風を感じてる阿呆はどこにもいないはずだ。


「クラスの中心が……何をやっている。クラスに戻れ。お前が居ないと不安を覚える者も多いはずだ」

「やっと、私の事を覚えてくれたようね……」


 僕の忠告を、彼女は聞いちゃくれなかった。

 何この子、ちょっと、人の話を無視するなってお父さんお母さんに教えられなかったの? やめてよね、それってナイフで心臓突き刺すのと同じくらいの衝撃なのよ?


「……はぁ、誤魔化しきれなかったか」

「ええ、貴方がわざと私の名前を覚えてないように見せ……」

「実は、顔は覚えたが名前が出てこないんだ」

「……て、い……なかったみたいね。ええ、ごめんなさい。変なこと言ったわ」


 僕の言葉に、朝比奈嬢は目に見えて落ち込んだ。

 ……言っとくけど、変なことを言ってるのは僕の方だぞ、朝比奈嬢。

 これだけ話していて未だに名前を覚えられない馬鹿がどこにいるんです。

 あなたはもうちょっと、雨森悠人を疑う、ってことを覚えた方がいいと思うわよ。

 僕は大きく息を吐くと、話題をあからさまに逸らしていく。


「黒月は……まだ、無理だったな」

「……っ、ええ、そうね」


 新崎の野郎にボコられた黒月。

 彼についてだが、まだ目が覚める様子はないらしい。

 そりゃそうだ。ファンタジー世界ならまだしも、これは現実。新崎の馬鹿力でボコスカ殴られてたら命に関わるってもの。

 医師が言うには、点在先生の異能で傷は全て復元したものの、あまりの超常現象に脳がついていかず、まだダメージが残っていると錯覚しているらしい。

 おそらく、もう1週間か、そこらで目が覚めるだろうとの話だった。

 そのため、今回は黒月抜きでの参加になる。


「……まぁ、向こうも星奈さんが抜けて29名。運がいいのか悪いのか、これで戦力差という面では公正になったわね」


 黒月の代役を星奈さんが務められるかは別だがな。

 というか、星奈さん。大丈夫かな?

 さっき見た時は「い、今のうちに、食べておかないと……うっぷ。が、頑張る、のですっ」と食べ物両手に言っていたけれど、食べ過ぎも良くないと思います。だって、食べたものは出る運命にあるのだから。

 えっ、野糞?

 いやいや、星奈さんはそんなことはしませんとも。

 女神がう〇こなんてするはずないでしょう? 察しなさい。


「問題は、八咫烏ね、雨森くん」

「戻れと最初に言ったのだが、話、聞いていたのか?」

「聞いた上で話しているのよ、察しなさい」


 何を察せというのだろうか。

 自分は動きたくないからお前がどっか行け、ということかな。

 僕は甲板の上を歩き出すと、当然のごとく朝比奈嬢がついてくる。


「八咫烏……私は直接会ったことはないけれど、どうやら、倉敷さんと、堂島先輩が見たそうなの。倉敷さんは……あの時、保健室で。堂島先輩に至っては、戦い……敗北したそうよ。本人は頑なに語ろうとしなかった。つまり、そういうことなのでしょう」


 違います。

 そしてついてこないでください。ストーカーと呼びますよ。


「それなら、僕も見たぞ、ストーカー。堂島先輩が入ってくる前、新崎の怒鳴り声で目が覚めて……その時に、黒いローブを羽織った人物が目に入った」

「それは……!」


 朝比奈嬢が、僕の前を塞ぐように移動する。

 彼女は驚きや期待など、多くの感情を胸に僕を見る。

 その中には……何故か、失望の色もあった。

 それは単に【八咫烏は雨森悠人なのではないか】という期待からだろう。

 全く、野生の獣か何かなのかな? この人は。

 倉敷の猫被りもそうだが、朝比奈嬢は完全なる無意識下で、あらゆる『嘘』や『隠し事』を見破るようなきらいがある。


 まるで、根っからの正義の化身。

 星が生み出した、悪を正すための抑止力みたいな女だ。


「……特に、ガタイがいい風には見えなかったが。そうか、堂島先輩が負けたとなれば……かなり手強い相手らしいな。……勝てるのか?」

「……それは、分からないわ。相手の情報が無さすぎる。それに、私も……ここだけの話、まだまだ能力を使いこなせていないのよ」


 なにそれ、新情報なんですけど。

 黒月を助けるのに割り込んだ時の動きから、まだまだ底は知れないと思っていたけれど……まさか、出し惜しみしていたんじゃなくて、単に使いこなせていなかっただけ?

 それは……なんというか。

 語彙力が無くて困るが、とにかくヤバいな。


「そうか。特に興味もないが……お前より上位の雷使いなんて居たら、少しは勉強になるのかもな」

「え、ええ……おそらく、居ないとは思うけれど。そんな人が居たら自警団に誘いたいくらいよ。あっ、でも安心して? 副団長の座は雨森くんのために空けてあるから」

「ふざけろ糞ストーカー」


 そう言って僕は歩き出す。

 彼女は楽しそうに笑って、僕の後をついてくる。

 まるで、野生の動物に懐かれたみたいな気分だな……。

 そんなことを思いつつ、僕は水平線に見えてきた無人島を一瞥する。


 さて、間もなく最終決戦の幕が上がる。

 その先に待つのは、希望か絶望か。

 少なくとも、僕のやるべきことは見えている。


「……少し、仮眠でもしておくか」

「あら! なら私も寝ようかしら!」

「……頼むから、独り言にまで反応しないでくれ」


 まぁ、色々とやるべき事はあるけれど。

 ――朝比奈霞をひっぺがす。

 まずは、そこから始めよう。



 

次回【徹底的に潰す】

いきなりクライマックス突入します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新連載】 竜を超える膂力に、史上最強の魔法。 ありとあらゆる才能に恵まれながら。 しかし、その転生にはちょっと足りないものがあった。 しかし、足りないものは『ちょっと』だけ。 不足は努力と工夫で埋め潰し。 やがて、少年は世界最強へと成り上がってゆく。 異世界転生、ちょっと足りない
― 新着の感想 ―
[良い点] 名前覚えられないネタは最早芸術の域になってますね、最終章までこのままとかならそれは伝説になりそうです。 [気になる点] 今回は八咫烏としてB組が呼んでくれましたがもし夜宴としての介入が困難…
2022/07/09 16:04 退会済み
管理
[良い点] 上位の雷使いフラグがたった・・・? 雷神より上思いつかないし加護の上ってだけかな?いや、雷使いが雨森とは限らないけど、本当になにもわからない主人公だ [気になる点] 嘘つきすぎてもはや本当…
[良い点] とくになにも考えていなさそうな意味深な台詞にワクワクしてしまう。 展開が読めないから飽きずに読めて、続きが気になりすぎるから毎秒更新して欲しいです。 [気になる点] 雨森くんの能力、霧で…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ