告白×愛紗
宮下先生が提案した最終審査である告白審査。最初こそ酷な事をさせるもんだと思ったが、ステージ上の五人は理由はどうあれ、合意の上でこの審査に臨んでいる。
しかし仮とは言え、告白というのは自分の心の内を曝け出す行為。それを意中の人にならいざ知らず、こんな大勢の前でやるとなると、そのプレッシャーは想像を絶する。
いや、本来はこんな形での告白などはありえない。それでもこの最終審査に臨んだ五人の心境とは、いったいどんなものだろうか。
「つ、次は私が行きます」
まるで結婚式で鳴らされるベルの様な形の、スカート部分がふわっと膨らんだベルラインドレスを揺らめかせながら、愛紗が静かにマイク前へと進んで行く。
「ではもう一人の一年生、篠原さんどうぞ!」
「あ、あの……私がその人と出会ったのは中学生の時でした。その時の私はちょっと色々あって落ち込んでて、そんな私をその人はちょっと不器用な感じだったけど慰めてくれました」
――へえ。愛紗の今の想い人は、中学生の時から居たのか。
それにしても、あのどちらかと言うと素直じゃないタイプの愛紗が惚れた相手ってのは、いったいどんな人なんだろうか。物凄く興味がある。
「その人はその時、私に大切な事を教えてくれました。私にとってとても大切になった宝石のような言葉を」
――大切な言葉……か。
その言葉はよほど愛紗の心に響いたんだろう。あの意地っ張りで素直じゃない愛紗の心を奮わせた言葉とは、いったいどんな言葉だろうか。
愛紗はかすかに身体を震わせながらも、ゆっくりと言葉を紡いでいく。その様子を見ているだけで、愛紗がとてつもなく緊張しているのが分かる。
それにしても、杏子も美月さんも愛紗もだが、相手の男は何でそんなに鈍いんだろうか。彼女達が相手に対してどんなアプローチやコミュニケーションをとっているのかは分からないけど、それでもそれなりの好意を示した行動をしているとは思う。
それでもまったくその好意に気付かないとか、彼女達の想い人はどんだけ鈍いんだろう。まるでラブコメに出てくる主人公みたいじゃないか。
そんな事を思いつつ、これから苦労するだろう三人の事を考えて苦笑いを浮かべ、再び愛紗の話に耳を傾ける。
「私はそれからずっと、その人の事を見続けてきました。普段は抜けてるところも多いし、かなり鈍い人だけど、私はそんな彼が大好きです」
愛紗はそう言うと、ペコリと頭を深く下げた。
それは愛紗の告白の終わりを意味し、ホール内は前の二人と同じ様に大きな拍手と歓声に包まれ、俺もそんな愛紗を見ながら大きく拍手をした。するとその時、ふとこちらを見た愛紗と視線が合わさった。
よく頑張ったという意味を込め、俺は親指を立ててから愛紗へと向ける。
すると愛紗はそれを見て少しだけ微笑むと、次の瞬間には恥ずかしがる様にしてプイッとそっぽを向いてしまった。
――ホント、素直じゃないよな愛紗は。
そんないつもと変わらない愛紗の様子を見た俺は、思わず頬を緩ませてしまった。しかしここで俺がニヤついているのを愛紗に見られたら、後で何を言われるか分からないので、ここは我慢して表情を引き締めておこう。
それにしても、愛紗の好きな相手っていったい誰だろうか。同じ中学の奴なのは確定したけど。まあ、後で愛紗に聞いてみるとするか。素直に答えてくれるとは思えないけど。




