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俺はラブコメがしたいッ!  作者: 珍王まじろ
一年生編・二学期修学旅行
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思い×想い

 渡の秘蔵写真市から多目的ホールへと戻って来た俺は、再び他の写真を見始めていた。色々と写真を吟味したいところだけど、予算的にも時間的にも余裕が無いので相当に困っている。

 それというのも、写真市を簡単に抜けさせてくれない渡を振り切る為に渡の厳選お勧めセットなる物を買わされたからだ。

 当人曰く、その人に最もお勧めの厳選写真が入っている――との事だが、説明の内容と商品名が同じ意味合いじゃねーか。


「あっ、龍ちゃーん!」


 後ろの方から名前を呼ばれてそちらを振り返ると、そこには元気にこちらへと駆け寄って来る茜の姿があった。

 その声音こわねから察するに、茜も写真選びにテンションが上がっているのだろう。


「楽しそうだな」

「うん! だって欲しい写真が沢山あるんだもん!」


 茜が手に持っている注文書が見える。その数は既に四枚を超えている様に見えた。


 ――こいつも美月さん同様すげーな。


「そんなに沢山買って予算は大丈夫なのか?」

「うーん……正直ちょっときついけど、せっかくの思い出だから」


 少し苦笑いを浮かべた後、茜は注文書を見て微笑んだ。

 まあその気持ちは分かる。楽しかった思い出の写真、それを沢山持っておきたいと思うのは誰でも同じだろうからな。


「龍ちゃんはどれくらい買うの?」

「俺はまだこれくらいだな」


 そう言って注文書を茜に差し出したのだが、手渡した後で俺は致命的なミスに気付いた。


 ――しまった……あのリストには美月さんの単独写真番号があったんだ。


 もしもそれに茜が気付いたら、いったい何を言われるか分からない。

 茜がその番号に気付かない事を願いつつ、平静を装って様子を見る。


「――本当に少ないね。あれっ? 何でここらへんだけボールペンで書いてるの?」


 ――そういう攻め方で来たか……さて、どうやって誤魔化そうか。


 頭の中に居る沢山の脳内友達と話し合いながら、この難局を乗り切る為に知恵を絞る。


「い、いや、たまたまシャープペンの芯が無くなってさ、持ってるのがボールペンしかなかったんだよ」


 残念ながら沢山の脳内友達と話し合いをしても、この程度の答えしかでなかった。我ながら泣きたくなる。


「ふうーん、そうなんだ。でもさ、龍ちゃんてこんな可愛らしい文字書いてたっけ?」


 ――ちっ、妙なところを指摘してきやがるな。これは切り抜けるのが大変そうだ。


「ボールペンで書くとそういう感じになるんだよ。ほら、筆が違うと字の雰囲気が変わるって言うだろ?」

「うーん……そうかなあ?」


 どうにもに落ちないと言った感じのいぶかしげな表情を浮かべ、しきりに首を傾げて唸る茜。


「あれっ? この番号どこかで……」


 ボソッと呟いた茜の言葉に思わず身体がビクッと跳ねる。

 まさか気付かれたんじゃないだろうかと心臓の鼓動が早くなり、心拍数が上がっていくのが分かる。そしてそれに伴い手の平には汗をかき始めていた。


「――ああ、なるほど。そういう事か……」

「ちょ、ちょっと茜さん?」


 茜は小さくそう呟くと、おもむろにペンケースからボールペンを取り出して俺の注文書に番号を書き込み始めた。


「はいこれ! その番号、消したら駄目だからねっ!」


 茜は一言そう言い残すと、他の写真が展示されている場所へと向かって行った。


 ――美月さんといい、茜といい、いったい何をしてるんだ? 最近は相手の注文書に勝手に番号を書き込むのが流行ってるのか?


「あっ、ここに居たんだ」

「おおまひろ。今までどこに行ってたんだ?」

「えっ? いや、ちょっとね」


 少しだけ顔を紅くしてそう答えるまひろ。そんな様子を見ていると、ある一つの想像が頭に浮かぶ。


「もしかしてお前、前に言ってた好きな子の写真でも見に行ってたのか?」

「えっ!?」


 まひろの顔が更に紅く染まっていく。そんな言葉一つでこんなになるんだから分かりやすい奴だ。

 そしてそんなところも超絶可愛いから困る。


「いったい誰の写真を買うんだ? お兄さんに番号を見せてみなさいな」

「だっ、ダメだよ!?」


 注文書を隠す様に抱き締め、必死に見せないように抵抗する。


 ――くそー! 超可愛いなっ!


「冗談だよ。無理やり見たりしないから安心しろ」


 その言葉にほっとしたのか、まひろは注文書を抱き締めていた手の力を緩めた。本当に可愛い奴だな。


「龍之介はもう写真は選び終わったの?」

「いや、渡の写真市に連れて行かれてたせいでまだ途中だ」

「あっ、龍之介も連れて行かれたんだ」

「えっ? まひろも連れて行かれてたのか?」

「うん」


 少し苦笑いしながらそう答えるまひろ。

 それにしても渡の奴は見境無しに写真市へと人を引きずり込んでいるのだろうか。


「でもさ、写真はなかなか良かったんだけど、アイツの写真市は値段が法外過ぎるんだよな」

「えっ? そうなの? ここの写真より安かったけど」

「マジか? まひろも写真を買ったのか?」

「う、うん。何枚か買わせてもらったよ。渡くん結構強引だったし」


 ――何だとっ!? 渡の奴、まひろに強引に迫ったのか? 許せん! よし、アイツは後でくすぐりの刑だな!


 心の中で渡に対する私刑の段取りを取り決める。

 それにしても、まひろがここより安かったと言っていたが、いったいどういう事だろうか。


「あのさ、ちょっと聞きたいんだが、買った写真は一枚いくらだった?」

「えっ? 一枚30円だったけど」

「はあっ!?」


 ――渡の奴、俺には特価で200円とか言ってたくせに、まひろには一枚30円だと? 確かアイツ、男子は500円、女子は50円って言ってたよな……それなのにまひろには女子よりも更に20円安いってどういう事だよ……。くそっ、この件に関しては後でじっくりと締め上げてやろう。


「……まあいいや。とりあえず時間もないし、急いで残りを見て回ろうぜ」

「うん、そうだね」


 とりあえず気を取り直して再びまひろと一緒に写真を見て回る。

 色々と欲しい写真があって購入を迷いもしたけど、茜が言っていたようにこれは思い出の購入なんだから、ケチケチせずに思い切って欲しい写真は買っておこう。


× × × ×


「結構注文しちまったな……」


 多目的ホールでの写真選びも終わり、俺はやたらと軽くなった財布の中を見ながら帰路を歩いている。

 写真の購入代金は当初予定していた金額を遥かに上回ってしまった。その原因は茜と美月さんの書いた番号の写真と、渡の写真市で買わされた写真セットのせいだ。


「今月は厳しいな……」


 漫画やアニメで見る天使の羽の如く、凄まじく軽くなった財布をズボンの後ろポケットにしまいながら大きく溜息を吐く。


「そういえば……」


 渡から押し売りされた写真セットの中身を見てなかった事を思い出した俺は、鞄に入れていた少し大きめの茶封筒を取り出した。

 丁寧にのり付けされた開封部分をペリペリと剥いで中にある写真を取り出す。


「なっ、何だコレ!?」


 封筒から取り出したそれぞれの写真には、美月さん、茜、まひろが単独で写っている写真が入っていた。

 しかもご丁寧な事に、バスでの寝顔から食事中の楽しそうな笑顔の写真まで、それぞれの人物が複数のセットになって入っている。


「アイツ、いつの間にこんなのを撮ってたんだ?」


 もう他に写真が入ってないかと封筒の中身を覗くと、一枚の紙切れが奥に貼り付く様に入っているのが見え、その紙を取り出して見た。

 するとそこには、“お前を見ている美少女達の厳選セットだ。俺に感謝しろよな。龍之介”――と書かれていた。

 渡を相手にしていると多々思う事だが、さっぱり意味が分からん。

 でもまあ、確かにどれも良い写真ではある。だけどこんな物を持っていると茜達にバレたらどうすんだよ。

 それに渡は決定的に間違っている事が一つある。確かに美少女セットかもしれんが、まひろは女じゃないからな。


「やれやれ……この写真は別の場所に封印だな」


 この写真をどこに隠そうかと悩みつつ、家へと帰る足を進めて行く。

 そういえば俺のアホ面寝顔写真を買った人物が居たと渡は言っていたけど、それはいったい誰だったんだろうか。

 渡に聞いても『プライバシーがあるからな』と言って教えてはくれなかったし。まあ分からない事をこれ以上考えても仕方ないだろう。

 それに俺達には次のイベントである文化祭が控えている。高校初の文化祭だし、どういう事になるのか今から楽しみだ。

 今度こそ、俺にラブコメの神様が舞い下りて来る事を願いたい。

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