8-14『総力戦』
A組とC組の全面戦争。
既に戦い始めて十数分が経ち。
攻めるA組と守るC組。
立場は違えど、相手に思うことは同じだった。
『なんて厄介な相手なんだ』と。
邁進と相対するは真備。
真備は『機翼の王』の異能により上空へと陣取り、邁進は上空へと暗器を投擲する。
しかし、それらは真備の直前で停止し、空中にそのまま浮遊している。
「チッ……その異能、本質は【磁力】ですね」
その結論に達するまで、そう時間はかからなかった。
真備佳奈の異能――その本質は磁力。
そして鉄スクラップの自動生成にある。
機翼の一部が弾けると、空中に鉄スクラップが散る。
それらは磁力によって引っ張り、圧縮を繰り返し、巨大な針へと姿を変えた。
「さぁ、行きなさい!」
真備の号令と共に、全ての針が邁進を襲う。
それを前に邁進は、逃げるでも防ぐでもなく……逆にそれらの針へと向かって飛び上がる。
「な――」
飛んで火に入る夏の虫……ではないが。
あえて攻撃に向かって来るなど正気の沙汰じゃない。
焦り、一瞬だけ針の速度が緩んだ……その瞬間を見逃さず、邁進は浮かぶ針のひとつに着地した。
「厄介……ではありますが、ならば距離を詰めればいいだけのこと!」
そして、無数の針を蹴り渡り、一気に上空へと飛び上がってくる。
「嘘でしょ!?」
「大真面目ですが」
相手の攻撃を着地できる場所と考える。
普通の人間なら考えもしない……一周回って賞賛されるべき、バカの思考。
こう見えてA組の中で最も学力の低い邁進、彼女ならではの『力技』であった。
いとも簡単に真備へとたどり着いた邁進は、ナイフを翼に突き立て、真備もろとも揃って地上へと落下してゆく。
「この――ッ」
「橘様は勝利する。熱原も相手が朝比奈レベルでなければ順当に勝つ。その中で、私たちだけが負ける訳にはいかない……!」
二人の姿は、そのまま森の中へと落ちて行く。
☆☆☆
「おいロバート! 邁進のやつ随分と無茶してなかったか!? さすがに死ぬぞ!」
「悪イね! そんなよそ見してるほど余裕がなかったヨ!」
ロバートと米田は共同で戦っていた。
肉体性能最強のロバート・ベッキオ。
近接戦闘最強の米田半兵衛。
いずれも『一部の例外を除き』という但し書きがつくが、二、三年と比べても別格と呼べる怪物二人。
それに対するのは、佐久間と烏丸。
……だけでは足りず、途中から他の生徒たちも参加して戦っていた。
「くそっ、こいつら化け物でござるか!」
「大丈夫、雨森くんほどじゃない! まだ何とかこの人数差で押さえられてる!」
髪を後ろでまとめた侍風の少年、楽市楽座と、文芸部の井篠真琴。
その他、ロバートと真正面切って組み合っているのは錦町だった。
「なーっはっはっは! そんなもんかー! おれ、力自慢だから負けないぞー!」
「パワー以上に……この声! 声がウルサイよ! ちょっとC組! この男の声量、どうにカならないかネ!?」
「「「いや無理だ(ね)……」」」
その場にいたC組全員が否定する。
声がうるさいで有名、錦町。
彼はC組において一番の体格を持ち、雨森に次ぐ怪力の持ち主だ。
それこそ、B組の出し物『腕相撲大会』を見学しに行き、そのまま連勝に次ぐ連勝。最後に戦った新崎に『こいつやばいよ』と言わしめた程だ。
加えて、少し離れたところにいる烏丸の存在。
あらゆる異能に化ける異能。
それこそが虚ろの王。
そして今回烏丸が用いている異能は、『他者を強化する』類の能力。
前線で戦う錦町、楽市、井篠を念入りに強化し、余った力で自身と佐久間すら強化する。
王クラス最強の異能。
最も加護に近い強さを持った――特に汎用性に特化した能力である。
「ロバートもやべぇし、ここは俺が活躍してやらないといけないんだけど……なかなかどうしていい戦力してるじゃんかよ」
ロバートは青く染まった木刀を構える。
と同時に、井篠と楽市が仕掛けてくる。
先頭を駆けるのは楽市。
彼へと向けて刀を振り落とし、それは寸分たがわず彼の体を切り裂いたが――次の瞬間には、切り裂いたはずの体は丸太に変わっていた。
「『変わり身の術』でござるっ!」
「またそれか!」
背後から手裏剣が投擲される。
それらを刀の一振で切り裂き落とすと……その頃には前方に井篠が迫ってくる。
「はぁっ!」
拳一閃。
体格的にも筋肉量的にも。
あえて躱す必要性もなさそうな拳。
されど、米田はその拳を全力で避けた。
瞬間、その拳は空気を裂く。
脇腹を風圧が僅かに掠める。
米田は井篠の頭へと目掛けて刀を振り落とそうとするが……直後に熱気が迫る。
「――ッ!?」
かわした先で見たのは、自分のいた場所を炎の塊が通過していく姿。
井篠は素早く身をかわしていたが……おそらく、拳を振り抜いた姿勢のままでも当たらなかっただろう。
……言動や雰囲気とは異なり、どこまでも繊細にコントロールされた異能だ。
「佐久間純也……か」
「はっ、俺らを忘れられちゃ困るぜ!」
米田は大きく距離を取る。
改めて刀をかまえ、C組を見る。
トリッキーな異能でこちらを惑わせ、隙を作る役の楽市と。
おそらく『拳を振るうこと』だけに特化している、火力役の井篠。
そして、それらを見て1番嫌なタイミングで攻め込んでくる佐久間。
それらを掻い潜っても、恐らく烏丸からの邪魔が入る。
全てを斬れる異能を持ちながら、それでも決定的な一歩が届かない。
必ず『ここ』という所でひらりと避けられる。
「4対1とは、卑怯だねぇ……」
「はっ、あくまでも27対28だぜ。その、どこに戦力を突っ込むかは俺らの勝手だ」
あぁ、事実その通りだと。
米田は思わず苦笑する。
雨森悠人、倉敷蛍、朝比奈霞。
これらの戦力を使うことなく、A組を相手にここまで善戦している。
その件に関して、米田も本気で評価している。
作戦の立案と、配役が完璧だった。
邁進、ロバート、米田を抑えられるだけの最低戦力を上手く送ってきたと思う。
だけど。
「でもそれ、他のところで戦力不足になるって分かってる?」
米田は再び刀を構え。
離れたところで、爆発と崩壊がせめぎ会うのが視界に映った。
☆☆☆
「死んじまえ、死んじまえェ!」
紅が左右の手を大きく振る。
その度に前方の空間全てへと崩壊が走り、空間内のもの全てが崩れてゆく。
「ぐ……ッ、バカみたいな火力だな」
対するは黒月。
崩壊をそれ以上進めないよう、同等……いや、それ以上の炎を使って紅の異能を押し返してゆく。
しかし、黒月の顔には冷や汗が伝い、その表情も余裕とは程遠い。
(……魔王の加護。魔法ならなんでも使える能力だけど、その弱点は瞬間火力と……そして、持久力の欠落にある)
黒月の能力『魔王の加護』。
校内で見ても最高水準の性能を有し、学年で見ても橘月姫、朝比奈霞、新崎康仁に次いで四番目に入るほどの異能でもある。……あくまでも【公表している中で言えば】の話だが。
しかし、その異能にも欠点がある。
その速さ故に、体への負担が大きい朝比奈霞。
その強さ故に、絶対服従の配下を持たなければならない新崎康仁。
そして、なんでも出来るが故に……その『魔力』には恵まれなかった黒月奏。
「……ッ、この局面で、無い物ねだりは都合が良すぎるよな」
炎の波を突き破り、崩壊が頬を掠る。
鮮血が吹き出す中、汗は止まらない。
入学当時の黒月には……それこそ、火の玉を十発打てば尽きるような魔力しか無かった。
熱原と戦った氷の魔法だって、魔力を絞り尽くして実現したもの。
傍目には余裕そうに見えたとしても。
黒月奏の戦いに、そんなものは一度もなかった。
「だけど……ッ」
……雨森悠人と出会って以来。
自身が真正面からのぶつかり合いで負けるとすれば、それは『火力負け』か『耐久戦負け』か。そのいずれかだと考えていた。
故に、鍛えてきた。
袖で汗と血を拭う。
前を見据え、彼はさらに詠唱を重ねる。
「四重詠唱・流星」
「――はァっ!?」
紅の焦ったような声が響く。
頭上を見れば、十メートルを優に超える隕石が四つ、紅へと落ちていく。
それを前に、咄嗟に上空へと片手を掲げる紅。彼女は眼前の炎と頭上の隕石、両方へと崩壊を走らせる――。
――その背後へ、黒月は転移した。
「が――ッ」
「実を言うと、俺は近接も出来るんだ」
一切の容赦ない体当たり。
黒月の肩が深々と彼女の背に突き刺さる。
紅の口から声にならない悲鳴が上がり、僅かに体が硬直する。
その隙に再び転移で逃げると……次の瞬間には、先程まで黒月のいた場所を崩壊が包んでいた。
「ぐ、が……ッ、この、クソ野郎ッ!」
「大丈夫か? 前、崩壊を解除したみたいだけど」
頭上の隕石は、崩壊の力で崩れて消えた。
だけど、黒月を仕留めるために異能を使った時。前方から迫る炎の波を防ぐものは……何も無かった。
「敵には敬意を。お前には……殺す気でやって丁度いいだろう」
炎が紅の全身を包む。
「『炎塔竜巻』」
炎は上空まで上がってゆく。
どこまでも続く炎の竜巻。
内部の温度は超高音まで達し……普通ならばそれだけで戦闘不能。というより、瀕死になっていたっておかしくない。
だが。
「鬱陶しい……ッ!」
叫び声とともに、炎の全てが崩壊する。
その中から現れたのは、少なくない火傷を負った紅だった。
……普通なら、今すぐにでも脱落し、治療を受けるべき傷。
だというのに、少女は痛み一つ表情に出さない。そこにあるのは……ただ、果てない憎悪だけ。
「……あんたも雨森と同様のぶっ殺しコース入ったわよ。考えうる限りの生き地獄をたらい回しにされたあと、ゆっくりとぶっ殺してやるから楽しみにしときなさい」
黒月の頬を汗が伝う。
炎を扱っていたから……では済まない量の汗。いくら訓練をしたからと言って……これだけの大技を連発すれば三十分と持たない。
彼は大きく深呼吸して、頬を吊り上げる。
「ほう、馬鹿の考える生き地獄とは……少し興味があるな。是非とも後学のために知っておきたい」
憎悪に対して嫌味で返す。
それが憎悪に油を注ぐことは無い。
時間を稼げることも無い。
ただ、少女は瞳から光を消すだけだ。
「あっそ。なら、分かったわ」
もう、憎悪は最大値を振り切っている。
どこまでも純粋な害意と悪意を持ち合わせた少女は、強烈な想いをさらけ出す。
「何も出来ずに負けて死ぬこと。それが、どんだけ情けないか教えてやる」
そして物語は、雨森と橘の戦いへ。
過去を知り、今を知り。
雨森悠人は勝つ気がないと理解が及んで。
彼を愛する怪物は、昏い過去へと手を伸ばす。
どうせ不真面目に勝負を流されるくらいなら。
いっそのこと真面目に、貴方を怒らせてしまいたい。
だってそのほうが、私にとって危機的でしょう?
少女は至極真っ当な狂気を持って。
愛する人へと言葉を紡ぐ。
次回【逆鱗】
面白ければ高評価よろしくお願いします。
とっても、元気になります。




