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10-2『天守優人』

永らく謎に包まれていた少年、天守優人。

過去に生き、今では行方も知れぬ少年は。

されど確かに、そこに生きていた。

「実は僕の一族、特殊能力もってるんだー!」


 と、弥人から突然の告白をされたのは、執務室を出てすぐの事だった。


「……とくしゅ、のうりょく?」

「そう! まぁ、明確には天能って呼ばれてるんだけど。空飛んだり火ぃ出したり、人間が通常出来ないことだと思って欲しいかなー」


 あまりよく分からない。

 けれど、その実験を僕でする、っていう話をしていたのは何となく分かった。

 そして、弥人はその実験を危険じゃなくしてくれ、って頼んでいた。

 その事も分かった。


「……ありがとう、ございます」

「…………え? なんかお礼されるようなことしたっけ? むしろ、勝手につれてきたくせに大して役にも立たなくて……父上から君を守り通すことができなかった。怒られる覚悟でいたんだけど」


 戸惑う弥人。

 彼に対して、首を横に振る。


「……難しいことは分かりません。分かるのは、あなたは僕に悪意がないってこと。悪意がないなら、あなたはきっと僕にとっていいことをしたはずです」

「……その歳にしては随分と達観してるよね。もしかして天才だったりするのかな。先も父上の殺気を察してたし……」


 天才……と、彼は言った。

 言葉の意味はわかるけれど、生まれてこの方そんな言葉とは無縁の僕にはあまりしっくり来ない言葉だった。

 生まれて来なければよかったのに。

 出来損ないの、不出来な子供(ガキ)

 そう言い続けられてきた人生だったから、彼の言葉は容易く受け入れられるものでもなかった。


『そんなことないですよ』と。

 咄嗟に否定の言葉を返そうとした……その時だった。



「……ん。ちょっと悠人、下がっててね」



 何かを感じ取った様子の弥人は、僕を背中に庇い、向かって左側の庭を見た。


 ――次の瞬間、凄まじい衝撃が僕らを襲う。


 弥人に庇われ、背中越しに見えたそれは、確かに()()だったと思う。

 無数の、飛ぶ斬撃。

 刃なんて、実態なんてないのに。

 父を殺した凶刃よりも何百倍も鋭いものが、一切の容赦なく弥人を襲った。


「あははー、今日も僕は嫌われてるねぇ」


 対し、弥人の顔には苦笑い。

 彼は右手を「しっし」と払うと、途端に全ての斬撃が消滅してしまう。

 その光景に目を見張っていると……庭先から女の子の声が聞こえてきた。


「くうぅぅぅう! き、今日こそはかんぜんな不意だとおもったのに! なんで兄上はそこまで隙がないのですが! だいきらいであります!」

「……恋ちゃん。なんで僕にはそんなに当たりがキツいの?」


 庭先に視線を向けると、短い黒髪の幼女が地団駄を踏んでいた。

 僕よりも……まだ年下だろうか。

 本当に、まだ立って走るのも難しそうに見えるような年頃。

 それが……なんでだろう。大人の身の丈もあるような木刀を振り回し、暴れていた。


 ――狂気。

 この家に来て一番ありえないものを目撃した気がする。なんだあの子、すごく怖い。


「弥人さん、なんなんです、あの子」

「……あぁ、うん。この家で一番手の付けられないヤバい子、とでも言っておこうかな」

「きーーー!! むかつくであります!!」


 幼女が木刀をぶん投げる。

 目にも止まらぬソレは僕の顔面のすぐ横を通り抜け、背後の襖をぶち破って消えた。

 頬に触れれば、血が指に付着する。

 えっ、笑えないんですけど。

 今、ちょっとでも頭の位置がズレてたら死んでたんじゃなかろうか。


「……あれが……天能、ってやつですか?」

「いやー、あれは素かなぁ。恋は3歳児のくせして剣道有段者を秒で屠る怪物だからねー。……たぶん、彼女が14、5歳まで成長したら僕でも手が付けられないだろうね」

「……怪物」


 思わずそんな感想が出た。

 そうこうしていると、地団駄を踏む幼女の後ろに見覚えのある姿が現れる。


「こら、天能を無闇に使うんじゃない」

「いたいであります!」


 ゴチンと、怪物幼女にゲンコツが落ちる。

 幼女は殴られた頭を押さえて蹲り、その後ろに立っていた少年は呆れ混じりにため息を漏らす。


「ん? ……あぁ、どこぞのイカレと拾い子か。こんな所で何してる」

「ねぇ、なんでウチの家族って皆僕に対して当たりキツイのかなぁ?」


 弥人を見る。

 彼は少し泣きそうだった。

 庭先には、この家に入ってきて一番最初に出会った少年……たしか、ゆうと、と呼ばれていた人物が立っていた。


「お前が『正義の味方は絶対負けない』とか言って、恋との訓練で一方的に勝ったせいだろ。恋も意固地になってるんだ、少しは手を抜いて勝たせてやれ」

「ちがうであります! それに、それをほんにんの目のまえで話さないでほしいであります!!」


 幼女が涙目でゆうとを睨む。

 それに対し、ギロリと鋭い視線が恋へと返り、彼女は口笛を吹きながら視線を逸らした。


「だったら優人が相手したらいいじゃん」

「嫌だよ。だって手ぇ抜いたらキレるんだもんコイツ」


 そう言って、少年は僕らの方へと歩いてくる。その姿を見て弥人は口を開いた。


「てなわけで、弟の優人と妹の恋だよ! ご覧の通り、日常生活においての序列は父上>優人>恋>僕みたいな所あるから、何か困ったら優人に話を通してね!」

「ゆうと……さん」


 僕がそちらを見ると、あからさまに目を逸らされた。弥人は歓迎してくれる様子だが……この人は別なようだ。

 と、そんな感情が透けて見えたのか、弥人が重ねて言った。


「ちなみに、優しい人と書いて優人だよ。ものすごく優しいから安心してね!」


 言った瞬間、優人から飛び膝蹴り。

 弥人の顔面にクリーンヒット。

 顔面から嫌な音を響かせながら、弥人は後方へと吹っ飛び倒れた。

 吹っ飛んだ先から『ぐぬおぉぉぉ!?』と、ものすごく痛そうな悲鳴が聞こえてくるが、優人も恋も無視している。


「……基本は弥人を頼れ。唯一、恋が問題を起こすだろうから、その時だけは僕に話をもってこい」

「ま、まるでさいしょから問題をおこすみたいに言わないでほしいであります!」


 ぷんすかと怒りながら、幼女が僕達の方へと駆け寄ってくる。

 そして、ふと幼女は僕を見上げると、まるまるとした目で疑問を投げた。


「して、このじんぶつの名はなんというのでありましょうか! 兄上!」

「……と、聞いているようだが?」


 何故か優人を通して問いかけてくる恋。

 随分な懐かれようだなと思いながら、僕は、名乗りにくい自分の名前を口にする。


「……僕は志善。志善悠人です」


「……ゆうと」

「なんと! 兄上とおなじなまえですな!」


 妹の恋は物珍しいとばかりに騒いでいたが、目に見えて優人の表情は曇っている。

 彼は頭をガシガシ搔くと、諦め混じりに口を開いた。


「じゃあ、志善。恋もそこで倒れてるのもこの呼び方で統一だな。そいつはおおよそ『二人の時は下の名前で』とかほざいただろうが、面倒くさいから苗字で統一だ」

「ええ……なんで分かったのさぁ……」


 のそのそと、倒れていた弥人が復活してくる。その顔面には傷一つなくて、少し驚いた。


「呼ばれる側の気にもなってみろ。時と場合によって呼び方が変わるなんて面倒くさいにも程がある。そして僕も面倒くさい」

「後者が本音かな……」

「とにかくだ。……弥人のことだから、父さんには認めさせたんだろう。なら、僕から言うべきことは何も無いよ」


 そう言って、優人は廊下を去ってゆく。

 しかし、その背中を見て、弥人が一言。



「あ、僕これから学校だから優人が色々説明してあげてよ」



 ぴくりと、歩き去る優人の肩が震える。

 足が止まり、振り返った彼は半分殺意すら抱いているように見えた。


「……お前」

「いやー、悪いとは思ってるんだよ? でもほら、これ以上時間かかっちゃうと完全に遅刻しちゃうしさー」


 それに、と。

 弥人は返事も聞かずに歩き出すと、最後に笑って言葉を残した。



「何を教えるにしたって、僕はあまり基準にならないでしょ」



 その意味を僕が理解するのは、もう少し先の話だった。




 ☆☆☆




 弥人が学校へと走り去った後。

 ものすごく嫌な顔をした優人に連れてこられたのは、小さな和室だった。

 といっても、この家のスケールから見れば小さめと言うだけで、僕の住んでいたアパートの部屋よりはずっと広かった。


「ひさびさにはいったであります! 兄上のおへや!」

「……お前を入れたら部屋がぼろぼろになる自信があったからな」


 恋が部屋の中を駆け回る。

 その光景を一瞥した優人は座布団を引っ張り出して座り、対面の座布団を僕に勧めた。


「まぁ、座れよ。どうせあの父さんのことだ。ろくでもない条件とか呑まされたんだろ」

「え、あ……えっと、はい」


 僕は促されるまま、今まで起きたことを理解できる範囲で説明していく。


 先程見た、特殊能力――天能。

 その実験に付き合わされること。だけど危険は無さそうだっていうこと。他にも……彼らの父親に殺されそうになったこと。


 一通り説明を終えた時、優人は難しい顔をしていた。


「……まぁ、運が良かった……としか言えないな。父さんの天能は【殺傷能力】という一点に限れば、弥人を軽く超えてるし。生きてるだけ運がいい」

「……その、天能。って、みんな持ってるんですか?」


 僕が問うと、彼の眉根にシワが寄る。


「質問に答える前に、その気持ちの悪い敬語をやめろ。同世代になんで敬語を使われなくちゃいけないんだ」

「だ、だけど、それは――」


 言いかけた反論。

 僕は産まれてから今まで、敬語以外使ったことがない。そうしなければ……敬語を使わなければ、父や母に殴られていたから。

 だから――と、口にしようとしたけれど。

 彼の強い眼光を見て、やはり僕は怯えたのだろうと思う。


「……わ、分かった。努力するよ」

「じゃあ質問に答えるが、持っている。……まぁ、母さんは持ってないから、あくまでも天守の血統だけだがな」


 優人は懐から万年筆を取り出す。

 彼は恋へと目配せすると、次の瞬間、先程も見た斬撃が万年筆を半ばから切断した。


「……っ!?」

「……まだ荒いな。斬撃が見えてる時点でだいぶ遅い。恋は引き続き速度を高める練習だな。理想は【発動時点で切断終了】だ」

「わかったであります!」


 二人は当然のようにそう言っていたけれど……僕はやっぱり、目の前で起きていることが信じられなかった。


「い、今のは……」

「恋の天能は【斬】。対象を問答無用で切断する能力だ。……まぁ、遅いし荒いし、まだまだ3歳児って程度だが」

「そ、そういう兄上の天能は、わたしよりよわいではないですか!」


 恋は優人の隣に座り込むと、ムキになってそう叫ぶ。

 僕は気になって優人へと視線を向けると、彼はため息混じりに恋を叱る。


「……こら、恋がそんなことを言うから興味を持たれただろ」

「わ、わたしのせいでありますか!?」


 恋が『ガーン』とショックを受けたように目を見開き、その光景を見ていた優人は苦笑い。

 彼女の頭を撫でながら、僕へと視線を戻した。



「ま、恋の言う通り僕の天能は強くない」



 あまり自慢できるようなものじゃないんだけどな。そう言って彼は右手を前に出す。


 そして、右手に光が灯った。


 どこか冷たい、白の輝き。

 何も無い空間から形が生まれ。

 光はやがて実像となる。

 いつしかそれは、本の中でしか見たことの無い『武器』となって、目の前に顕現していた。


「こ、れは……」


 僕みたいな子供でも知っていた。

 人類史が生み出した、最悪の兵器。


 何よりも容易く。何よりも素早く。


 人を殺すことにだけ特化した、武器。




「僕の天能は【銃】」




 ゴリッゴリの遠距離タイプだよ、と。


 優人は複雑な表情で告白した。


【嘘なし豆知識】

○天守優人

天能名【銃】

あらゆる銃火器を司る。

妹の恋とは相反し、完全な遠距離型。

中距離、遠距離、超遠距離戦闘では、彼の天能は無類の強さを誇る。

ただし、彼の扱いはどこまでも【天守のおちこぼれ】に過ぎなかった。

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【新連載】 竜を超える膂力に、史上最強の魔法。 ありとあらゆる才能に恵まれながら。 しかし、その転生にはちょっと足りないものがあった。 しかし、足りないものは『ちょっと』だけ。 不足は努力と工夫で埋め潰し。 やがて、少年は世界最強へと成り上がってゆく。 異世界転生、ちょっと足りない
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[気になる点] 『あらゆる銃を司る能力』なら、143話で、朝比奈の持ってた『銃』を即座に分解できてもおかしさはないわけですね。でもそうなると天能臨界の説明がつかないしでうーんって感じです。偽善ベースの…
[良い点] 天守家野中では優人の異能は弱いらしいですが、橘家の中ではどうですか? [気になる点]  それは、何かを起因にして起きる変化。  人によって、その起因は千差万別。  ただ、何かしらの覚悟が決…
[良い点] やっぱこの作品面白くて好きだ! というかなんか弥人思ったより軽い人で、思春期の子供を持った明るいお父さんみたいだなw 文化祭の時の反応からどちらどちらかが【銃】の天能と思ってたけど優人の方…
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