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4-3『期待』

「体育祭で、C組をぶっ潰そうと思うんだ」


 ある日のこと。

 新崎康仁は、B組の教壇に立ちそう言った。

 それは、ホームルームの時間帯であった。

 担任教諭である『点在ほのか』へ頼み込んだ新崎は、体育祭準備の話し合いの場としてこの時間を手に入れていた。


「ちょっと、体育祭準備の話し合い、じゃなかったの?」

「まったくもー、いろは、体育祭は言ってみればC組を潰すためのイベントでしょ? つまり、C組を潰すことがメインであるならば、体育祭の準備とはC組を潰す準備、ってことにもなるわけさ! ……ん? なるよね? たぶん」

「……まぁ、なるんじゃないの? 知らないけど」


 四季いろはは、興味無さそうに窓の外へと視線を向けた。

 そんな彼女に満足気に笑った新崎。


「うんうん、いろははそうでなくっちゃね! 僕は正しく、間違ってない。僕の考えにわずかでも異なるモノは全てが不正だ。けど、僕は思うんだよ。時に間違いも秩序の中には必要だとね」


 間違いがあるから正しさの証明になる。

 悪があるから正義の証明になる。

 下がいるから上の証明になる。

 犠牲がいるから安全の証明になる。


 それら全て、彼の思い描く秩序のために。


 その考えを受け、B組の生徒たちは喉を鳴らした。

 彼の言葉一つで、クラスの立ち位置が大幅に異なってしまうからだ。

 彼が間違っているといえばそれまでだし、彼が『今日から君が最底辺』と言えば全てが崩壊する。星奈蕾の二の舞だ。


「だから、いろは。君は好き勝手にやっていいよ。だって、君の行動もまた秩序のためには正しいのだから」

「ふーん、なら、ちょっと知りたいんだけどさ。あの……雨森だっけ? アイツはもうどーでもいいんだけど。他の朝比奈と黒月っているっしょ。あいつら、勝てんの? かなり強そうに見えたけど」


 四季は、新崎の言葉を受けて質問をした。

 雨森悠人と新崎康仁の戦いは、まだ記憶に新しい。

 その結果としてB組からは星奈蕾がC組へと移動となり、新崎は雨森への興味を完全に失ったわけだ。


「あぁ……アイツらねぇー。いろはの言う通り、雨森はもうどうだっていいよ。底が見えたし。でも、確かに残る二人は危険そうだよね」


 特に、朝比奈霞。

 あの女は相対してすぐ、本能が叫んでいた。

 この女とは、戦うな、と。

 新崎康仁をしてそう考える傑物。

 だが、決して勝てない相手じゃない。


 だって、新崎康仁の能力もまた、神の加護なのだから。


「現時点においては、朝比奈の力に勝る力はないだろうね。けど、潜在能力まで含めたら、きっと僕の力に勝るものはない。だから、朝比奈に関して言えばまだいいさ。勝ち目はあるんだから」


 問題はもう一人の方……黒月奏についてだ。


「僕が問題視しているのは……黒月の方さ。目の前でクラスメイトがボコられている。死にかけている。そんな状況で正常な思考ができる人間なんてごくわずかだよ。あの朝比奈でさえ、きっと平常運転とはいかなかっただろうね。けど、黒月奏はなんの憂いもなく、あの瞬間における最善策を選んできた」


 状況が異なれば、特に問題視はしていなかった。

 けれど、あの状況、あの瞬間。

 朝比奈霞を理詰めで止めつつ、自ら率先して最善を成した。

 ルールの隙を公言し、殴られることで正当防衛さえ成り立たせて見せた。

 しかも、事前にこうなると先読みし、先生にまで事情を説明していた、と。


 そこまで考え、新崎は笑う。

 それは最愛の人に出会えたような満面の笑顔で。

 肉親を笑顔で斬殺した直後のような、満面の狂気だった。


「ああ、うん。万に共通することだけど、頭脳さえ潰せれば、あとはおのずと崩壊する。だから、此処に定めよう。今回の体育祭における標的は――黒月奏。あの男をぶっ潰そう!」


 かくして、新崎康仁は宣言する。

 だがしかし。

 誰に目にも正当に見える彼の言葉に。

 他でもない、新崎は小さな違和感を感じていた。


(でも、本当に……それだけが問題かな)


 それは、本当に小さな違和感だった。

 新崎は以前の一件を通し、黒月奏を買っていた。

 だからこそ感じた、彼はその程度の人間なのか? と。

 朝比奈霞を前面に出すのはいい。その裏方に回るのも、まだ理解ができる。

 それほどまでに、朝比奈霞は傑物だから。

 だけど自分なら、決して【裏にいること】に悟らせない。そう動くだろう。

 誰からも警戒されない。

 それほど素晴らしい武器など存在しないのだから。

 だからこそ、平然と裏に存在している黒月奏に違和感を覚えた。


 けれど、新崎はその違和感を鵜呑みにした。

 警鐘を鳴らす直感を、勘違いという言葉に落とし込んでしまった。


(……まあ、彼も他と同様、間違いということなんだろう)


 誰にでも間違いはあるものだ。

 ただ、新崎康仁、彼自身を除いて。


「僕は正しい、僕以外のすべてこそが間違っている」


 ゆえにこそ、彼に敗北などありえない。

 だって、彼のとる行動は、常に自身の正しさに基づいている。

 正義に無敗たる由縁など無いけれど。

 間違いが正されないという、帰結もない。


 新崎康仁は、正さねばならない。

 自分以外のすべての生命体を。

 この、世界そのものを。


「特に、このイカレた学校システム」


 彼は、近くに座っている点材ほのか教諭を見据える。

 彼女は実に楽し気に微笑んでおり。

 新崎は、彼女を超えるとびっきりの笑顔でこぶしを握る。



「覚悟してよね。アンタらを潰すのは……この僕だ」



 新崎康仁の目指す場所。

 それもまた、この学校の崩壊に他ならない。




 ☆☆☆




「体育祭……最も気を付けるべきは1年B組よ」


 放課後。

 朝比奈率いる自警団のメンバーは、1年C組へと集結していた。

 そこにいる面々は、倉敷や黒月ら、朝比奈霞が確実に信頼を置けると判断した数名により審査され、おおよそ内通者ではないだろうと判断された者たちだった。


「1年B組……例の元気な奴がいるクラスか」


 見上げるほどの巨体が、腕を組みながら呟いた。

 彼の名は『堂島忠』、3年A組所属のちょっとした有名人だ。

 中でも彼を有名たらしめているのは、その強さ。頭脳はもちろんのこと、彼は近接戦闘において無敗を誇るほどに強かった。

 それはひとえに、負けず嫌いな性格と、曲がることが大嫌いな頑固さの集大成であろう。さして強くもない異能を鍛え上げ、積み重ねた努力は、いまや加護の能力者さえいとも簡単に打ち砕く。


 ちなみにこの男、ドがつくほどの脳筋である。

 加えて引くほどの熱血正義男。倉敷が「これが演技だったら土下座する」とまで言うほど、彼に裏表は存在していなかった。


「まぁ、そうでござるな。新崎康仁……正直、勝てる可能性が全く見えなかったでござる」


 そう続けたのは、1年C組の『楽市楽座』少年。

 楽市は王の異能を保有しており、その強さはC組の中でも上位に入るほど。間違いなく、佐久間や烏丸といった上位メンバーと同等の力を持っているだろう。


「でも、堂島先輩なら勝てる。問題は、搦手を使ってきた場合」


 近くに座っていた二年生の女子生徒が口を開く。

 彼女は『真柄(さながら)めい』。

 かつて、熱原との闘争要請の際に審判員を受け持った【生徒会】の役員だ。

 彼女は生徒会に身を置きながら、それでも自警団の手助けをすると言い、協力を申し出てきた生徒でもある。

 朝比奈も当初は困惑、どころか疑念すら覚えたが、真柄はそれを塗り消してあまりあるだけの力を持っていた。

 生徒会という立場も自警団が正当性を持つ上では必要となる。

 熟考したが、結局は真柄もまた自警団への参入を認められている。


「まぁ、そこは俺が考えます。純粋な読み合いであれば、新崎よりは俺が上でしょうしね」

「さっすが黒月くん! 頼りになるね!」


 そして、黒月と倉敷。

 その他にも、今回は出席していないが、烏丸冬至や、その他にも多くの生徒が自警団へと加入している。

 それはひとえに、この学園の在り方を疑問に思っている生徒が多いからだろう。でなければ、実績も何も無い小娘の元へと二年生、三年生が集うはずもない。


 朝比奈は周囲の顔ぶれを改めて見渡すと、クラス内へと視線を向けた。

 まだ、多くの生徒たちがクラス内には残っている。

 といっても、部活に向かって既にいない生徒たちも一定数居る。現に、雨森は文芸部へと向かったのか既に姿はないし、烏丸もまた最近入部した【ボードゲーム部】へと向かった様子だ。


「にしても……強そうな輩がゴロゴロとしたクラスだな。三年生……俺たちの時代はこんなにインフレしてなかった気がするが」

「その分、現生徒会長や、貴方みたいな化け物がいる。……だけど。うん。確かに、強そうな人が多い」


 堂島と真柄もまた、C組を見渡している。

 真柄は熱原との闘争要請を間近で見ている。

 堂島にしても、三年生の教室からあの戦いは目にしていた。

 だからこそ、あの場で戦った生徒――黒月や佐久間に関してはかなりの評価を下していた。

 だが、その中でも【ダントツ】なのが、雨森悠人という男だった。


「で、雨森はいねぇのか、雨森。素手で加護の能力を相殺する化け物だ。ちょっくら挨拶くらいしておきたかったんだがな」

「……確かに。朝比奈さん、雨森悠人は自警団へと入れないのですか? 素手であの強さ、加えて異能まであると考えると……このクラスでは最強の人物だと思っていますが」


 雨森悠人の【目を悪くする】という異能を知らない二人が口を開く。

 それを前に小さく息を吐いた黒月は、順に雨森悠人について説明をする。

 彼の能力があまりにも弱すぎること。

 彼が朝比奈霞を毛嫌いしていること、その理由。

 現に、誘ったがにべもなく断られたこと。


 それらの説明をする度に、二人は難しそうな表情に変わってゆく。


「……まぁ、以上のことから、雨森悠人は常識外れな自由人、だと思ってください。こうしてクラスに居ないのも、お二人と顔を合わせたくなかったのでしょう。面倒事を何より嫌う男ですので」

「私なんて、まだ名前を覚えられているかも怪しいですし……」

「マジかよ……それだけの容姿、カリスマ、強さもあって、なのに名前を覚えられないって。どれだけ嫌われてるんだお前さん……」


 堂島が少し引いたように口を開く。

 真柄は顎に手を当てて考え込んでおり、かつて見た雨森悠人の姿を思い起こしていた。


「……まぁ、了解しました。本人に意思がなく、異能も……非戦闘系となれば、無理強いするつもりはありません。……惜しいとは思いますが」

「はい。今はまだ、雨森くんを勧誘できるだけの信頼も実績もありませんので。それになにより、新崎という男を前に、()()へ意識を割いている余裕はありません」


 雨森悠人についてを、些事と朝比奈はまとめた。

 彼への執着を知っているクラスメイトは理解する。朝比奈は、それほどまでに新崎康仁を危険視、警戒しているのだと。


「楽市くん、彼の能力は分かったかしら?」

「難しかったでござるが、大まかな能力ならば」


 楽市楽座、能力は【忍の王】。

 多種多様な戦闘術、隠密、斥候に長ける力だ。

 彼はこの力を利用し、B組の内情について調べていた。

 その一部として、新崎康仁の能力の一端を知ることが出来た。


「彼の能力は【神帝の加護】……()()()()()()()()()()()()()()()()()()でござる。詳細については調べられなかったでござるが……少なくとも、朝比奈殿と同等、あるいはそれ以上の能力者とみて対するべきでござるな」

「……はぁ、最悪の能力だな、全く」


 楽市の告げた事実に、黒月がため息を漏らした。


「熱原同様に、新崎もまたB組を完全に手中へ収めている。つまり、奴の配下はB組全員――新崎を除いた28名ということになる、……いいや、まだいるかもしれないな」

「まあ、一人につきどれだけ強化されるのか、って部分にもよるだろうがな。……少なくとも、俺は『神』の加護持ちなんざ数人も知らねえよ」


 三年、堂島がそう告げるほどに、神の名を冠する加護の能力者は数が少ない。

 どころか、運が悪ければ一学年に一人としていない可能性もあり得る。

 現に、今の三年生に神の加護持ちは存在しない。


「……そも、考え方が間違っているのです。本来、加護の能力者とは一騎当千の怪物を指す言葉。その中でも神の名を冠するなど、本来はあってはならないのです」

「たしかに……。と考えると、C組ってすごーっく有利なんだね! だって、霞ちゃんの雷神の加護、黒月くんの魔王の加護……それぞれ神と王様がついてるんだもん!」

「……まあ、そうなるんだろうな」


 黒月がジトっと倉敷を睨んだ。

 その目は雄弁に語っていた、お前も隠れ加護持ちだろうが、と。

 そしておそらく、雨森悠人もまた加護の能力保有者だろう。

 一切の根拠も証拠も理由もないが、直感的にそう理解していた。

 加えて、二人のほかにも能力の虚偽申告者がいるかもしれない。

 そう考えると……1年C組は、すくなくとも四人以上の加護系能力者がそろっていることになる。


(こんなC組と……他のクラスで釣り合いが取れている、なんて……)


 A組に在する正体不明の黒幕と。

 B組に君臨する、新崎康仁という怪物。

 彼らは、単体で加護能力四人分に匹敵する力を持っているのか。

 ……そう仮定すると、否が応でも尻に火が付く。


「けど、油断はしない。そんな恵まれたクラスの総力と、彼は同等の力も持っているとみるべきよ。……私たちは、常に最悪を考えて動くべき。違うかしら?」

「……いいや、何も間違ってはいないさ」


 朝比奈の言葉に黒月はそう返す。

 雨森悠人に、今のところ動く気配は見当たらない。

 彼女が自警団を立ち上げた以上、夜宴もまた確実に動くはず。だが、彼から何も声がない以上、倉敷と黒月は自警団としてできることを成すしかない。


(……というか)

(あの野郎……今回は朝比奈に全部任せる気じゃねえだろうな)


 黒月と倉敷が、嫌な予感にアイコンタクトをとる。

 偶然にも二人の想像は一致していて。

 それが、二人の予感をさらに加速させる。


 だけど、二人には不安と同じくらい、期待もあった。



「すべてを予測し、全てを読み切る。そうすれば私は、決して負けない」



 朝比奈霞は、断言した。

 その姿には歴戦の堂島でさえ頬を引き攣らせる。

 真柄はどこか楽しそうに口元を緩ませ、二人もまた苦笑する。


 二人が知る雨森悠人は、常軌を逸した化け物だ。

 だが、それに匹敵する何かを、朝比奈霞も持っている。


 だからこそ、期待してしまうのだ。

 本当に彼女なら……真正面から新崎康仁を打倒するのかもしれない。


 そう思わずには、いられないから。




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【新連載】 竜を超える膂力に、史上最強の魔法。 ありとあらゆる才能に恵まれながら。 しかし、その転生にはちょっと足りないものがあった。 しかし、足りないものは『ちょっと』だけ。 不足は努力と工夫で埋め潰し。 やがて、少年は世界最強へと成り上がってゆく。 異世界転生、ちょっと足りない
― 新着の感想 ―
[気になる点] 星奈さんがB組からB組に移動してます…
[一言] 多分、たとえ黒月に違和感を覚えて探っても倉敷に行くようになってるだろうな。 俺ならそうする。
[気になる点] >そこにいる面々は、倉敷や黒月ら、朝比奈霞が確実に信頼を置けると判断した数名により審査され、おおよそ内通者ではないだろうと判断された者たち 倉敷黒月が内通者の時点で… 2年の生徒会の…
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