告白×可愛い姉妹
深夜にまひるちゃんと電話で話をした日のお昼前。
俺は『まひろへ気持ちを伝えよう作戦』の要となる手紙を持ってまひろの自宅前へとやって来た。
閑静な住宅街にある大きな家。
そんな家へと続く道を閉ざす、大きな外門の門柱に取り付けられた小さな郵便受け。その小さな郵便受けを見た後、俺は神に祈る様な気持ちで持って来ていた手紙をその郵便受けへと入れ、歩んで来た道を戻り始めた。
そう。俺の考えていた作戦とは、手紙を読んだまひろに指定の場所まで来てもらい、そこでまひろからの告白の返事をしようというものだ。
我ながら色々と面倒しい事をしているとは思うけど、恋愛のアプローチは相手やその時の状況によって対応が様々に変化する。故にアプローチは千差万別になるのが当然だ。まあそうは言っても、この手紙を読んでもらうという事が相当に遠まわしな事なのは俺も理解している。
だが、今のまひろは俺との接触を避けているから、直接会って話す事はまずできない。そうなればもう、俺の意志をまひろに伝えるにはこれしか手段が無いわけだ。
しかしそれなら携帯でメッセージを送るのと一緒じゃないかと思われそうだけど、直筆の手紙と携帯のメッセージではその重みがまったく違う。
もちろんまひろが俺の書いた手紙を携帯のメッセージを見ていない様に見なかったら話にならないけど、その辺はちゃんと考えてある。それがさっき言っていた重みの違いだ。
今回は色々と思うところがあって周りに目が行かなくなっているんだろうけど、まひろは基本的に人の事をしっかりと考える事ができる人だから、親友である俺が直筆の手紙を書いたとなればそれを見ないとは思えない。だからきっと、あの手紙を見て俺の前へと来てくれるはず。
しかし、俺の書いた手紙の存在にまひろが気付かれなければ本末転倒だから、そこは保険としてまひるちゃんに協力をお願いしている。後はまひろが俺の手紙を見て指定の場所まで来てくれる事を願うだけだ。
× × × ×
まひろの家の郵便受けに手紙を入れてから二日が経ち、いよいよ運命の日の朝を迎えた。
郵便受けに手紙を入れたあの日からずっと、俺は緊張と不安を抱いていた。まひろがあの手紙を見てくれただろうかとか、見てくれたとしたらどう思っただろうかとか、ちゃんと俺の返事を聞きに来てくれるだろうかとか、そんな事を延々と考え続けていたからだ。
まひろから告白をされた時には、返事をする時にこんなに思い悩み不安になるなんて想像もしていなかった。問題は大して難しい事ではないはずなのに、どうしてこうも難しくなってしまったんだろうか。
タイミング悪く色々な出来事が重なった事が原因なのは分かるけど、それにしたってタイミングが悪過ぎる。なぜこうも狙い済ましたかの様にして色々と悪い事が重なるのか、人生とは本当に何が起こるか分からない。そんな時は本当に全てを投げ出して諦めたくなる時もある。
しかし、それでもこの問題は俺とまひろで解決をしなければいけない。俺もこんな状態でいつまでもいるなんて真っ平ごめんだから。
様々な思いが心の中で渦巻く中、俺は花嵐恋学園の制服に着替えてから家を後にした。
「今日も暑いな……」
時刻はまだ朝の九時半前だと言うのに、既に太陽はじりじりとこちらを焼きつける様に熱い光を放っている。
最近は熱帯夜続きで気温がほとんど下がらずに湿度も高く、そのせいで朝から凄まじい不快感があった。それが証拠にまだ家を出て間もないと言うのに、額には早くも汗が滲み始めていた。
俺はポケットに入れていたハンカチを早速取り出し、それを額にトントンと押し当てる様にして汗を拭う。
こうして滲み出る汗をひたすら拭いながら通学路の途中にあるコンビニへ寄り道をし、そこでちょっとした飲み物と食べ物を買ってから再び花嵐恋学園へと向かい始める。
こうして二十分ほどの時間をかけて花嵐恋学園へと辿り着いた俺は、職員室で制作研究部の部室の鍵を借りてから部室へと向かった。
俺がまひろに宛てた手紙に書いた指定の場所は、花嵐恋学園の屋上。そこで『お昼から学園の閉まる時間まで待っているから』と書いた。
ではなぜこんな朝早くから学園に来て屋上ではなく制作研究部の部室に来たのかと言えば、俺自身が心の準備をしたかったからと言うのと、この制作研究部の部室からならまひろがやって来た事が分かるから、それを見て屋上でスタンバイをすればいいからだ。
そして俺が今回の件で呼び出す場所に学園を指定した最大の理由は、人がほぼ居ないから。我らが制作研究部はまだできたばかりの部活動だから、文化部専用棟に部室が無い。だから現在は本校舎の四階にある一室を使用させてもらっている。
それに人の多い場所だとまひろが余計な緊張をするかもしれないから、まさに呼び出す場所としては打って付けな場所だと言えるだろう。
とりあえず買った商品の入った袋を長机の上に置き、エアコンのスイッチを入れてから簡素なパイプ椅子へと腰を下ろした。
「さてと、後はまひろが来てくれるのを待つだけだな……」
まひろが来てくれる事を前提にそう言葉を放ったものの、肝心のまひろが来てくれるか不安でしょうがない気持ちは隠し切れない。
まひるちゃんにまひろが手紙を見れくれる様にお願いをしておいたから、まひろが手紙を見ていない可能性はかなり低いと思う。
だが、手紙を見たからと言ってまひろが来てくれるかどうかは本人の気持ち次第。そこはもう俺が想像できる範疇を超えているから、あとは情けなくも神頼みをするしかない。なんとも情けない事ではあるけど、人生にはどうしようもない事や、待つしかできない事は多々ある。
そんな事実を言い訳がましく考えながら、コンビニで買った二本のペットボトルのお茶の一つを取り出してそれを一口飲んだ後、俺は室内の壁に取り付けられた丸型のアナログ時計へと視線を移した。
「そろそろ十時になるのか」
まひろが来てくれるかもしれない一番早い時間のお昼まで残り二時間となり、緊張の度合いがやや高まった。まひろがきっちりとお昼にやって来るかどうかは分からないけど、可能性がまったく無いとは言えない。
そんな思いから俺は時間が経っていく度に落ち着きを失い、お昼を迎える頃には室内の窓付近をウロウロしながらずっと外を見ていた。
しかし落ち着き無く室内をウロウロとする不安いっぱいの俺の心境をよそに、お昼を過ぎて十三時を迎えても十四時を迎えても、まひろがやって来る事はなかった。
「はあっ……」
待っても待っても現れないまひろを待ちつつ、窓際に持って来たパイプ椅子に座って大きな溜息を吐く。
まだ学園が閉まる十八時までは時間があるけど、既にその時間の三分の一は過ぎた。残り三分の二の時間で来てくれるのか更に不安が増してしまったけど、今の俺にはまひろが来てくれると信じて待つしか方法は無い。
しかしそれから一時間、二時間、三時間と経ち、学園が閉まる時間の三十分前になっても、まひろがやって来る事はなかった。
「俺の手紙、見てくれてないのかな……それとも、見たけど来ないつもりなのかな……」
部室に居られる時間も残り僅かとなった俺は、やや諦めの気持ちと共に椅子の片付けなどを始めた。
そして部室に居られる時間が残り二十分になった頃にもう一度窓の外を見た瞬間、真後ろにある出入口のドアが勢い良くガラッと開いた。
「龍之介君!!」
勢い良く開いたドアの外に居たのは、息を乱しながら大きく両肩を上下させているまひろだった。
「まひろ!? どうしてここに?」
「はあはあ……十分くらい前に学園に着いて屋上へ行ったら龍之介君が居なかったから、ずっと校舎内を捜してたの。下駄箱には龍之介君の靴がまだあったから」
どうやら俺が片付けで目を離していた間にまひろは来てくれていたらしい。突然のまひろの登場にはかなり驚いたけど、こうして俺の前へと来てくれた事は本当に嬉しく思う。
「そうだったんだ。ごめんな、ここでまひろが来るのを待ってたもんだからさ。ほら、とりあえずこの椅子に座って息を整えるといいよ」
「うん。ありがとう」
「これ、まだ未開封だから飲んでいいよ。さすがに温くはなってるけどさ」
「ありがとう。龍之介君」
一つのパイプ椅子をまひろの方へ向けて差し出すと、まひろは疲れた様子で椅子へと座った。そして俺は未開封のお茶のペットボトルの蓋を開け、それをまひろに手渡した。
まひろはいつもの優しい笑顔を見せながらペットボトルを受け取り、少しずつお茶を飲む。
俺はそんなまひろの様子を見ながらもう一つのパイプ椅子を用意し、それをまひろから少しだけ距離を開けた正面へと置いて座った。
「大丈夫か?」
「う、うん。もう大丈夫。ごめんね、迷惑かけて」
「迷惑なんて事は無いさ。て言うか、まひろから迷惑をかけられた覚えなんて、知り合ってから一つも無いよ」
「そ、そうなの? 私はかなり龍之介君に迷惑をかけてたと思ってたのに……」
「まひろはそう思ってたのかもしれないけど、俺は全然そんな事は無かったよ。本当に」
「でも、私に勇気が無かったせいで今日も来るのがギリギリになっちゃったし……」
「確かに来ないのかなって不安はあったけど、こうして来てくれた今は嬉しい気持ちの方が大きくて、待ってた時間の事なんてどうでもよくなったよ」
「龍之介君……ありがとう」
俺が素直な気持ちを口にすると、まひろは申し訳無さそうにしながらも少し笑顔を見せてそう言った。
そんなまひろの笑顔を見て安心した俺は、今日の目的を果たす為に早速本題を口にする事にした。
「……まひろ。こうして来てくれたって事は、俺の返事を聞きに来てくれたんだよな?」
「う、うん……」
俺の言葉に対して途端に不安げな表情を浮かべながらも、まひろは返事をしながら頭を大きく縦に振った。
それを見た俺は大きな不安を抱きながらもこうして来てくれたまひろに心から感謝をし、まひろの告白への返答を口にしようとした。
「まひろがしてくれた告白の返事だけど、俺はまひろが――」
「ちょっと待って!!」
「えっ?」
「龍之介君からの返事を聞く前に言っておきたい事があるの」
「言っておきたい事?」
「うん」
まひろは短く返事をすると椅子から立ち上がって俺へと近付き、真剣な表情で口を開いた。
「私から告白をして龍之介君にその返事を求めたのに、今まで返事を聞かずに逃げ回ってて本当にごめんなさいっ!!」
まひろはそう口にした後、上半身を大きく前へと傾ける形で頭を下げた。
「いやいや! 今回の件は俺が色々と考え過ぎて返事を長引かせたせいだよ。だからまひろは何も悪くないって」
「ううん。そんな事は無いよ。だって私はちゃんと返事を待つって龍之介君に言ったんだから。だから龍之介君が色々と考える時間を持つのは当然だったんだもん。それを怖くなったからって逃げ出したのは、他の誰でもない私のせいだから……。だからごめんなさい! そして今更だけど、龍之介君の気持ちを私に聞かせて下さいっ!」
力強くそう言ったまひろだが、言葉の強さとは裏腹にその表情は今にも泣きだしてしまいそうな気配すら感じる。
しかし、それは仕方の無い事だと思う。人の気持ちを知ろうとするのは本当に怖い事だから。それは恋愛だろうとそうじゃなかろうと同じだと思う。
だって相手の気持ちを知ってしまえば、もう自分の中で相手の自分に対する思いを誤魔化す事さえ無理なんだから。
とりあえず色々とあって返事がここまで延びてしまったけど、俺の想いを言葉にして伝える事で、まひろを安心させるとしよう。
「まひろ。俺に告白をしてくれてありがとう。正直最初は戸惑いもあったけど、嬉しい気持ちは最初からあったんだ。でも、男として付き合って来たまひろの事とかを考えるとすぐに答えを出せなかった。でもさ、最終的に思ったんだ。まひろとなら何があってもずっと仲良くしていられるって。だから、こんな俺で良かったら恋人になって下さい」
「…………本当? 龍之介君」
「おいおい。俺がこんな時に冗談や嘘を言う奴かどうかなんて、まひろには分かるはずだろ? 伊達に長い付き合いじゃなかったんだからさ」
「うん……うん……分かるよ。だって、ずっとずっと龍之介君を見続けて来たんだから……」
そう言うとまひろの瞳からぽろぽろと涙が零れ始めた。
いつも可愛らしくて優しくて、それでいて弱々しさを感じるまひろだけど、俺の前でこんな風に泣いた事は一度も無かった。どこか弱々しく感じても、まひろはずっと色々な事に耐えていた。それこそ泣き言も言わず、涙を見せる事も無く。
そう考えると、まひろは俺の知っている人達の中でも実は一番強い人なのかもしれない。そんなまひろがこうして俺の前で涙を零している。それがなぜかとても愛おしく感じてしまう。
俺は自然とまひろへ歩み寄り、その頭を撫でていた。
「まひろ。今までも色々とあったし、これからも色々な事があると思うけど、よろしくな」
「うん……私こそ、よろしくお願いします。龍之介君……」
そう言うとまひろは感極まったのか、俺に思いっきり飛びついて両手を背中へと回し、俺の胸の中でしばらく涙を流し続けた。きっと自分の中にあった不安とか色々なものが一気に解消され、その反動で感情が制御できなくなったんだろう。
こうして俺の『まひろへ気持ちを伝えよう作戦』は終了し、まひろとの告白騒動は無事に幕を閉じた。
× × × ×
八月も中旬を過ぎ、制作研究部の最初の関門である夏のコミックマーケットも無事に終わった。
俺達の出した恋愛シュミレーションゲームの体験版の反応がどういったものになるのかは、これから徐々に分かっていくだろう。どんな意見や感想が来るかは分からないけど、それを元にまた冬コミに向けて頑張らなければいけない。
とりあえず夏休みが終了する二週間後までは制作研究部の活動も無いから、今の内に高校最後の夏休みを堪能しておこうと思っている。
と言うわけで俺は今日、残り少ない夏休みをエンジョイする為に、水族館海世界の最寄り駅の改札前でまひろと待ち合わせをしていた。
まひろからの告白の返事をして以降、夏コミに向けての準備でお互いに忙しかったから、これがまひろと恋人になってからの初デートと言う事になる。
「約束の時間まであと五分か……」
十五分くらい前に改札口前へと着いた俺は、改札を抜けて来る人達の中にまひろが居ないかを確かめながらドキドキとしていた。
今日は記念すべきまひろとの初デート。昨日の夜もかなり早目に寝たから、体調も気合も十分だ。
しかしまひろとの水族館デートが楽しみ過ぎて、ワクワクする気持ちと緊張が隠せない。
そんな気持ちでまひろの到着を今か今かと待っていると、人混みの中に白のワンピースを着て麦わら帽子を被っている可愛らしいまひろの姿を見つけた。
「おーいっ! まひろー!」
俺がやって来たまひろに向けて声を出しながら右手を上げて手を振ると、それに気付いたまひろは駆け出す様にして俺の方へとやって来た。
「待たせしてしまってごめんなさいっ!」
「いやいや。別に遅刻したわけじゃないんだから、謝らなくていいよ」
「でも、待たせていたのは事実だから……」
「大丈夫だって。それよりもそのワンピース、とっても似合ってるよ。まひろ」
「本当? どこか可笑しかったりしないかな?」
「大丈夫大丈夫! どこからどう見てもまひろは可愛らしい女の子にしか見えないから」
「そ、それは言い過ぎだと思うけど、ありがとね、龍之介君。それじゃあ行きましょう」
「おうっ!」
俺が左手をスッと差し出すと、まひろはその手を優しく握った。
まひろの告白に返事をして以降、二人で居る時にはこうして手を繋ぐ様になった。今でもこうして手を繋ぐ事に恥ずかしさはあるけど、それも最初ほどではない。むしろ今は、まひろとずっとこうしていたいと思えるくらいに幸せを感じる。
心地良い手の感触と温かさを感じながらまひろが差す日傘に一緒に入って海世界へと向かい、俺達は海世界の中で存分に水族館デートを楽しみ始めた。
「見て見て、龍之介君。ラッコさんが泳いでるよ」
「おっ、本当だ。いつもは陸地に上がってる事が多いのに」
「あっ! こっちに来た!」
「まひろが可愛いから寄って来たんじゃないか?」
「も、もう……あんまり恥ずかしい事を言わないでよ……龍之介君のバカ」
「ははっ。そんなに照れなくてもいいんじゃないか? 本当の事だし」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、言われたら龍之介君の顔を見れなくなるからダメ」
「分かったよ。それじゃあ、また後で言う事にしよう」
「もう、龍之介君の意地悪」
甘々な雰囲気がどこかくすぐったく、それでいて心地良く感じる。
そんなどこか夢見心地とも言える様な気分でまひろとの初デートは進み、あっと言う間に水族館の閉園時間を迎えてしまった。
「まひろ。時間が大丈夫なら少し海を見ていかないか?」
「うん。大丈夫だよ」
時刻は十八時を少し過ぎたところ。冬場なら既に真っ暗になっている時間帯だが、夏真っ盛りの今はこの時間でもかなり明るい。
俺達は海世界を後にし、すぐ近くにある海の方へと歩いた。
「まだ明るいから海がキラキラしてるね」
「そうだな。これも夏ならではって事だろうけど、来て良かったよ」
「うん。私もそう思う」
まひろの差す日傘に一緒に入ったまましばらく海を眺めていると、突然まひろがクスクスと小さく笑い声を漏らした。
「どうかしたの?」
「あっ、うん。ちょっと昨日まひるとしてたやり取りを思い出したから」
「まひるちゃんと? どんなやり取りをしてたの?」
「ん? 簡単に言うとね、まひるから宣戦布告をされたの」
「えっ!? 宣戦布告!?」
「そう。宣戦布告」
言葉だけを聞けばどうにも穏やかではない。それにもかかわらず、まひろはにこやかな笑顔を浮かべたままだ。
「いったい何があったの?」
「うーん……私から話すのもどうかと思うから、まひるに聞いてみて」
そう言うとまひろは静かに目を閉じた。そして数秒も経たない内に目を開けると、纏っていた雰囲気がスッと変わった気がした。
「お久しぶりです。お兄ちゃん」
「久しぶり、まひるちゃん。それで、まひろが言ってた事って何なの?」
「それはですねえ、私はお兄ちゃんの事が大好きなので、油断をしてると私がお姉ちゃんからお兄ちゃんを取っちゃうよ? って話をしたんです」
「ええっ!?」
「だって私はお姉ちゃんの心から生まれたんですよ? だったら私がお兄ちゃんを大好きになったっておかしくはないでしょ?」
「そりゃあそうかもしれないけど……」
――ここへ来て姉妹が俺を取り合うってか? どんなラブコメ展開だ。
「と言うわけでお姉ちゃんが油断をしない様に、お兄ちゃんがしっかりとお姉ちゃんを捕まえておいて下さいね?」
「……なるほど、そう言う事か。分かったよ、まひるちゃん」
「ありがとうございます。それとお兄ちゃん、一つだけ聞きたいんですけど、もしもお姉ちゃんじゃなくて私がまひろだったら、お兄ちゃんは私の事を好きになってくれましたか?」
その質問にどんな意味があるのかは分からない。でも、俺の返答は決まっている。
「うん。もちろん好きになってたよ。まひるちゃんはとっても可愛らしくて素敵な女の子だから」
「……ありがとうございます。お兄ちゃん。その言葉が聞けて嬉しかったです。それじゃあ、お姉ちゃんに代わりますね」
「うん。またね」
「龍之介君。私の妹の告白はどうだった?」
「正直グッときたね。まひろとはまた違った可愛さがあるから、心を平静に保つのが大変だったよ」
「ふふっ。悔しいけど私もそう思う。まひるは本当に可愛らしいから。でも、いくら可愛い妹でも、龍之介君だけは渡さないんだから」
「ははっ。凄い気合だな」
「当たり前だよ。だって龍之介君は、私がずっと憧れて想い続けて来た大切な人なんだから。だから誰にも渡したりはしないんだからっ!」
そう言うとまひろは俺の左腕を右手でギュッと抱き包んだ。
そんなまひろの明るく可愛らしい笑顔を見ながら、俺は心の中いっぱいに幸せを感じていた。
アナザーエンディング・涼風まひろ編~Fin~




