表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺はラブコメがしたいッ!  作者: 珍王まじろ
アナザーエンディング・選択の向こう側~鳴沢杏子編~
283/293

互いの×気持ち

 義妹である杏子からの本気マジの告白を受けた俺は、それをお茶を濁す感じで逃れようとしていた。しかしその事に対して罪悪感もあった俺は、都合良く俺と杏子の様子がおかしい事に気付いた明日香さんにその事を話した。

 未だはっきりと答えが出たわけではないけど、少なくとも明日香さんと話をした事で杏子の気持ちに対して前向きに考えてみようとは思える様になった。

 俺にとって杏子が大事な妹なのは間違い無い。

 でもそれは、最初からそうだったわけじゃない。なにせ俺は、最初こそ杏子の事が苦手だったのだから。

 それでも一緒に暮らす事になるのだからと、俺は一生懸命に杏子を妹として意識しようとしていた。おかげで今ではこうして杏子を可愛い妹として見れる様になったわけだが、杏子が心を開き始めてから最初の二年くらいは一人の異性として杏子を見ていた事が多かったのは間違い無い。

 だから俺の中に杏子の事を妹としてではなく、一人の異性として見る気持ちが完全に無いかと言えば嘘になる。

 明日香さんと話をしてから二日後の夕方。

 俺はいつもの日常を送りつつも、明日香さんに言った様に杏子の気持ちを前向きに受け止めようとしていた。

 そして学園から戻った俺は制服のままでリビングのソファーに寝転がり、杏子の事を色々と考えていた。そしてリビングに設置しているアナログ時計の針がそろそろ十八時を示そうとしていた頃、晩御飯の支度をしていた杏子が俺に話かけて来た。


「お兄ちゃん。白雪姫のご飯を一緒に買いに行かない?」

「もうそんなに少なくなったのか?」

「うん。最近は白雪姫も沢山ご飯を食べるから」

「今が白雪姫の成長期って事か。それじゃあ、太り過ぎない様にご飯の種類も考えなきゃな」

「そうだね。丸々とした白雪姫も可愛いかもだけど、それじゃあ動き辛くなって可哀相だもんね」

「そう言う事だ。よし、それじゃあ俺は着替えて来るから、玄関で待ってろ」

「うん。分かった」


 俺はソファーの上で身体を起こしてから床へ両足を着き、急いで自室へと行ってから服を着替えて杏子と一緒に家を出た。


「段々と夏めいてきてるな。暑さも厳しくなってきてるし、この時間でもまだ街灯が点いてないし」

「そうだね。これからは日傘も必須になってくるよ。お兄ちゃんも入る?」

「そうだな。それじゃあ入れてもらおうか。俺のたまの様な肌に染みでもできたら大変だからな」

「お兄ちゃん、いつからそんな女子高生並に肌に気を遣う様になったの?」

「知らないのか? 最近は男でも大勢が貴婦人並に肌に気を遣ってるんだぜ?」

「知らない事はないけど、肌に気を遣ってるお兄ちゃんなんて何だか気持ち悪いよ」

「失礼なやっちゃな……」

「そんなに肌の事を気にしてるなら、私が毎日全身に日焼け止めを塗ってあげよっか?」

「……遠慮しとく。日焼け止めを塗るついでに全身をくすぐられそうだから」

「さすがはお兄ちゃん。よく分かってるね」


 普段と変わらないくだらない会話。杏子とのいつもの日常。それはどこまでも普通で心地良い。

 だけど杏子がいつもの様に笑顔を見せていると、最近ではそれがとても可愛らしく見える様になっていた。それは妹としての杏子ではなく、一人の女の子としてだ。

 そして兄妹でくだらない会話を繰り広げながらペットショップへと向かい、お目当ての白雪姫用の新しいご飯を買ってから仲良く自宅へと戻った。

 新しく買った白雪姫のご飯はどうやら好評の様で、パクパクと美味しそうに食べていた。そんな白雪姫の様子を俺は杏子と二人で微笑ましく見ていたが、途中で俺が白雪姫を可愛がり過ぎたせいでまた杏子をいじけさせてしまった。


「――お兄ちゃん。起きてる?」


 その日の日付が変わる前。いじけて部屋に戻った杏子が俺の部屋を訪ねて来た。


「起きてるぞ。どうかしたか?」

「入っていい?」

「おう。いいぞ」


 そう答えると杏子は恐る恐ると言った感じで部屋の中に入り、ベッドに寝転がっていた俺の隣に座り込んだ。


「どうしたんだ? こんな時間に」

「話をしに来たんだ」

「話? 何の話だ?」

「色々とね」

「色々ねえ……まあいいや。付き合ってやるよ」

「ありがとう。ねえ、お兄ちゃん。もしかしたらだけどね、白雪姫を引き取ってくれるかもしれない人が居るの」

「えっ? そうなのか?」

「うん。でもね、正直に言って嫌なんだ。白雪姫を渡すのが」


 杏子の言いたい事は分かる。

 まだ飼い始めてから一ヶ月程度ではあるが、俺もそれなりに白雪姫に対して情が移っているから、いざ他人に渡す事が現実味を帯びると寂しい気持ちは出てくる。だが、ここは俺達の気持ちよりも白雪姫の幸せを考えてやるのが筋だろう。


「気持ちは分かるけど、白雪姫が幸せになれる方を選んでやる方がいいんじゃないか?」

「……お兄ちゃんは、白雪姫が私達と一緒じゃ幸せになれないって言うの? 何でそんな事が言えるの?」

「べ、別にそこまでは言ってないだろ? ちゃんと考えて決めればいいって話をしてるだけだし」

「お兄ちゃんはいつもそうだよ。周りの事ばかりを考えて、肝心な所を見てない」

「おいおい、何を怒ってるんだ?」

「怒ってなんかいないよ。ただ、お兄ちゃんが大事な所を見てくれないから悲しいだけ」

「…………それって、この前の告白の事を言ってるのか?」

「……うん」


 杏子は一瞬身体をビクッとさせた後、素直に顔を縦に振った。


「……分かった。それじゃあ良い機会だから、お互いに腹を割って話をしよう。幸いにも明日は休みだし、とことん納得するまで話そうじゃないか」

「……分かったよ。お兄ちゃん」


 こうして俺達はベッドの上で向かい合って座り、お互いに言いたい事を言い合った。

 杏子は俺と出会って心を開いた時から俺を兄として慕いながらも、ずっと一人の男性として俺を見ていた事を話してくれた。そしてそれと同時に、俺を好きな気持ちも十分に吐露した。

 その話を聞いている時は顔が茹で上がりそうなくらいに恥ずかしかったが、おかげで杏子がどんな気持ちでいたのかをよく知る事ができた。それは何よりも良かったと思える。

 そして俺も杏子に対し、自分の気持ちを話した。

 杏子の事をずっと妹として見て接して来てたけど、時には一人の異性として可愛く思っていた事もあった事や、いつかは彼氏ができたりする事を嫌だなと思っていた事など、本当に洗いざらい全てを話した。


「――とまあ、そんな感じだな」

「……お兄ちゃん、顔が真っ赤だよ?」

「お前だって真っ赤じゃないか……」

「「…………」」


 そう言ってお互いに顔を背け合う。

 いくら腹を割って話そうと言ったとは言え、正直ぶっちゃけ過ぎたかなとは思った。しかし、今更そんな事を思ってももう遅い。言った言葉は取り消しようも無いのだから。

 そしてお互いにしばらく沈黙した後、杏子が意を決したかの様にして口を開いた。


「……お兄ちゃん。七月七日はちゃんと空けてる?」

「えっ? あ、ああ。ちゃんと空けてるよ」

「だったらその日に全てを決めよう」

「どういう事だ?」

「これから七夕まではお互いに普通に過ごす。そしてその間にお兄ちゃんは色々と考えて。そして七夕の日にあの時の告白の返事を聞かせて。もしもそれでお兄ちゃんの答えがNOだったら、私はもう二度とお兄ちゃんの事を異性として好きとは言わない。お兄ちゃんが私の事を大事にしてくれているのはよく分かったから」

「……分かった。それでいいよ」

「ありがとう。お兄ちゃん」


 そう言うと杏子はベッドから下り、部屋の出入口へと向かった。

 そして扉を開いてから部屋を出て閉じる寸前、杏子は扉の隙間から顔を出して口を開いた。


「お兄ちゃん」

「何だ?」

「大好きだよ」


 そう言うと杏子はそっと扉を閉じて部屋へと戻って行った。


「ふうっ……七夕までは普通にしてるんじゃなかったのか? アイツは」


 思いがけない不意打ちに、思わずときめいてしまった。しかしその不意打ちにときめいてしまったのも、杏子の話を聞いたからなのは間違い無い。

 杏子の言葉には俺を好きな気持ちが溢れていた。どれだけ俺の事が好きなのかもしっかりと伝わった。だからそんな話を聞かされれば、意識するなと言う方が無理だろう。


「さてさて……それじゃあ、色々と考えさせてもらいますかね」


 俺は電気を消してからベッドに寝そべり、掛け布団を被った。

 杏子の言う七夕までは残り二週間も無いが、今の気持ちの整理をつけるには十分な時間の猶予だろう。

 こうして更に杏子の事を意識する様になった俺は、ここから七夕の日までずっと杏子の事ばかりを考え続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ