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俺はラブコメがしたいッ!  作者: 珍王まじろ
二年生編・花嫁選抜コンテスト
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告白×杏子

 花嫁選抜コンテストが行われているホールは、恐ろしい程の静寂に包まれていた。それはこれから行われるステージ上の五人の告白を、一言一句を聞き逃すまいとしているからだろう。

 これまでの和やかで楽しげな雰囲気からはがらりと変わり、俺は言い知れない緊張を感じていた。


「さて、では誰からいくかね?」


 ステージ上の五人はお互いに顔を見合わせながら、誰が最初の告白を行うのかを窺っているようだった。


「それじゃあ、私からいきますね」


 他の四人が戸惑っているのを見たからか、杏子が最終審査最初の挑戦者になる事を名乗り出た。

 それにしても杏子は凄いと思う。これだけの人を前にして、物怖じしている様には見えない。

 Aラインのウエディングドレスに身を包んだ杏子が、ステージの真ん中に立てられたスタンドマイクの前まで静かに移動してその前に立つ。


 ――そういえば杏子って、誰か好きな奴が居たのか?


 本人からそんな話を聞いた事は無いけど、果たしてそんな相手が居るのか、兄としては非常に気になる。


「わ、私は…………」


 いきなり言葉に詰まる杏子。俺にはその声が僅かに震えているのが分かった。

 そう。いくら杏子が物怖じしない性格であろうと、これが仮想の告白であろうと、アイツはいつだって何かをやるからには真剣なんだ。緊張しないわけがない。それは杏子を一番近くで見てきた俺が一番よく知っているはずじゃないか。

 杏子は祈りを捧げる乙女の様に胸の前で両手を握り合わせていた。


「頑張れっ! 杏子!」


 気がつけばそう叫んでいた。その声にはっとした様にこちらを向く杏子。

 あんなに縮こまっている杏子を見るのは、兄として忍びない。アイツはのほほんとしていながらも、微笑んでいるのがお似合いなんだ。


「ありがとう、お兄ちゃん」


 杏子の呟いた言葉が、まるで耳元で囁くかのように静かにスピーカーから聞こえた。すると気を取り直したようにして、杏子はいつものにこやかな表情を浮かべる。


 ――うん、それでいい。


「私の好きな人はとっても優しい人で、小さな頃から私をよく気遣ってくれていました」


 ――ほほう……杏子の好きな奴は結構小さな頃から居たのか。それは知らなかった。そうなると俺もそいつを知っている可能性は高いが、杏子の付き合いの広さを考えると、その人物を特定するのはかなり難しそうだな。


「その人は誰にでも優しい困った人ですけど、私はそんな彼が大好きです。でも彼は、私を恋愛対象とは見ていないと思います。それは仕方のない事だとは思っています。私と彼はそういう関係として今までやってきたから」


 話を聞く限りでは複雑な事情の相手のようだ。

 それにしても杏子の奴、そんな相手が居るなら俺に一言くらい相談してくれてもいいのにな。


「でももし、私の中の仕方ないという思いが抑えられなくなったら、その時は彼にはっきりと言おうと思っています。大好きですって。これが今の私にできる、精一杯の告白です」


 そう言ってにこっと微笑むと、杏子は俺に向けてブイサインをしてきた。

 そんな杏子の告白に自然と拍手が沸き起こり、俺も杏子に向けて大きな拍手を送った。


「でもまあ、彼は超が付く程の鈍感さんなので、気付かせるのも大変だとは思いますけどね。普段はガサツなところも多いし、結構無神経なところもあるし、他にも――」


 先程の緊張感溢れる告白から一変、次々と口に出されていく謎の想い人の欠点。そんな杏子の言葉に、ホール内の生徒達からは笑いが溢れ出す。

 てか杏子の奴、自分の好きな相手の事をよくそこまで言えるもんだ。まあ、そういうところを含めての好きって意味なんだろうけど。

 だけど本人に告白をする前には、絶対に俺へ報告をするように言っておこう。相手が俺のお眼鏡に適わなければ、お付き合いは絶対に認めん。兄としてそのあたりはよーく言い聞かせておかないといけない。

 誰とも知れない杏子の意中の相手に敵愾心てきがいしんを燃やしつつ、杏子の告白タイムは終わった。

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